第38話 楽しいお弁当タイム、からの?

「二人ともお待たせ。借りてきたよ」

「わー、ほんとにあるんだ。それで、どこにしよっか」

「学校に許可は得ていますが、あまり目立ちすぎるのも良くないですしね。端の方にしましょうか」


 お待ちかねのお弁当タイム。

 流石に今日も屋上はどうなのかってことで、グラウンドで食べることを選んだのだけれど、当然それでは日差しにさらされてしまう。


 能美高校は陰になるような樹木がないし、かといって教室は生徒で沢山だ。

 そこで、いろいろな人に話を聞いたところ、園芸部の備品として、パラソルがあることが分かったのでそれを2本借りて、日除けにすることにしたのだ。


「よし、設置完了。ありがとね、志原田さん。やっぱり僕こういうの苦手で」

「自分で言ってたけど、確かに不器用なんだねぇ、湊くん」

「面目ない」

「いいの。いいのー。あれでしょー、出来る人がやればいいってやつ~」


 ピースサインをしながら、志原田さんはスマイル一つ。

 心なしか今日は、彼女のテンションも高めの様だ。


「ありがとうございます。二人とも。それではこちらへどうぞ」

「ありがと糸美川さん」

「ありがとねー」


 パラソルの下、シートを敷き終えた糸美川さんに感謝の言葉を伝えて、着席。

 僕たちはそれぞれ弁当を広げた。


「おお~。湊くんのおべんと、ごうか~」

「へへっ。母さんが張り切ってくれてさ……って、い、良いよね今日は、茶色くても」

「どうでしょう~?」

「もう、志原田さん。あまり意地悪を言ってはいけませんよ。良いじゃないですか、今日はお祭りなんですから」

「ま、ねー」

「でも、確かに良いですね、湊君のお弁当。なんとなく小学生時代を思い出します」


 なんだいなんだい、それって子供っぽいってコト?

 なんて、野暮な返しはなし。


 それに実際に僕の今日のお弁当は、まさに小学生スタイルだ。

 おにぎり、ウインナー、卵焼きにエビフライ。


 一応気持ちばかりのホウレンソウで野菜はおしまいである。

 うーん、見事におこちゃま、しっかり茶色い。


「あ、そうだ二人とも、卵焼き食べてみてよ」

「あら、よろしいんですか、湊君」

「うん、ぜひぜひ。志原田さんは栄養価的にダメかな?」

「そんなことないよ~。今日みたいな日はね。それじゃ、遠慮なく~」


 僕が差し出したお弁当箱から、二人は卵焼きを取り出すと、ぱくり。

 すると、少し驚いた表情をしている。


「甘くない、卵焼き?」

「ん~。美味しいかも」

「へへ、うちの卵焼き、甘くないんだ」


 だしと醤油でご飯が進むとは母さんの弁だ。


「そんな方法が、あるんですねぇ。それでは私のサンドイッチ、いかがですか?」

「ありがとう。それじゃ遠慮なく」


 差し出されたサンドイッチを手に取ろうとして、ちょっとストップ。

 う~ん、卵焼き一つに対して、サンドイッチ一つはなぁ。

 あ、そうだ。


「一つもらって、志原田さんと半分こしていいかな?」

「遠慮せずに、一つずつ持って行っていただいて良いですよ?四分の一にカットしていますし」

「卵焼き一つに対しては貰いすぎだから」

「そだね~。というかワタシ、挙げられるのササミかミニトマトになっちゃうんだけど……」

「あ、それじゃミニトマトでよろしく」

「私もそれで、お願いします」

「おけー。それじゃ、糸美川さん。貰っていい~?」

「はい、どうぞ」


 志原田さんは、差し出されたサンドイッチを一つ手に取る。

 そして、半分にちぎろうとしたところでその動作を止めてしまった。


「どうしたのさ、志原田さん」

「ん~せっかくきれいに挟んであるのをさ、ちぎるの勿体ないから~」


 久しぶりの蠱惑的なこちらを挑発する笑みを浮かべる志原田さん。

 おっと?何するつもりですか?


「私が半分食べた後に、湊くんが食べるとか」

「ハイ却下」


 無茶なことを提案してきたので、サンドイッチ没収。

 しっかりきれいに半分にちぎって、片方を志原田さんに渡した。


「ケチー」

「けちじゃないです。きちんと半分だよ」

「そういう意味じゃないし~。いいじゃん間接キスくらい、減るもんじゃないし」

「友人なら気にしないけど、美少女との距離は気にするの、僕は」

「ちぇー」

「ふふ、今のは、湊君の勝ちですね」

「ぶーぶー」


 穏やかに、賑やかに談笑する。

 5月とはいえ、既に日差しは強く、暑いこともあって、グラウンドで食事をしている生徒はまばらだ。


 お弁当を食べ終えたら、シートの上に寝転んでみるのもいいかなぁ。

 ダメか、そんなに大きくはないしな、やるなら二人にどいてもらわないといけないし。


「こ、ここに居たのかー!みなとー!」


 そんな、僕の施行を遮るように掛けられたのは、玉枝さんの焦る声。


「どうしたのさ、玉枝さん。そんなに慌てて」

「な、なんで屋上いないんだよー。無駄に階段上ったんだぞ、私!」

「それは申し訳ない……ってそれより本題は?何かあったの?」

「晶が、晶がピンチなんだ!助けてくれ、湊!」



 浜野井君の危機、ということで、慌てて駆け出す僕。

 とりあえず、糸美川さんと志原田さんにはそのまま待機してもらうことにした。


 何故かと言えば、必要なのは交渉力だから。

 何かが脅かされるような危険な事態ではないからだ。


「それで、浜野井が赤組の応援団に連れていかれたと」

「そうなんだよー。晶目立つの嫌いなのにさ、女子の先輩に強引に」

「無理やり応援に参加してもらおうってことなのかな」

「たぶんー。頼むぞ、みなとー。おまえ、こういうの得意だろー?」

「任せろ……とは言わないけど、頑張るよ、浜野井のためだし」


 教室内なので、玉枝さんと並走……というか並んで歩きながら、赤組応援団準備室となる、特別教室の前までたどり着いた。


 扉をノックして、がらりと開けて一声。


「失礼します!先輩方が、僕の友人を連れて行ったと聞いて参りました。お弁当の時間でもありますし、浜野井を返してほしいのですが!」


 僕は事前に考えた作戦で、お弁当時間を奪われるのは困る、という報告制で行くことにした。


 これは、断りにくいだろう。

 そもそも応援団への参加は事前に決めているわけで、浜野井がそれに参加しなければいけない理由はないのだから。


 しかし、いつまでたっても返事は返ってこない。

 というか、教室には誰もいなかった。


「え?あれ?玉枝さん。ここで良いんだよね」

「お、おうー。間違いないはずだぞー。あれー?」


 きょろきょろと、教室を見回す玉枝さんと、困惑する僕。

 一体どういうことだろう、玉枝さんに揶揄われた?


「も、もしかして……湊君……いるの?」


 そんな僕に、か細い声が聞こえる。

 これは、まちがいなく浜野井君の声だ。


「んー?いるのかー、晶。どうしたんだよ姿見せて」

「あの……ごめん、なさい。今は、ちょっと……」

「なんだよーわけわからんてー。ていうかあの先輩たちは?」

「そ、それは……あ、こっち来たら、だめ……」

「うえぇぇ!?あ、晶!?」


 浜野井君は、特別教室の机に屈んで隠れていたようだ。

 彼を見つけたらしい玉枝さんがすっとんきょうな声を上げる。


 そして、その大声に驚いたのか、浜野井君が立ち上がって――――


「あ……あの、見ないで……」


 そこにいたのは、間違いなく浜野井晶。

 僕の、普通の友人。


 けれど、その姿は、美少女と言っても差し支えのない、チアリーダーのものとなっていた。

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