第28話 前へ前へ 1
「あの、糸美川さん。その、良ければ私と一緒にお昼に、しないかな?」
本日の午前最後の授業が終了して、昼食時間。
クラスメイトである
各々がお弁当を取り出したり、食堂へと向かうざわざわとした教室の中での一幕。
実は珍しい事態だったりする。
糸美川さんが、女子クラスメイトと昼食を取る風景は、当たり前の物になっている。
良く過ごすグループというものが、自然に出来たという形だ。
その中に、笹木さんは入っていない。
基本的に彼女は教室にて、一人で昼食を取ることが多い。
そんな彼女が、今日は思い切って糸美川さんに誘いの声をかけたというわけだ。
「笹木さん。ええ、構いませんよ」
糸美川さんが穏やかに、誘いを了承すると、笹木さんの顔はほころんだが、それは次の瞬間、失われた。
「湊君も一緒に、いいですか?」
「そ、それは……その」
これまで、糸美川さんは仲の良いグループに誘われた際にも、僕の名前を出すことはなかった。
だというのに、今回は僕の名前が挙がった。
予想外の返答だったのであろう彼女は固まっている。
「糸美川ー。わたしも一緒にお昼たべたいー」
そんな中で、笹木さんの硬直を更に加速させるような事態が発生した。
同じくクラスメイトである
彼女が昼食を共に取りたいと声を上げたのだ。
元気いっぱいの彼女は、いそいそと糸美川さんの方に寄ってくる。
そして、それだけではない。
「湊も、良いよなー?わたしが一緒でも」
「勿論だよ、玉枝さん。
玉枝さんは、糸美川さんだけなく、僕にも了解を取った。
そして僕もまた、玉枝さんだけでなく、彼女の友人である宇城さんに誘いの声をかける。
「ええ、ご一緒させてもらうわね。……いや、あんたはちょっとは落ち着きなさい」
「えー。はらへったしー」
「女の子がそういう言葉遣いするんじゃないの」
「なんだよーお母さんかよー」
僕と玉枝さんと宇城さん。
三人でわいわいと賑やかな様子を見て、笹木さんはたじろいているようだ。
「ふふ、賑やかになりますね。それじゃあ笹木さん。一緒にお昼。過ごしましょう?」
それに助け舟を出すように。
いや、むしろ困惑を深めるかもしれないけれど、糸美川さんが笹木さんに声をかける。
「う、うん」
困惑のまま、笹木さんはその声に返答した。
「いやー、やっぱり屋上良いなぁ。私も園芸部、入ろうかなー」
「歓迎するよ、玉枝さん。活動内容らくちんだしね。おススメしちゃう」
「湊がそこまで言うならそうしようかなぁ」
というわけで、僕含めて5人で、屋上で昼食を取ることにした。
もう4月も終わるというところだけれど、今日はとても過ごしやすい陽気だ。
そんなわけで、玉枝さんが絶好調である。
玉枝さんは、クラスの中でも中心人物、ムードメーカーな女子生徒で、ちょっと子供っぽいところがあるけれど、男女ともに仲が良く、元気いっぱいな所が魅力的だ。
今も元気いっぱいで、楽しんでくれているようだ。
「あのね、湊君の言葉をほいほい信用しないの。こうやって園芸部の人と一緒なら屋上が使えるんだから良いじゃない」
「は!確かに!湊ー!騙したのかー!」
「そんなわけないでしょ。僕、玉枝さんも同じ部活だったら嬉しいなって思っただけだよ」
「えへへーそっかー」
「いや、あんたチョロすぎ……湊君もこの子すぐ調子に乗るんだから、あんまり変なこと言わないでよね」
「うーん。それじゃ、宇城さんも一緒にどう?歓迎するよ?君も一緒なら嬉しいし」
「あらお上手。でも謹んでお断りするわ」
にべもなく断られてしまったけれど、宇城さんも冗談と理解した上で、楽しんでいるようだ。
彼女は、玉枝さんと特に仲が良く、二人でいることが多い。
冷静沈着で落ち着いており、玉枝さんの暴走を窘めたり、逆に玉枝さんが彼女の事を引っ張っることもあるので、とても相性がいいのだろう。
そんな二人と、僕は仲良く談笑している。
糸美川さんも、このやり取りを見て、ニコニコしている。
「…………」
笹木さんだけが、静かなままだ。
彼女は、糸美川さんにも声かけずに、お弁当をつついている。
「笹木さん、あなたは園芸部に入部するの、どうですか?」
「え……あの、そう、だね。糸美川さんがそう言ってくれるなら」
糸美川さんが話題を振る形で、園芸部への誘いをかける。
それに対して笹木さんは、おずおずと頷きを返した。
「あ。笹木さんも入部する?歓迎するよ。ほぼ一学年しかいないからさ、好きな鉢花選べるよ?何か好きな花はある?」
「あ、え……その」
「こらー湊。笹木が困ってるだろー。お前勢いあり過ぎなんだよ。女の子には優しくしろよー」
「いや僕女の子に優しいし、紳士だし。それに勢いは玉枝さんに言われたくないし」
僕の言葉に、「なにおう」と迫る玉枝さん。
それをさらりと流して、僕は入部と言うワードに対して、すかさず笹木さんにアプローチをかける。
お花に関しては、是非女子の意見を聞きたい。
僕が選ぶとサボテンとか選んじゃうし。
後アロエを選ぼうとしたらなんか怒られました。
なんでさ、可愛いじゃん、アロエ。
「はいはい、二人とも喧嘩しないの。それに湊君。この子の言うことも最もよ」
僕と玉枝さんの衝突を宥めながら、宇城さんは僕報に向けて、玉枝さんの言葉に同意した。
「湊君、女子に対して優しいけれど、気安す過ぎるもの。少しは抑えなきゃ駄目よ?」
「はーい気をつけまーす」
「へへー怒られてやんのー」
「あんたもよ、元気が良いのは良いけど、暴走はおやめなさいな」
「ぐぇー」
宇城さんの注意に、僕たち二人は反省の意を示す。
それを見て宇城さんは呆れたようにしながらもクスリと笑っていた。
「……玉枝さん。湊君と仲が良いんだ」
一連の流れを見て、それまで言葉が少なかった笹木さんが、ぼそりと呟いた。
「え?まあなー。最初はどういうやつか分からなかったけど、湊、悪い奴じゃないしなー」
それを聞き逃さず、玉枝さんが答えると、笹木さんはビクリと体を震わせた。
「そうねえ、やや女子に対して軽薄な所があるけれど。悪い人ではないわね」
「宇城さん、僕への評価、厳しくない?」
「概ね間違っていないと思うわ。言葉が軽いもの」
宇城さんは、少し揶揄うように、僕の事を評価するけれど、どちらかと言えば好意的な評価だ。
それを聞いて、笹木さんは再度口を閉じてしまった。
「笹木さんも、良ければ僕と仲良くしてよ」
そんな彼女に対して、棒は手を差し出した。
「クラスに遅れて合流したから、変な奴かと思われたかもしれないけれど、僕、別に変な奴じゃないから、よろしくね」
――――バシッ!
けれど、その手は払われてしまった。
「……私は、貴方と仲良くなんてしない」
今まで押し込めていたのであろう、憎しみが籠った眼で、僕の方を睨み付ける彼女。
「私が、仲良くしたいのは、糸美川さんだけ。貴方は関係ない」
絞り出すように、彼女は本心を口にした。
「そっか、ごめんね、笹木さん」
「え?」
「変なこと言ってごめんね。もう仲良くしてなんて言わないよ」
僕がすぐさま謝罪すると、彼女は戸惑いの声を上げた。
「けど、僕は糸美川さんの友達だから、それは、否定しないでね」
「そんなこと――――!」
けれど、僕が糸美川さんとの関係を述べると、怒りの声を上げようとする。
嫌われるのは、別に構わない。
君が糸美川さんと、仲良くするのはご自由にどうぞ。
だけど、僕たちの関係に口を出させるつもりはない。
今日はそのことを告げる、決着の比にするつもりだった。
だから、僕が嫌われて、それで終わりにするつもりだったのだけれど。
「貴方と!糸美川さんが仲良くするなんて!」
「すみません、笹木さん」
憎悪から、怒りの炎を燃やして、僕へとぶつけようとする笹木さんに、糸美川さんの冷たい声が浴びせられる。
「私は、貴方と仲良く出来ません」
「え……なんで、糸美川さん」
「私の大切な友人を、蔑むような方とは、仲良くなんてできないんです、ごめんなさい」
糸美川さんはきっぱりと、笹木さんと良好な関係を設けることは出来ないと、そう告げた。
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