第38話 狂人喰種
それは、アジア的な白い肌の美少女だった。
歳の頃は十代後半くらいか。世が世ならJKと言えるだろう、若く美しい年齢。
髪色は烏羽のように緑か、青か。いや、黒ではあるのだが、光の加減によって鮮やかな色に見える。とても綺麗だ。
顔つきも利発そうでありながらも活発な感じで、大きな瞳は好奇心の表れのようで、好感が持てるな。
しかし。
血色に染まった赤い瞳。
血に飢えた狂笑。
人間のそれとは違う鋭い牙が、紅色の唇から覗く。
そして極め付けに、白の着物を鮮血で赤く染めた、どっからどう見ても完全に気狂いな外見が玉に瑕……といった感じだった。
それはいきなり、東方文化圏の言葉を発しながら発狂して、刀……日本刀、大太刀と呼ばれる種のものを構えてこちらに突撃してきた!
「なっ、なんだこいつ?!??!!」
たまげるモコターン。
当然、避けていく。
だがそんなモコターンに……。
「劔辺流……、鬼哭!!!!」
……おい、それは。
こいつは知らん。
誰なのか知らんが、それは知っているぞ。
「アストレア・オデッセイ」の最強キャラ、個人にして一軍に匹敵する作中最強の存在……、『剣聖』こと、ケン・ツルギベの技!
「鬼哭」……、イカれた性能だ。
物理キャラの癖に、多少の溜めがあるだけで、ノーコストで広範囲遠隔攻撃を放つ!光の斬撃波!
「うっ、うわあああ!!!」
避けて通り過ぎようとしたモコターン共は、馬ごと断ち斬られて死んでいった……。
「なんだか分からんが……、いきなり斬られて黙っていられるか!やれ!やれーっ!」
モコターン共は応戦するが……、気狂い侍女はそれをいなし、たった一人で軍団に対応していた。
強い、あまりにも。
ううん……、殺すのは惜しいな。
それに、こんなことで貴重なモコターン騎兵を殺すのもよくない。
となると……。
「ザンガンデリンス!」
「ザンガンデリンスはここにいる」
「ザンガンデリンス、あの女を叩きのめせ!」
「ザンガンデリンスは強い、女を倒す」
「おお、おお、おお!鬼!鬼!鬼にござるか!鬼斬りとは誉れにござる!!!!」
「ザンガンデリンスは強い、お前を叩きのめす」
「拙者の名は劔辺禍那多!侍にござる!」
「私の名前はザンガンデリンス、オーク族最強の戦士!」
「さあ、さあ、さあ!!!勝負、勝負、勝負勝負勝負勝負勝負勝負ゥうう〜〜〜ッ!!!!!!」
うーん……、どうなるかな。
ザンガンデリンスは、強い。
強いが……、アレに勝てるか?
劔辺と名乗った……、よな?
『剣聖』の血脈……、なんだろうな。
東方、刀一本でドラゴンをも殺す、伝説的な剣士。
その流派を継ぐ者は、「劔辺」の姓を名乗るという。なんかそんな設定があったはずだ。
ただ……、あれは、「劔辺」なのか?
「あああははははは!!!!ははははははは!!!!」
人の動きじゃない。
人間では、腱や骨を痛めてしまうような無理な挙動、急制動や身体の捻り。そんなものをふんだんに取り込んだ、「人外」の剣術。
例えば、刀を振り下ろした時に、伸び切った腱を動かすため、腰の動きでブレーキをかける。
地面スレスレに踏み込み、崩れた体勢は剣先や拳で地面を叩いて、その反動で支える。
そして、頭部への攻撃は、顔を向けて歯で弾いている。
……少なからず剣術を齧っている俺が言うが、アレはまともじゃない。
あんなものが、「剣術」であるものか。
獣の身体で剣術の動きを取り入れた殺人術を行う……みたいな感じだ。
最高の剣士「劔辺」を名乗る癖に、その動きは剣術ですらない。これはおかしい。
で……、対するは、ザンガンデリンス。
「お、オオオオッ!!!!」
しっかりとしたプレートアーマー、使う武器は総金属製のハルバード。
これは、オークメタル製の鎧で、ワルバッド領オーク重装兵の装備だ。
オーク重装兵の鎧は凄いぞ、フルプレートアーマーで、人間用のそれの三倍の分厚さだ。
この厚さだと、特にエンチャントなどをせずとも、クロスボウのボルトを弾き返すほどの防御力がある。
人間用のフルプレートアーマーは、クロスボウのボルトに貫かれてしまうのだが……、オーク重装兵はそうはならない。
そして、三倍厚い鎧の重さは三倍ではきかず、本体の重さを合わせると、300kg足らずくらいになる。
想像してみろ。一人300kgはある、鋼鉄の硬さの筋肉の塊が、総鉄製のポールウェポンを掲げて、大盾を構えて突っ込んでくる!
これほどの重さになってくると騎兵でも蹴散らすことはできず、歩兵は踏み潰されて終わりだ。弓どころか、弩も効かない。
唯一の弱点は、オークは人間の三倍食うし三倍飲むことだが……、俺は金持ちなんでね。問題ない。
そんな重装備のザンガンデリンスは、更に……、「武術」を扱うのだ。
無窮の武練によって繰り出される槍、剣、盾の技。
知性、魔力、腕力、体格。全てにおいて恵まれた、ハイ・オークのザンガンデリンス。
生まれて数日で、乳母の乳を握り潰して引きちぎったほどの怪物的膂力を持つザンガンデリンスは……、こう見えて、努力で武を積み、技巧で戦うタイプだった。
ザンガンデリンスは、生まれ持った力の時点で既に最強だったのだから、力ではなく、生涯の全てを「技」の方に捧げたのだ。
そんな彼女の技巧は、恐ろしいの一言だよ。
ただでさえ、この膂力。
あのハルバードの一撃、掠っただけでも骨が砕ける威力のそれを、人間の達人のように術理に基づいて振るう。
怪物の破壊力は、研ぎ澄まされ、指向性を持ち、定められた敵を貫くのだ。
怪物として生まれながらも、人としての「武」を振るうザンガンデリンスは……、人の形をしている癖に、人の流派を名乗る癖に、人の挙動をしていないバケモノの剣を振るう侍女の、鏡写しのようだった。
そしてその実力は……?
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