第17話 湊くん脱オタ計画 2

「あ、ありがとうございました……」

「いえいえ、教え甲斐がありましたよ。湊君はとても良い生徒ですね」


 も、物凄いフィードバックを受けてしまったぞ。

 身嗜みって奥が深い。


「今回の内容が改善したら、更にステップアップですね。びしびし、行きますよ」

「むーりー」


 流石にギブアップだ、勘弁して欲しい。

 僕が泣きを入れると、糸美川さんはいたずらな表情をしている。


「悪い悪い、最後のは冗談。指摘したことは全部を全部、完璧にやる必要はないからな」

「え、なんだよそれー」

「日々ちょっとずつ気を付けようってことさ、最初に言っただろ?湊は基本的にはきちんとしている方なんだから」

「じゃあもっと優しくしてよ……」

「こういうのは最初が肝心だからな、厳しくいかないと」


 糸美川さんは、へこたれている僕を見て、楽しそうだ。

 微妙にSっ気あるよね、糸美川さん。


 自分だってあわあわしている時あるくせにさ。

 そういう時ちょっと可愛らしいのに。


「お前なんか変なこと考えてない?」

「そ、そんなことはないよ?」

「コホン、駄目ですよ湊くん。女性をあまりじろじろ見てはいけませんと、先程言いましたよね」

「はーい、先生。気を付けまーす」

「もう、本当に分かっていますか?」


 お互い顔を見合わせて、くすくすと笑う。

 なんというか楽しい昼休みになったな。


「とりあえず、糸美川さんが吃驚するくらいきちんとしているのは良く分かったよ」

「お褒めにあずかり光栄です。湊君。ですが、湊くんもとてもきちんとしているじゃないですか」


 そろそろ昼休みも終わりということで、片づけ始める。

 昼食の弁当箱などを包み直して、 鞄へと仕舞う。


 僕、早速弁当を包み直すのが上手くいっていないのですが。

 シートもきれいに畳めないし、そんな僕がきちんとしているかな。


「コミュニケーション能力って言えばいいんですかね?湊くんは本当に上手だと思います。会話し易いですから」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、そんなことはないと思うな。単純に糸美川さんが喋りやすいからってだけな気がするし」

「そんなことはありませんよ、私だって決して会話が上手いわけではありませんし」

「いや、教室でだってそれこそきちんとしていると思うよ?」


 残念ながら、まだクラスメイトとは距離のある僕とは違い、糸美川さんは教室の一員として、交流している姿はこの何日かでしっかりと目にしている。


 糸美川さんが"美少女男子"であることを考えれば、それこそ偏見を持たれずにかかわっているのは凄いことだと思うのだが。


「ええ、頑張って問題ないように振舞っていますからね」

「頑張っている?」

「はい、どうしても取り繕っている部分はありますから。けれど、湊くん相手には自然に振舞えますので」

「それは、まぁ、僕は糸美川さんのこと、知っているわけで」

「だとしても、です。私、砕けた状態なんて、本当は見せるつもりなかったんですから」 


 糸美川さんは、ちょっと恥ずかしそうだ。

 そっか、糸美川さん、ラフな方は出すつもりなかったんだな。


 僕の間抜けな対応が引き出してしまったものかもしれないけれど、不快に思っていないようなら、ちょっと嬉しいかな。


「僕はラフな糸美川さんとも会話できるの、楽しいかな」

「もう、調子に乗り過ぎです。……私も、楽しいですけどね」


 拗ねたようにしながらも、糸美川さんは楽しそうだ。


「というわけですので、湊くんは自身の強みを活かしながら、きちんとしていれば、目標にかなり近づけるんじゃないかと思うんですよね」

「成程、となるとまずは髪型からかな」


 糸美川さんの身嗜みの指摘には、僕の頭髪の事もあった。

 勿論、毎日洗髪は欠かしていないし、みっともなく伸びきる前に散髪にもいくようにしている。


 だがしかし、である。

 それ以外の手入れを一切していないことを思い知らされてしまった。


 確かに中途半端に伸びているときの髪型は、見た目だらしなく思われてしまうのかもしれない。

 最低限、櫛くらいは通さないとかな、硬いなら整髪料も視野かー。


「よ~し。目指せ、脱オタ!」

「え~、別にさ、オタクのままで良くない?」


 張り切って、拳を突き上げた僕にかけられた、声。

 え?誰?


「そっか~君って、オタクなんだね」


 声の方を見れば、そこには女子生徒が立っていた。

 興味深そうに、こちらの方をしげしげと見つめている。


 迂闊にも、自らバラしてしまったのでオタクと呼ばれることに、ダメージはない。

 しかしながら、なぜ目の前の彼女は僕に興味を示すような視線を向けるのか。


 だって僕、オタクだぜ?

 興味持たないでしょ、普通。


 それと同時に、目の前の彼女は美少女だ。

 糸美川さんとは方向性は違うけれど、間違いなく美人や可愛いと言われるビジュアル。


 そんな相手がオタクにわざわざ関わろうとする?

 一体、何を考えているのか――――


「何か、御用ですか、志原田しはらださん」


 僕の思考を遮るように、糸美川さんが言葉を発した。

 その声にはなぜか、棘がある。


「ん~?別に糸美川さんには用なんてないよ。ワタシは彼に話しかけてるの」


 嘲るような表情で、目の前の相手は糸美川さんの問いかけに返答した。

 あれ?なんか雲行きが。


 というか本当に僕に話しかけているのか。

 仕方がない、ここは糸美川さんが褒めてくれた僕の会話術でもって、この場を収めて――――


「ワタシさ、君に興味あるから、仲良くしようよ、ね?」


 僕が言葉を発する前に、目の前の美少女は蠱惑的な笑みを浮かべて、そう告げた。

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