微笑む牙
イオリ⚖️
第1話 軋めく蝶
――――森の狼は森から離れないなんて、誰が決めた?
日の光がほの青くにじむ、
その上を真っ赤な裾がひらりとなびいた。
薄暗い森では恐ろしく不似合いな、鮮烈な赤だ。
すらりと高い背、しっかりした足取り。若い男だろうか。
一度迷えば二度と引き返せない森。人間の寄りつかぬ、呪いの地。
そんな忌避される場所でも、太陽に愛された空間がある。青年はそこを目指していた。
土を押し上げて割り、露わに盛り上がった大樹の根を
樹木のひしめく森で唯一、ぽっかり開いた草地。周りを
空の光に見出され、若草は本来の魅力を取り戻した。零れた朝露が新緑をより明るくする。他では見られない野花がとりどりの色合いを競い合い、涼風でぷつりと外れた花びらが青年の足元へすがった。
秘密の花園。かつては彼だけが知っていた。春はどんな草花を咲かせるか、夏にはどれほど豊かな果実がたわむか、暮れなずむ秋の空に密やかに響く虫の声がいかに
それを彼は教えたのだ。ここで出会った、あの日の少女に。
――――どうすれば戻ってきてくれるだろう。
赤いずきんに
深い
――――ああ、そうか。
青年の唇がにやりと歪んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます