第44話 トクベツな、トモダチ 2

 思わず僕もつられて歩みを止める。


「浜野井?」

「あのさ……湊君。なんで……僕を、助けてくれたの?」


 浜野井君は、意を決したかのように僕へと質問を投げかけた。


「友達だからだけど」

「その……友達、だとしても。面倒ごとには……巻き込まれたくないよね?どうして……そこまで、してくれるのかなって」


 彼の方を向けば、真剣なまなざしで、こちらを見上げている。

 背は小さいけれど、存在感を示すように、真っすぐと立っていた。


「浜野井君が、僕に偏見を持たずに、接してくれたからだよ」


 だからこそ、僕は隠さず、茶化さずその問いに答えた。

 思わず、"君付け"で呼んでしまうくらいに、心から。


「それは……どういうこと?」

「浜野井君、園芸部で初めて会った時にさ、僕のこと、避けなかったでしょ」

「だって……湊君は、何も悪く……ないから」


 園芸部に入部後、他の部員と顔を合わせる機会があった際のことだ。

 顧問の先生が、うっかり僕が入学式から一週間休んでいたことを、皆に告げてしまった。


 そのせいで、当時の僕のクラスと同様に、他部員から微妙に距離を取られそうになった中で、真っ先に声をかけてくれたのが浜野井君だったのだ。


「浜野井君はさ、僕がどういう人間か決めつけずに、話しかけてくれただろ?それが嬉しくてさ」

「それくらいの……ことで?」

「僕、最初はそのことで悩んでいたくらいなんだから。すごい嬉しかったんだ。それで急だけど、友達になろうとしたんだ」


 僕は、彼に体ごと向き直って、頭を下げる。


「あの時は、本当にありがとう。だから、助けるなんて当然だから。巻き込んだことを悪いことだなんて、思わなくていいよ」

「み……湊君。頭を上げて……」


 慌てる浜野井君の言葉に、僕は腰をそのままに、顔を上げて満面の笑み。

 彼と目があえば、驚いたのか目をぱちくり。


 そして、その頬が赤く染まる。

 はは、そりゃ、照れるよね。


「ごめんね。ちょっと調子に乗ったかも」

「そんなこと……ないよ。凄く……嬉しい」


 照れながらも微笑んでくれる浜野井君に、こちらもどんどん嬉しくなってしまう。


「良ければさ、浜野井。僕と友達より上、なってみない」


 僕はぶち上るテンションのままに、一つ提案をする。

 そう、親友ってやつだ!


「うぇぇ!?と……友達より上?」


 しかし、僕の言葉に素っ頓狂な声を上げる浜野井君。

 む?駄目だったかな、しかし、諦めないぞ。


「駄目かな?僕は、今日のことでもっと浜野井のことが好きになったよ」

「す……好きに」

「そうそう、だからさ、友達"以上"なってみない?」


 僕の言葉に、何故か浜野井君はうつむいてしまう。

 あれぇ?焦りすぎたかな、出来れば親友、なりたいなぁ。


「あ、あの!湊……くん。よろしく、お願い……します」


 しかし、僕の心配を吹き飛ばすように、浜野井君は顔を真っ赤にしながらも、僕の提案を受けてくれた。


「そっか。嬉しいよ浜野井。これから、親友ってことでよろしくね」

「え……親、友」

「うん、友達以上で親友に昇格。ダメかな?」

「あ……うん。そ、そうだよね……勿論、親友で……よろしく……」


 何故か浜野井君は残念そうな顔をする。

 けれど、これにて僕と浜野井、親友確定だ。


「あの……僕からも、いいかな」


 しかし、それだけで話は終わらず、今度は浜野井君からなにかあるようだ。


「当然、親友の話、何でも聞くよ」

「ありがとう……その、僕も、湊君のこと"トクベツなトモダチ"だと思っていて……」

「え、本当?嬉しいよ。浜野井」

「えへへ……それで、その理由を、聞いてくれるかな」


 僕は彼のお願いを秒で了承した。


「僕も……湊君と、同じ……なんだ。決めつけたりしないことが、嬉しくて」


 浜野井君は、ゆっくりと、何故俺のことを特別だと思ったのかを語り始める。


「昔から、女の子の方が、周りに多くて……揶揄われたり、馬鹿にされたり、妬まれたり……していて」


 ごめんよ、僕もちょっと嫉妬しておりました。


「それに……僕と居てくれる、女の子たちも……」

「女子達も?玉枝さんとか?」

「えっと……玉枝さんは、違うかな。彼女は……これまでの中でも、僕と普通に接してくれる人だと思う」

「とすると、普通じゃない人がいるの?」

「あのね、僕の容姿のこととか……今日の、先輩たち……みたいな子も、沢山いるんだ」

「あー。そういう感じ?」

「……うん」


 つまり、彼のことが好きだとか、純粋に一緒に居たいとかではなくて、その見た目に近寄ってきたり、下手すれば揶揄ってくる相手もいる、と。


 それどころか、場合によっては、彼のことを、女子のように女子を装うように迫ってくる相手もいたのかもしれない。


「実は……今日みたいなこと、中学時代にもあって」

「そっか。あの、浜野井。そこら辺は無理に触れなくてもいいからね」

「ううん。大丈夫……その時は、髪を弄られて、リボンとかをつけられてしまって」


 どうやら、『浜野井君って可愛いよねー、その魅力を引き出してあげる』なんて調子のよいことを言ってきた女子生徒が、気付けば彼の髪型やアクセサリなど、女性的に整えられてしまったらしい。


「あの時は、クラスの男子たちからは、色々言われるし……ううん。男子だけじゃなくて、女子たちだって、口々に好き勝手なことを言ってきて」

「そっか、大変だったんだね。あのさ、浜野井、本当に大丈夫?」

「うん、湊君に言うことが出来て……スッキリした」


 言い終えると、浜野井君はホッと一息をついて、安心した顔をしている。

 言葉にすべきではないこともあるけれど、言葉にするからこそ、一歩前へ進めることもあるのかもしれない。

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