佐野の文書データ:抜粋1

『例えば蟹とかでも』


蟹って痛覚があるらしいんですよ。

でも蟹って自切するじゃないですか。これって痛くないんですかね。まだ生物学的には答えって出てないらしいんですけど。


じゃあ仮に自切する際に痛みを感じるとして、

でもひとくちに「痛み」って言っても色々あるじゃないですか。


例えば、マッサージに付随する痛みって好意的に捉えられるし、一方で太腿を切断される痛みなんていうのは想像するだけで不快じゃないですか。

そしたら、蟹の自切っていうのも「痛気持ちいい」かもしれないですよね。


だって蟹が自切する時って、例えば天敵に襲われて逃げる為だとかで、いわば「解脱」じゃないですか。


そもそも蟹にとって「痛み」が苦痛であるかも分からないじゃないですか。

だって「痛み」=「無くすべき」なんてのは人間基準、少なくとも私基準の考えであって


——あぁ、そっか。別に蟹だからどうじゃないか。


私が「痛み」を苦しみと捉えてるだけで、マゾヒストの皆さんにとっては悦びですもんね。


なんでこんなに、生物の——というか人間に絞っても——感覚って画一化できないんでしょう。


まぁ、「でしょう」なんて白々しく疑問形にしてますけど原因なんて明白で、これは私が貴方になれないからなんですよね。


例えば、恋人がいう「好きだよ」が本当かなんて実際のところ分からないじゃないですか。

だって口で言うのは簡単だし、例えば性行為だってやろうと思えば好きでもない奴できるらしいじゃないですか。


だから『私達』は折り合いを付けて生きているんだと思いますよ。


蟹に痛覚があるって研究結果が示されれば、ある人は現在の輸送方法や処理方法に異を唱えるみたいに。

これは蟹の「痛み」を無くすべきって判断したからだと思うんです。——勿論、本当の意味はその人しか知らないから憶測でしかないですよ。——とにかく議論してもしょうもない、生物個々の感覚の話を自分の「痛み」の基準として折り合い付けてるんですよ。

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