第13話 はじめてのモンスター
大広間を通り抜けると、一気に人気がなくなった。
もともと大広間が広いこともあり、そもそも一層だということも影響してか人影はほぼなかったが、大広間の奥は人の気配が全く感じられなかった。
長い期間人が来ていないのが分かる、独特のかび臭さがあった。なんかより怖くなってきた気がするが、仕方ない。
「よし、まずはモンスターを探そう」
一層はモンスターの出現率も高くないようだ。なぜダンジョンにモンスターが出現するのか、どうやってモンスターは誕生するのかは分かっていないが、ダンジョン内には一定数モンスターが
モンスターの出現率は階層によって異なるようで、入り口に近い上層ほど出現率は低くなる。だからモンスターを狩ろうとする探索者は、下層を目指すわけだ。
「出ておいでー」
大広間を真っ直ぐ抜け、目に付いた空洞から通路に入り込む。今までと同じように薄く光る壁はあるが、なぜか一段と薄暗くなったような気がする。
「おっ、あれがスライムか」
通路に入るとすぐにゼリーの塊のようなモノが、うぞうぞと揺れていた。直径30センチくらいの半透明のゼリーの中には、赤い核のようなものが見える。
スライムも俺の存在に気づいたのか、もぞもぞと岩床を這いながら近づいてくるが、そのスピードはとにかく遅かった。赤ちゃんのハイハイレベルだ。
だが一生懸命近寄ってこようとする姿にはどこか可愛らしさが……いや、ないな。ゼリー状の塊がもぞもぞ近づいてくるのは、俺の嫌いなナメクジが近寄ってきているようで気持ち悪さしかなかった。
そんな嫌悪感を感じながらドロップ調整したいという願いを込めると、俺の前に、ぽんとホログラムウインドウが現れた。
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【スライム - ドロップリスト】
【DR設定】
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ドロップリストとDR設定という二つの項目が載っている。
とりあえずどちらも展開してみる。
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【スライム - ドロップリスト】
・ヒールポーション ON
・【物理耐性】スキル ON
・【回復促進】スキル ON
・空間拡張源(Ⅰ) ON
・【空間魔法・拡張空間】 ON
【DR設定】
・ヒールポーション 1 / 100,000,000
・【物理耐性】スキル 1 / 1,000,000,000
・【回復促進】スキル 1 / 5,000,000,000
・空間拡張源(Ⅰ) 1 / 10,000,000,000
・【空間魔法・拡張空間】スキル 1 / 100,000,000,000
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どうやらDRはドロップレートらしい。モンスターからドロップされるアイテムの選択と、そのドロップ率が一覧として表示されている。
このリストによるとスライムからは、二つのアイテムと三つのスキルオーブがドロップされる設定になっているようだ。ますますゲーム染みてきたな。
各アイテム名の横にON、OFF切り替えのトグルボタンがついているのは、このスイッチボタンでドロップするかどうかを決められるということかな。敢えてOFFにする必要はないので、そのままにしておこう。
続けてドロップレートを確認する。そのアイテムを落とす確率と考えれば、一番落としやすいヒールポーションですら1億分の1の確率ということになる。【空間魔法】は1000億分の1。これでは、ほぼドロップが望めない。というか馬鹿げた数値過ぎるだろ。スライムが見向きもされない訳だ。宝くじの一等が、確か1000万分の1だったから、どれだけスライムからのドロップが世知辛いかが分かる。
ダンジョン上層のモンスターはアイテムをドロップしないというのが定説だったが、正確には違うようだな。ドロップしづら過ぎる鬼設定のせいで、ドロップされないと思われていたんだ。
しかし、俺の場合は話が違う。【ドロップ調整】なる壊れ機能によって、何億分の1の確率もくぐり抜けることができてしまうのだ! ……多分。
俺自身のステータスを弄った時とは違い、ドロップ率の前後にプラスマイナスのアイコンは存在していなかった。
これは予想通りだったので、特に動揺はない。
先日体験会に行った際、すれ違う人に隙あらば【解析】を用いていた。その人達の個人情報が網羅されており、ステータスもしっかりと表示されていたが、ステータスを調整することはできなかった。
この力を得たダンジョンで出会った龍を解析したときも、ステータスは見えたが弄ることはできなかったので、多分他人にはステータス調整の力は使えないんだろう。
一方で、身の回りにある物に対しては、限定的ではあるがステータスの調整ができた。
例えばスマホや服、財布、食器などだ。弄れるパラメータは耐久力や清潔度くらいだったが、確かに力は通じていた。
ヒトとモノで力が及ぶかどうかが決まるのか、それとも違う要因があるのか、今後解明していきたいところだ。
というわけで。目の前にいるスライムのステータスも見えるが、その数値を弄ることはできなかった。
それなのになぜドロップが可能になると思っているのか。
それは、ドロップリストにオンオフのトグルがついているからだ。というのも【ドロップ調整】スキルを使おうと思ったときに、いくつかの設定項目が出現したのだ。
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【ドロップ設定】
・権能保持者【柴田浩之】への確定ドロップ ON
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いくつかの設定項目の中にあった一つの爆弾。これをONにしたら、ドロップ率など関係なしにアイテムがドロップされるのではないのだろうか。期待が高まるってもんだ。
というわけで、早速気持ち悪いスライムを倒そう。視界の端に捉えていたスライムは未だ数メートル離れた位置にいる。これはスライムの動きが遅いということもあるが、俺の能力が向上したため思考のスピードが速くなったことも要因だ。
しかし……。これに攻撃をするのは嫌だなぁ……。シンプルに手を触れるのはベタベタしそうで気持ち悪い。
「でも、仕方ないよね」
これは戦争なのですよ。
インベントリから拳大の石を取り出す。これは週末に身体を動かす練習をしに行っていた時に拾っておいたものだ。
モンスターと戦うとき、どう攻撃するか。
現在の探索者のトレンドは、【
ただ、これは非常に価格が高いので、初心者探索者はホームセンターなどに売っている道具や、初心者向けブランドが販売しているダンジョン用装備など、武器になりそうなモノで対応しているわけだ。
一応、俺も近所のホームセンターで、鎌やハンマーなどは買ってインベントリに入れておいたが、やっぱりモンスターに接近するのはちょっと怖い。いずれは剣や刀などでバシバシやっていきたいとは思うけれど、慣れない内は安全にやっていきたい。
そこで考えたのが遠距離攻撃だ。
野球選手のように大きく振りかぶり、しっかりと軸足から身体を捻転させながら、腕を振り抜く。
超越した筋力と器用さが、プロ野球選手もびっくりな正確無比なコントロールを実現させる。
放たれた石は音速を超え、轟くような大音響が
石が当たった床は焦げて黒ずんでいるが、ほぼ元の形状を維持している。どんだけ堅いんだダンジョン。
「力……入れすぎてしまったかな」
本気ではなかったが、跡形も残っていないスライムを見るとやり過ぎた感しかない。弾け飛んだスライムに合掌した瞬間、ぽんという擬音が似合いそうな小さな光が目の前でいくつも現れ、アイテムがドロップされる。
「マジか……」
現れたアイテムは5つ。
薄青い液体が入ったオシャレなガラス瓶。幾何学模様が刻まれたビー玉。虹色に輝く
半ば呆然と目の前に現れたポーションを手に取る。特に何もしていないのに【ヒールポーション】と頭に浮かんできた。
アイテム――ダンジョンから産出されたアイテムは正式にはアーティファクトと呼ばれ、それぞれ名前が付けられている。これは誰かが決めているわけではなく、目の前にあるアイテムは、意識さえすれば脳裏に名前が告知されるというファンタジー機能によるものだ。
これによって、世界共通で統一された名称でアイテムの名前が確定できている。ただ、浮かんでくるのは名前だけで、残念ながら効果や効能などは一切分からない。
だから、せっかく入手したアイテムも上手く使うことができずに、涙を呑んだという事例は多々あった。
「ふふふ……だが、俺には【解析】があるのだ!」
まずは手に持つヒールポーションを解析する。
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【ヒールポーション】
身体に負った傷を癒やす回復薬。
効能としては、変形のある四肢外傷、中等度の熱傷、軽度の内臓障害等を癒やす。
経口摂取だけでなく、直接傷口に振りかけても効果はある。
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普通にゲームとかでよく見る
ヒールポーションをインベントリにしまい、次にビー玉を手に取る。
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【空間拡張源(Ⅰ)】
袋や箱など密閉空間のあるものに入れることで、その空間を拡張する。
ランクがⅠのため、5メートル四方の空間拡張が可能となる。
一度空間を拡張させると消滅する。
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「アイテムボックスじゃん!」
どうやらこの空間拡張源(Ⅰ)というアイテムは、アイテムボックスを自作することができるものらしい。アイテムボックスはまだ発見されたという話は調べても出てこなかったので、もしかしたら世界初のファンタジーアイテムをゲットしてしまったのかもしれない。
でも、アイテムボックスなんて公開しても大丈夫なんだろうか。密輸とか犯罪の臭いがするものに大活躍だろ、このアイテム。それに現在俺だけが
……どうするかは後で考えるか。
残ったスキルオーブにも解析をかけてみる。ただ、こっちは字面である程度の効果は判断できるし、実際ほぼその通りの能力だった。
【物理耐性】は、使用者が受ける物理的なダメージを25%軽減させることができる。
【回復促進】は、自身の治癒力を10%促進させ、傷の治りを早めることができる。
【空間魔法・拡張空間】は、自身の魔力を使うことで、アイテムボックス的空間を作ることができる。
これらのスキルには、それぞれ『★』が付いていた。リストには表示されていなかったが、【物理耐性 - ★★★★★】、【回復促進 - ★★★★★★★】、【空間魔法・拡張空間 - ★★★★★★★★】となっていた。どうやらスキルの『★』は、ドロップした瞬間に付与されるっぽい。星の数がランダムなのか一定なのかは、もう少し調査が必要だな。
「【物理耐性】は既に誰かが取得しているスキルとして登録が確かあったよな……【回復促進】と【空間魔法】は初めましてか?」
週末にパソコンの前にかぶりついていたとき、どんなスキルが見つかっているのかは調査済みだった。そこまで数は多くなかったので、多分間違いないはずだ。
「まぁ、それよりも大事なことは」
とりあえず【物理耐性】のスキルオーブを手に取り【全てはあなたの心のなかにある】スキル、【解析】スキルを発動させる。
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【物理耐性】
スキルオーダー:(-)★★★(+)
使用者が受ける物理的なダメージを25%軽減させることができるスキル。
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「おおっ!」
当たりだ! スキルオーダーの星の左右に、見覚えのあるプラスマイナスマークがある。
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【物理耐性】
スキルオーダー:(-)★(+)
使用者が受ける物理的なダメージを25%軽減させることができるスキル。
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よしよしよしっ! できたじゃないか!
スキルオーダーが|
そして、このドロップ確定からのスキルオーダー改竄能力という凶悪コンボに身震いしてしまう。
オーブが超高価であることの要因は、オーブそのものが稀少で出現率が低いこともあるが、それよりもそのスキルオーダーの難易度にある。
基本的に探索者達の天稟は
何はともあれ、出現してきたスキルオーブの多くは星4つ以上のオーブが多く、有用なスキルで星3つ以下はほぼ出現しないそうだ。そして当然であるが、効果的なスキルほどスキルオーダーの星の数は多くなっている。
ただ、同じスキルでもドロップされたスキルオーブによってスキルオーダーは違うので、一概に星の多さが有用度とは言えなかったりもするが……まぁ基本的には星の数の多さ=スキルの強さで良いんだろう。
そんなスキルオーダーの星を変更できるという、とんでもない権能が俺の【ステータス】という力なわけだ。
これはヤバすぎるだろう。どんなスキルでもスキルオーダーを
これはもうお金では計り知れない価値があることだ。知れ渡れば誰もがほしくなる力……絶対に公表はしてはいけないな。知られれば俺の自由はなくなってしまうだろう。
――なんならその力を独占するためにどこかに拉致されてもおかしくないよな。
まぁ、今の俺ならその状況すら力業でなんとかできそうだけど、自分から火をくべる必要はない。
かといってこれはお金稼ぎにはもってこいの力でもあるので、そこに関しては自重するつもりもない。要は適度にバランスを取りながら平和に暮らしていけるようにしていくだけだ。
そんな自己中心的な決意をスキルオーブとともにインベントリにしまいこみ、次の検証に取りかかる。
出てくるモンスターによって検証できることが違うので、まずはモンスターに出会わないと始まらない。できれば今日中にスライムともう一回、スライム以外のモンスターと戦いたい。
まぁ、出だしが予想以上に好調だったので、気分良く探索できそうだ。薄暗かった洞窟が、なぜか少し明るく見えた。
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