第4話 霊能者の九十三-2

 結局、不動産屋の斎藤さんと大家の石井さんと一緒に、九十三つくみは人の居つかない204号室へと足を踏み入れた。


 2LDKの角部屋で、玄関を入ったらお手洗いやお風呂といった水回り、正面の扉の向こうがリビングダイニングになっていて、その両側に洋室があるというタイプだった。キャットタワーはリビングダイニングに設置されている。作り付けのカウンターキッチンにちらりと視線をやるけれど、何も見えない。


「何かの気配は、するんですけれどね」


 不動産屋の斎藤さんと大家の石井さんはそっと顔を見合わせた。やはり何かいるのだろうか。この辺だって、確かに古い土地ではあるけれど、いや古い土地という意味なら、日本全土がそうではあるのだが。


 九十三はまず奥の部屋を覗いた。何も置いていない洋室だ。それはまあそうだろう。今は誰も暮らしていないのだし。ここではない。


 もう一つの洋室も覗く。同じように、これといって何かがあるわけでもない。ここも違う。


 通ってきたリビングダイニングでもない。念のためキッチンカウンターの辺りを覗いてみるけれど、そこに何かがいる、ということもなく。


「お部屋を出ていかれる方々に、何か共通点はありますか?」


 あったら最初に話が来た際に言っているだろうな、と思いつつ、九十三は所在無げに同行している不動産屋の斎藤さんと大家の石井さんに声をかけた。


 二人は顔を見合わせて、それから首をかしげる。


「皆さん、問題も特になくて。ただ本当に、急に、引越しになるだけで」


 不動産屋の斎藤さんと大家の石井さんの体感としては、意図しない急な引越しに見舞われる、だ。


 皆さん恐縮しきりで、特に暮らしていて問題なども感じていなかったという。ようやくいい家を見つけて、近くに動物病院もあって、マンションの住民も仲がいいから、いろいろ相談にも乗って貰っていて。と。


「ああ、いた」


 それは風呂場にいた。


 薄桃色の女性が、浴槽に膝を抱えて座っている。特にこちらに対して敵対心があるわけではないようだけれど。


「え、どこにいますか」


 不動産屋の斎藤さんがお風呂場を覗き込んだら、その薄桃色の靄が、ぶわっと大きくなった。


 これは、人間がどうにかできる類のものではない。ヒトの残留思念とか、そういった類ではない。


 大家の石井さんを呼んで、斎藤さんにお風呂場から出て貰ったところ、薄桃色の影は女性の形に戻った。


「もしかしてこれまでの居住者、男性だったのでは?」

「そういう訳では」

「女性の一人暮らしでも、途中で恋人が出来て、男性がお風呂場に入るようになったりとか」

「そこに、共通点が……?」


 ごくり、と、二人ともつばを飲み込んだ。

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