第4話 オタク男子と美少女 3
つ、疲れた……メッチャしんどい。
学力検査のテストは、主要5教科をしっかりと受けさせられた。
午前に4つ、午後に1つ。
どうにかテストをすべて終えたのだが、これですべて終わりではなかった。
身体測定も終えるということで保健室に連れていかれ、更にはいくつかのアンケートへの回答を求められたのである。
休憩時間と昼食時間以外、一切の隙間なくスケジュールを積み込まれていた。
こ、小林先生から聞いていたとはいえ想像と実際にこなしてみるのでは全然違う……
これ、翌日以降も、終わっていない身体測定健康診断関係と、学校内の設備の利用方法や安全管理についての講習を受けなければならないので、結構大変だ。
だが、へこたれているわけにはいかない。
何せ、本日はこれからがお楽しみなのだから。
ウキウキしながら、教室へと戻れば、帰りのHRがちょうど始まろうとしているところだった。
既に教室へ到着していた小林先生へ頭を下げると、僕は自分の席へと着いた。
「お疲れさまでした。大変でしたね、湊君」
席に着くやいなや、すぐさま糸美川さんが僕にねぎらいの声をかけてくれる。
「あ、いや、そもそもの話入学早々インフルエンザに罹る僕が悪いんで……」
「それでも、今日頑張ったのは間違いありませんから」
「そ、それは、どうも……」
「いえいえ、湊君の努力ですから」
ああ、良いなぁ、凄く良い。
こうして大変だったね頑張ったね、と言ってもらえるのはとても良い。
なんかこう、体の底から力が湧いてくるようだ。
「あの、大変なようでしたら、放課後の案内は、別の日にしましょうか?」
「いえ!全然大丈夫です!」
そんなわけで、こちらを慮る糸美川さんの案内中止の提案は、力強く断ってしまった。
同時に、小林先生より「HR中は静かにしろ」とお叱りを受けてしまった。
しまった、悪目立ち。
幸いクラスの皆はさっさとHRが終了して欲しいのか、特にこちらに気を向けることはなかった。
「湊君、ごめんなさい」
そんな中でも糸美川さんだけは、こちらに向かって声を潜めて、謝罪の言葉をくれた。
うわーささやき声も可愛いんですか、無敵の美少女ですよ、彼女。
ぼんやりとしそうになりながらも、またも先生に怒られるわけにもいかない。
僕は先生の方を向いて、HRをきちんと受けることとした。
◇
「それでは湊君。これから校舎を案内させていただきますね」
「うん。よろしくお願いします」
小林先生が、帰りのHRの終了を告げると同時に声を掛けられる。
その会話を聞いてか、クラスメイトの視線が集まる。
視線の中には以外にも、女子の物もあった。
たった一日で女子から熱い視線を向けられるなんて、意外と僕もイケるのでは!?
……などとうぬぼれの振りなどしてみるが勿論そんなわけはない。
多分、男子のみならず、女子にとっても、糸美川さんは注目するべき対象なんだろうな。
それは例えば、僕みたいなやつに親切にすることを訝しんだり。
隣の席というだけで、流れで僕に親切にしなければならないことに同情したり。
もしかしたら、僕みたいな人間が好みなんだろうかと疑ったり。
……って、全部僕のマイナス印象のもしも、しか考えられないの寂しすぎないか。
我ながらとんだ自虐の妄想ではあるが、正直この一年間ほぼ目立たない存在として、ボッチかニアリーボッチくらいの立ち位置になるのが確定の流れではあると思う。
そういう意味でも、糸美川さんとは仲良くしておきたいのが、ちょっとずるい僕の本音だ。
勿論、勘違いではなく行けそうなら行きますが。
大ジャンプからの、大飛翔ですが。
「それではですね、まず、授業で使う特別教室の場所を回らせていただきます。その後に、購買部や食堂の場所を案内しますね。」
こちらの妄想には気づかず、学校案内の計画をはしてくれる糸美川さん。
おっといけないいけない。
まずはこう、なんか上手い会話をせねば。
「そっか。こ、購買部とかあるんだよね」
「はい。中学校の時と全然違くて驚きますよね。購買部では色々と販売しているんですよ」
よし……ここだ!
自己紹介では無難な回答に徹したが、ここは敢えて踏み込んで、ちょっと面白い受け答えを狙うぞ。
「もしかして……お菓子とか?」
「さ、さすがに学校でお菓子は販売しないと思いますよ?」
受けを狙った俺の答えに、糸美川さんは少し困っているようだ。
うげ、失敗したか?
「あ、えーっと」
「ふふ、でも学校でお菓子が購入出来たら、楽しそうですよね」
「た、確かに。僕もそう思う」
完全に外したかと思ったが、彼女からのナイスフォロー。
それに救われる形で会話を続けてみるが、彼女は特に嫌がるでもなく、僕との受け答えをしてくれた。
なんてことのない会話を続けながら、1学年の教室を離れ特別教室を周る。
無言で黙々と学校案内を受けるような事態にならなくて本当に良かった。
完全に糸美川さんのお陰だけど。
大和撫子の様と称したけれど、僕の想像はそう外れることもなく、なんというかこちらを立ててくれるような言葉選びや受け答えは、ちょっと張り切り過ぎている僕を相手にしても会話が弾むのだ。
それにしても、こうやって校舎内について、人に説明してもらえるのは助かるな。
受験のための入学説明会や試験の際に、高校を訪れてはいるものの、建物全てを見たわけではないし。
「これで、特別教室の案内は終わりです。なにか、分からないことはありますか?」
「えっと、大丈夫だと思う。ありがとう、糸美川さん」
「いえ気になさらないでください。それに、今は思いつかなくても、何か分からなくなったらいつでも聞いてくださいね?」
「いや、そこまでは流石に迷惑かけるわけには……」
「気になさらないでください。隣の席になれたのも何かの縁です。それに、学校をお休みされて、困ることもあるでしょう?」
彼女の言うとおり、他の同級生が分かる事であっても、僕には分からないことはこれからも出てくるだろう。
ここは素直に、彼女の親切に甘えることにした。
「えっと、それじゃお願いしていいかな、糸美川さん」
「はい、お任せくださいね」
「その代り、じゃないんだけど、もしも糸美川さんが困っていたら、是非僕に声をかけてもらえれば。その、出来るかぎりの助けにはなろうと思うから」
「それは、申し訳ないですよ、湊君」
「いや、こうして親切にしてもらったお礼ってことで。僕なんかじゃ、助けにはならないかもしれないけどさ」
「そう、ですか。それでは困った時には、ご相談させてくださいね」
会話の流れで、上手い事今後の関係性の強化を紛れ込ませる僕。
いや、本当にいい感じなのでは、これ。
なんか普通に、楽しく女子と会話できてますよ僕。
しかも会話の相手は、すっごい美少女と来てますよ!
っと、クールダウンクールダウン。
どうにも止められない、この内心の自己語りはものの見事にオタク仕草じゃないか。
油断するとすぐに顔を出すんだよなぁ。
それを読み取られるようなことはないけれど、だからこそ漏らさないように気を付けなければ。
「あの、湊君。どうかされました?」
こちらが悶々と思考を巡らせていると、糸美川さんに心配をされてしまった。
ほらな、調子に乗るからこうなってしまう。
頭の中で妄想捗らせるのは、程々に……なんならゼロにしたいんだけどね。
「あ、大丈夫です。その、是非、相談してください」
「はい。頼りにさせていただきますね」
慌てて、胸を右手でドンと叩いて、任せてくれという気持ちをポーズで伝える。
それを見て、糸美川さんはクスリと笑いながら、相談することを了承してくれた。
よし、今後も関係継続に向けて、約束取り付け大成功。
とはいえ、今の仕草もなんか大げさというかオタクっぽいかもしれないな。
反省しとこ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます