第23話 光る刃
「小畑君、もういいよ!」社長の声が聞こえた。
――うまくできた?!
そう思って、勢いよく気をつけに戻る。
すると、長身男と小太り男が笑い出した。
――なんでウケてるの?
「すみません。人前は慣れてなくて」社長が苦笑いを浮かべている。
「いいじゃないですか、ねえ」黒縁眼鏡の女性はそう言いながら僕の方を見た。
すると、長身男と小太り男は口をつぐんで、横目で女性を見た。
女性は一歩前に出て、僕の前に来た。
「お若いのに匠の技を持っているなんてすごいですね。日本の製造業が世界で注目されるのも、こうして匠の技が伝承されてこそです」
女性は社長を見た。
「そう言っていただけますと、光栄です」社長は頭をさげた。
女性は僕の横に立ち、ちらっと僕の手を見た。
「ただ一つ、さっきから気になっていたんだけど、この手はどうしたの?」
彼女は僕の手首を目の高さまで持ち上げた。
僕は彼女の目を見たが、責めているのか、慰めてくれているのか分からない。
ふと見ると、社長は慌てて手を前に伸ばしていた。
「こ、転んだだけです!だ、大丈夫っす!」
僕は叫び、彼女の手を振りほどくと、サポーターを外した。
彼女は驚き目を見開いた。
僕はその目の前で指を動かして見せた。――皮膚の奥で骨が軋み、電流が走る。目をつぶりたい、声も出したい。でも、奥歯を食いしばる。
横目に、試すように見つめる彼女の瞳が映る。
「そう。良かったわ。では早速だけど、匠の技を見せていただこうかしら」彼女の言葉には、ほんの少し含みが混じった。
「はい!」負けまいと自分に言い聞かす。
いける。大丈夫だ。いける――そう言い聞かす。
サッとクロクマに向き合う。
三人は僕のうしろに移動した。
見られている。
――やらなくちゃ。認めてもらいたい。だから……。
目をつむり、頭に手順を描く。
――何もない。頭の中が白く染まっている。
振り払おうとノートを思い描くが――出てこない。
「大丈夫?」
気づくと社長が横にいて、すがるように僕を見つめている。
僕はクロクマを見つめ、心の中で言葉を漏らした。
小夜子さん、どうしよう……。
【シリーズ小説】うしろの小夜子 1 光る刃 小松 煌平 @kohei_novels
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