第22話 光る刃

 車で出迎えに行った社長が戻ると、後ろの席から三人のお客さんが降りてきた。

一人は女性で、白髪の混ざった髪を後ろで結び、やけに大きな黒縁眼鏡をかけていた。後の二人は男性で、一人はやせ型の長身。やけに顔が長い。もう一人は小太りな男で、薄い髪の毛が汗ばんだ額に乱雑に張り付いていた。

 社長が工場の中へと手招きすると、女性が先を歩き、長身男と小太り男が後に続いた。

 社長が工場を紹介しているのを、僕はクロクマのそばで見つめていた。

三人ともスーツを着ており、別世界の人のように見えた。

けれども、説明しながら彼らを頷かせる社長の姿は、いつもより大きく見えた。

 スーッと上村さんが近づいてきた。

「どうしたんだよ、その手」

「ちょ、ちょっと」僕は横目で上村さんを見た。

「そんな手で調整なんかできんのかよ。失敗したら大変だぞ。ここにいられなくなるかもな」 

ニタニタと笑いながら、上村さんは僕の右手をめいっぱい鷲掴みにした。

「イタッ」あまりの痛みに思わず声が出た。

手を押さえながらゆっくり瞼を開ける。

お客さんたちは気づかぬ様子で説明を聞いていた。

「まあ、せいぜい頑張るんだな。じゃあな。バイ、バイ」僕の様子ににんまりと笑い、上村さんは自分の持ち場に戻った。

結局、失敗すると大変という言葉が僕の頭にしこりとなり、緊張で血の気が引くのを感じた。


「どうぞ、こちらへ」社長が手招きすると、三人はクロクマの前に並んだ。

僕はその横で、直立不動で三人を迎えた。

「えー、こちらが試作で使った機械になります。製造もこれで行う予定です」社長は機械を紹介した。

「随分と古い機械ですね」

長身男が機械に顔を近づけ、じろじろと見回す。

「古いですが、現役です」社長はきっぱりと言った。

「綺麗に磨かれてはいるようですが、本当に大丈夫ですか?耐用年数はとっくに超えているように見えますが」

長身男はクロクマから目を離して社長を見つめた。

「これでよく精度を出しましたね。最新のマシンでも歩留まりが悪くてコストが合わないと言われたのですよ」

小太り男がすかさず畳みかける。

「お疑いかもしれませんが、この機械はまったくの現役です。それに、うちには職人がいますから大丈夫です」社長は必死にそう言い、僕を一瞥した。

「匠の技、ということですね。ところで、こちらがその職人さんですか?――随分とお若いようですが」長身男の言葉は、母がたまに真似ていた『インテリさん』の言葉に聞こえた。

――挨拶しなきゃ!そう思い、

「いらっしゃいませ!」と深く腰を曲げて叫んだ。

それは、ずっと頭に描いていた挨拶だった。

「え、え」長身男は僕の態度に驚いたように言葉を漏らした。

「まあ、ずいぶんと礼儀正しい工員さんね」そのわきで、黒縁眼鏡の女性は楽しそうに笑った。

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