第3話 オタク男子と美少女 2

「湊、探したぞ、ここにいたのか」


 糸美川さんの美少女オーラに当てられている僕に、教室の外から声がかけられる。

 そちらを見れば、おそらく教師であろう男性、その声は電話で会話した相手だった。


「あ、はい湊です。その、探していたっていうのは?」

「何を言ってるんだ、昨日電話しただろう?まずは職員室で今日のスケジュールを確認して、教室でお前を紹介すると」


 え、そうでしたっけ?

 僕、間違えていた?

 そう思い隣の席を見れば、まぁ、といった表情で糸美川さんもこちらを見ている。


「お前な、高校生としてそう言った指示をきちんと聞けないというのは問題があるぞ」

「す、すみません。間違えました……」

「いきなり病気で一週間も休んでいたんだ、今回は良しとする。だが、今後は気をつけろよ?」

「はい……」

「よし、それではいったん職員室へ付いてきてくれ。時間がないので簡単な説明になってしまうから、詳細は都度都度説明する」


 そう言うと先生は、僕を職員室へと連れ出す。

 その際に、糸美川さんは小さく「行ってらっしゃい」と言ってくれるのだった。


 そして職員室にて、担任である小林隆志こばやしたかし先生から、本日のスケジュールについて、説明を受ける。


 本来入学後に行う予定だった、学力確認のためのテストを受けることが主目的になりそうだ。


 更には明日以降も時間を取って、身体測定など俺が休むことで受けることのできなかったものについて、次々とこなさなければならないようであった。


 た、大変そうだけど自業自得だしなぁ。

 早めに終わらせないと、授業に支障をきたしそうだし、頑張らねば。


 しかし、僕が今からもっとも頑張らなければならぬのは、本日の試験でも今後のスケジュールでもない。


「えー、それでは、インフルエンザで一週間学校を休むこととなってしまったが、問題なく回復したため、本日より皆と過ごすことになる、湊想太郎だ。湊、自己紹介を」


 自己紹介。

 そう、自己紹介である。


 この自己紹介、ハッキリ言ってオタクの民には荷が重い。

 自らのことを語れば、それはオタクバレへと容易につながってしまうのだ。


 と、すればだ、リスクありでもそれを避ける回答を選ぶ!

 リスクはある、リスクはあるが仕方がない。

 

 まずは僕がオタクではないと示す。

 それが脱オタクには必須の道程であるからだ。

 

「湊想太郎です。県外の中学校より進学しました」


 無難で、面白くない自己紹介!

 ただでさえ一週間というビハインドを背負っている僕に、この何の変哲もない自己紹介は重くのしかかってくる可能性がある。


 クラス内での空気化。

 しかし、たとえクラスでは目立たなくなる、存在感を発揮出来ぬとしても、それは必要経費である。


 脱オタク。

 その大いなる目標のためには、犠牲がつきものなのだ。


「インフルエンザに罹ってしまい、一週間休むこととなりました。既に完治しており、皆さんにうつすことはありません。よろしくお願いいたします」


 そう言って頭を下げれば、小さくぱちぱちと拍手が。

 見れば、控えめに、糸美川さんが拍手をしてくれていた。


 う、嬉しい……

 承認欲求を満たすってこういう感覚なのだろうか。


 人に認識されてるってテンション上がっちゃうよなぁ。


「よし、それでは朝のHRを始める。湊、自分の席へ戻ってくれ」


 小林先生の指示通りに、僕は自身の席へと戻る。

 その際には、幾人かがこちらへ視線向けている。


 朝、教室にいなかったクラスメイト達であろうか。

 やはり、糸美川さんの隣の席、という点で注目を浴びているんだろうな。


「お帰りなさい」


 そんなクラスメイトの視線を知ってか知らずか、糸美川さんは戻った僕にわざわざ声をかけてくれた。


 あの、ちょっともう本当に勘違いしそうになるんですが。

 非常に、危険なんですが。


 普通の男子生徒にとって彼女は、ちょっとばかし刺激が強すぎる。

 ほんと、勘違いしないようにせねば……!


 そう固く心に誓っていると、連絡事項が終わり、朝のHRが終了した。

 さてと、僕はまずは別室にて、学力検査のテストを受けなければ。


「あれ?湊君、どちらへ行かれるんですか?」


 そう思い、席を立とうとする僕に糸美川さんが疑問の声をかけてきた。


「うん、僕は、学力検査を受けていないので、これから別室で受けるんです」

「そうでしたか。まだ授業ではご一緒できないんですね、残念です」


 本当にしゅんとするような音が聞こえるような動作に、胸がきゅんっとしかける。

 び、美少女~この人、本当に美少女です。


 なんかもう逆に嘘くさく見えてきたぞ色んな動作。

 でも嘘くさいのに真実なんだからすごいねそうだよね!


 なんだか逆に、僕の中のオタクが黙ってられなくなるから、もうなんか勘弁してもらった方が良い気になってきた。


 くそう、もうコレ、勘違いしちゃおっかなー。

 ていうかさ、そもそも脱オタク、普通の男子生徒なら、勘違いして突っ走るもんなんじゃない?


 勢いで進んでしまうか?

 たとえ勘違いを指摘されたとて、それこそ笑って流してしまえばいいのでは?


 いやいや、落ち着け、僕。

 気の向くままに振舞えばどこでぼろを出すか分からんぞ。

 ここは冷静に、冷静に……


 しかしながら、努めてクールであろうとする僕をあざ笑うかのように、糸美川さんはするりと距離を近づけてくる。

 

 うわうわっ近い近いっ、く、クールとか無ー理ー!


「あの、湊君」

「なななな、何かな?糸美川さん」


 アウト寸前、オタク仕草のリアクションを返す俺だが、糸美川さんは特に気にせずそのまま言葉を続ける。


「その、別室で受けられるということですが、場所は分かりますか」

「あっと、うん、それね。だ、大丈夫。小林先生に聞いたし。な、何ならもう一回職員室に行けば」

「もう、いけませんよ、湊君」


 しどろもどろになる僕の回答に、糸美川さんは困ったような表情をしながら、こちらを窘める。


 うう、凄い悪いことをしている気がしてきた。

 しかし、こちらのそんな気持ちをよそに、彼女は表情を変えると、一つの提案を持ちかけてくる。


「そうだ、湊君。良ければ教室、ご案内しますよ?」

「そ、そんな迷惑をかけるわけには……」

「はい、この後の教室へは、ごめんなさい。私にも授業があるので案内は出来ません」

「えっと……それじゃ?」

「放課後ですね、私に校舎を案内させてください」


 え、もうこれは勘違いですらないのでは?

 一心不乱に進んじゃいますよ、僕は。


「お、お願いします!」

「はい。お任せください。それではテスト、頑張ってくださいね」


 そう言って、糸美川さんは僕が先生から聞いた教室の場所を、分かりやすくどう行くかを教えてくれた。

 うわー!放課後楽しみすぎじゃないかこれ!?


 最初の一歩どころかもしかして大ジャンプなのでは!?

 テストがなんだ、なんでもかかってこいである。

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