第7話 私は服を脱いで眠った
部屋の浴室。
温かいお湯に浸かって、今日の出来事を考える。
人を殺したこと。
人の死は、回復魔法使いにとって身近なものだ。
私自身が回復魔法を使えなくても、その手伝いにいく。
水を飲ませたり、体を拭いたり。
その中で、残念ながら亡くなっていく人も多い。
だけど、自分自身の手で人を殺したのは初めてだった。
付与魔術で、直接触れていたわけじゃないけど。
あの貴族は、自分自身になにが起きているかわからなかっただろう。
ただ目を見開いて、信じられないというような顔をして、その顔は腫れ物に覆われ……
あの死に方は、間違いなく自分の魔法によるものだった。
そのあとの、胸の奥の重さはなんだったのだろう?
人を殺した罪悪感?
それとも、吹き飛んだ肉片に気持ち悪くなった?
「はぁ……」
大きく息をはく。
「ノエル。
一緒にはいっていいかしら?」
浴室の外からマリーネの声が聞こえる。
浴室はそれほど広くない。
二人で入るには、少し狭い気がする。
きっと彼女は私の心配をしてくれているんだろう。
「ええ」
私は短く答えた。
マリーネが浴室に入ってくる。
大きな胸と、引き締まったウエスト。
理想を描いたような憧れのスタイル。
思わず、自分の胸元を見る。
……まだまだ、これからだから。
美人で、スタイルがよくて、大司教。
セラ様は、彼女に多くを与えすぎていると思う。
マリーネは、狭い浴槽に無理やり入ってきた。
お湯があふれてこぼれる。
肌は触れて、なんだか恥ずかしい気持ちになる。
「……大丈夫?」
マリーネの優しい声。
「なにが?」
ちょっと嫉妬と恥ずかしさで、思わずぶっきらぼうに答えてしまう。
今のは、自分でもちょっと嫌な子だったなと思った。
「人を殺したこと。
結構、ショックを受けて、必要以上に悩んでしまう人が多いのよ」
私は……大丈夫だった。
もっとショックを受けるんじゃないかと思っていた。
なにも感じなかったわけじゃないけど、それほどショックを受けなかった。
人を救いたいと願って生きてきた。
でも、誰かを救う前に、誰かを殺した。
私は……
今の自分の気持ちを、素直にマリーネに聞いてみることにした。
「あまりなにも感じてないの。
ねぇ、マリーネ。
私は、ちょっとおかしいのかな?」
「ノエルはおかしくないわ。
あの男は悪人だった。
あのまま生かしておけば、また女の子をさらって、殺すでしょう」
「……私は、セラ様に憧れて回復魔法使いの道を選びました。
セラ様は、どんな悪人でも救ったといわれています」
「ノエル、私たちはセラ様ではないわ。
救世主じゃない。
私たちの力の及ぶ範囲で、できることをするしかないの。
どんな悪人でも更生させて、正しい道を歩ませることは、残念ながら私たちの力ではできないわ。
私にできることは、更生の難しい悪人を排除して、正しく生きる人たちを守ること。
ノエル、あなたは正しいことをしたのよ」
「私は……」
私は、どこか納得ができなかった。
あの貴族は、何人も殺して、ミレーヌや私を奴隷にしようとした。
それでも、殺す以外の道もあったんじゃないだろうか?
「あなたは、自分とミレーヌを救ったのよ」
たしかに、あの貴族をそのままにしておけば、私たちはどうなっていたか。
考えるだけでも恐ろしい。
私たちが助かるためには、殺すしかなかった。
「……そういえば、ミレーヌは?」
部屋に戻ると、ミレーヌの姿はなかった。
「保護者に引き渡したわ」
「ミレーヌは、大丈夫かな?」
震えて泣いていた。
「それは彼女次第だわ。
大丈夫よ、回復魔法使いを目指す子達は、みんな強いわ。
あの子たちは、みんな偉大な救世主セラ様の弟子なのよ」
「回復魔法使いを目指す子達はセラ様の弟子?」
「そうよ、あなたもね」
私の回復魔法は、誰かを殺すことしかできない。
それでも?
「偉大な救世主であるセラ様でも、一人だったわけじゃない。
聖女エーリィは、セラ様を守るために剣をもって戦ったのよ。
教会は『武力なき者に救済する力はない』と考えています。
誰かを救うため、誰かを守るためには、戦う力が必要なの。
だから、私たち【聖女セラの代行者】はいる。
あなたは、向いているわ。
誰かを守るために、戦う力がある。
私たちと一緒に来なさい。
そして、私たちと一緒にいれば、いずれ魔力を制御する方法も見つかるかもしれないわ」
!?
この力を制御する方法が……?
「ナターシャは、魔術研究者なのよ。
エルフだから自分では使えないのに。
変な人よね。
彼女は、大魔術師ロクサーヌの遺産を探して旅をしているのよ。
一緒にいれば、魔力を制御するための方法も見つかるかもしれないわ」
魔術の本ばかり読んでいるエルフの姿を思い出す。
彼女なら、なんとかしてくれるかもしれない。
どちらにしろ、自分ひとりでは、どうしていいのかもわからない。
私は決心した。
「わかりました。
一緒に行きます」
その言葉を聞いて、マリーネは優しく微笑んだ。
「それから……ありがと」
この私の言葉を聞いたとき、マリーネが表情をしていたか分からない。
照れくさくて、目をそらしてしまったからだ。
その夜から、私は服を脱いで眠るようにした。
彼女たちとともに行く。
その決意を、行動で表したかった。
次の更新予定
聖女ノエルのキセキ―回復魔法がヘタすぎて神罰扱いされました― せーや @seiyakazetsuba
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。聖女ノエルのキセキ―回復魔法がヘタすぎて神罰扱いされました―の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます