第5話 出会い
次の週末、近くの食堂に晩御飯を食べに行った。
その食堂は様々な総菜が並び、選んだ皿にご飯とみそ汁を合わせて定食を作る。
いわゆる昔ながらの『めしや』だ。
店のおばちゃんは気さくで、レジに行くとよく声をかけてくれる。
鯖の塩焼きをお盆に乗せ、おばちゃんに差し出す。
「まだ、あそこに住んでるのかい」
「ええ」
「そうかい。気に入られたんだね」
「何に?」
「いいや、何にも。たくさん食べな」
そう言ってご飯を大盛りにしてくれた。
テレビを眺めながら食べていると、隣に少し変わった男が座った。
「同じだね」男はそう言い、テーブルの上のお盆を見せた。
男は細い目を黒縁眼鏡から覗かせ、親し気に話しかけてきた。
太った身体に、ぴちぴちの宇宙人がプリントされた黒いティーシャツが、僕を思わず警戒させる。
「そ、そうですね」
僕の声は震えていた。
「ここの料理、美味しいね」男は咀嚼しながら、楽しそうに笑った。
「え、ええ」
何を話せばいいのか分からす、男を横目でじっと見つめた。
男は、何事もなかったかのように鯖に嚙みついている。
もういいかな――と鯖にゆっくりと箸を延ばした瞬間、
「中村ハイツ」と男が呟いた。
僕は思わず手を引いた。
ゆっくりと男を見ると、僅かに見開いた細い目が、じっとこちらを見据えている。
「そこに住んでいるんだよね」
僕は思わず頷いてしまった。
「何号室?」
それにも、答えてしまう。
男の顔は喜色ばみ、そのまま僕に近づけた。
「話を聞かせてよお。ね、ね。早く食べてお茶に行こう!いいや、お酒が良ければそれでもいいよ。早く食べて!」
男は残った鯖を丸ごと口に放り込むとご飯を掻っ込み、そして、みそ汁で流し込んだ。
僕は固唾を飲んで、それを見守った。
「どうしたの。食べないの。だったらもういいね。さあ、出よう!」
引き摺られるようにして店から出ると、近くの喫茶店に連れ込まれた。
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