第12話 オベリスク

 受付横のゲートをくぐり、短い廊下を抜けると真っ白い部屋に出た。高校の教室くらいの広さの白い部屋は、天井だけは高かった。部屋の中心に数日前に見た虹色の【門】があった。ダンジョンへと続く扉だ。


 少しだけの懐かしさと大きな胸の高鳴りを感じながら【門】を潜る。

 一瞬の浮遊感の後、これまた数日ぶりの【祭壇】の部屋が目の前に広がっていた。


「やっぱり一緒なんだな」


 どのダンジョンも【門】と【祭壇】の部屋があり、そこがスタートとなっている。


「えっと、ここに触れば良いんだよね」


 講習会や白雪さんの話でもあったが、ダンジョンに入る度に【祭壇】――正式には神碑オベリスクと呼ぶらしい――には触れておいた方が良いそうだ。


 神碑オベリスクに触れることで、これまでに獲得した経験によって、極々まれにではあるがスキルの取得というレアイベントが起こることがあるらしい。


 他にも【位】によるランキング表示もあるらしく、自分のポジションを客観的な数値で把握することもできるそうだ。それにより挑むダンジョンの選別が多少はやりやすくなるみたいだな。ダンジョンによって難易度は違うので、自分の力量にあったダンジョンに挑戦した方が安全だし、攻略しやすいわけだ。


 というわけで、神碑オベリスクに手を載せる。前回と同様にスキャンしているような光が身体を通り抜けた。


 【個人情報が未設定であることが確認されました。登録しますか?】


「うん?」


 突然神碑オベリスクから半透明のホログラムが現れ、登録を求められた。


「個人情報って……登録しても良いけど……いや、待て!?」


 呟いてから気づく。これってもしかしてランキングに表示される名前も登録されるのか。何バカ正直に登録してんだよ。


 と慌てたところで、既に時遅し――


 【"柴田浩之"を登録、完了しました。ダンジョンをお楽しみください】


 とホログラム上にメッセージが表示されてしまった。

 ……。

 恐る恐る神碑オベリスクを操作し、ランキング一覧を表示させる。


 -------------


 Rank  Name

  1   S.Hiroyuki(JP)

  2   J.Wick(US)

  3   I.Muratov(RU)

  4   R.Butler(US)

  5   J.Bond(GB)

  6   J.Li(CN)

  7   D.Johnson(US)

  8   E.Bauer(DE)

  9   I.Mizuse(JP)

  10    B.Neeson(IE)   


 -------------


 ……。


「あかーん! やっちまった!!」


 これは罠過ぎるだろう……。




 済んだことは気にしない。

 そう、気にしたら負けなのだ。


 俺は無理矢理自分自身を納得させ、本名登録やってしまったことは考えないようにした。ちなみに登録名の変更は試してみたけどダメだった。多分そうやってみんな本名を登録してしまうんだろう。


 憂鬱になりそうな気持ちを奮い起こして、ダンジョン内部へ続く扉を抜ける。

 岡山ダンジョンの5階層までは、よくある洞窟型だ。


 内部へ入ると、目の前には岩のトンネルがあった。天井は高く、5メートル程の高さまでゴツゴツとした岩壁に覆われている。所々に明るく光る壁があり、それが光源となっているため、洞窟内にも関わらず視界は良好だ。この光る壁を持って帰れないかと試した探索者もいたようだが、ダンジョンの壁を破壊することはできなかったようだ。


「うーん……ドキドキするな」


 ダンジョンの印象としては、ちょっとお化け屋敷に似ている気がする。俺はお化け屋敷やホラースポットなどビビる系は苦手だ。テーマパークに行っても絶対にそっち系には行かないようにしている。


 つまりは現在ちょっとビビってドキドキしているわけだ。ダンジョン攻略にソロプレイが推奨されていない理由が分かった気がする。


 おどおどしながら周りを見ていると、二人連れの探索者が入り口から入ってきた。二人とも胸や頭など急所を守るための立派なプロテクターを身につけ、長い斧のような武器を持っている。ガチ勢だ。部屋着とほぼ差がないジャージ姿の俺とは月とすっぽんだな。


 俺の方を一瞥すると、興味なさそうに奥の方へと歩いて行った。俺はしっかり会釈したのに完全にスルーされた。くそう。


「大丈夫大丈夫大丈夫」


 二人組とある程度距離ができたところで、恐る恐る歩を進める。他の探索者と近い距離で行動するのはトラブルの元らしい。モンスターの取り合いやドロップアイテムの盗難はまだマシな方で、意図的にモンスターをなすりつけたり、酷いと攻撃を受けることもあるそうだ。世紀末かよ。怖い。


 というわけで、ある程度の距離を取って活動するのがダンジョンマナーになっている。


 事前情報によると、このまま100メートル程は真っ直ぐ一本道が続き大広間に繋がっているそうだ。数キロ四方ある大広間からはいくつかの大小の部屋があり、さらにそこからも部屋が続く。例えるなら蟻の巣を横にしているような形みたいだな。


 ただ、この階層は最初の大広間の中央に下の階層への階段があるそうで、広間から繋がる多数の部屋にわざわざ行く人はあまりいないそうだ。出てくるモンスターが微妙なヤツらばかりだから、わざわざ倒しに行くより下層に降りた方が良いというわけだ。


 俺は敢えて大広間を抜け、奥の方を目指そうと思っている。


 今回のダンジョン探索の目的は、俺のスキルについて考察したことが正しいのかどうかの検証をすることだ。そのためには強いモンスターと戦う必要はなかった。


 【全てはあなたの心のなかにある】スキルの【権能】。ステータス・インベントリ・解析・ドロップ調整という4つの権能があるようで、ステータスは能力を変更する力、インベントリは所謂ゲームなどでお馴染みのアイテムボックスの力をもっていた。


 では解析とドロップ調整の力はどうなのか。


 解析はすぐに分かった。最初に発動したのは、龍と対峙した時だ。龍のステータスだけでなくバックグラウンドまでをホログラムウインドウによって表示させてくれた。


 その後も家で何度か試してみた結果、おおよその力の把握はできたと思う。


 基本的な能力は、対象の情報を解析し表示すること。言葉で言えばそれだけだが、これがなかなかのチートだった。人や動物はもちろん有機物から無機物、果ては空想上のモノであっても解析し、その原料から作成方法までを明示してくれる。


 例えばテレビで拳銃が映っていた時に解析してみると、その拳銃の機能や構造だけでなく、拳銃を作成するために必要な素材や作成手順までもが表示された。


 これだけならまだしも、漫画に書かれてあった『不老不死の薬』を冗談半分で解析してみた時、その作成方法が表示された時はビックリ仰天だった。見たことのない素材がいくつも必要で作ることは無理だったが、もしかしたらダンジョンの中で見つかっていくのかもしれない。


 そんな解析のトリガーは、俺が『知りたい』と思うことと、その対象を『見る』か『思い浮かべる』ことだった。視界にないものでも、想像することで解析は発動する。


 見なくても解析できるとかどんな力だよと思うが、ただ、想像上のものを解析するときは、思い浮かべた状態のものを解析するようで、リアルタイムな今の状態を解析しているようではないみたいだった。


 また、ダンジョンに由来するものの解析は深く詳細にできるが、現実世界に元からあるものについては、ある程度の情報までしか解析できなかった。


 近所の犬を解析してみた時は、ステータスや飼い主の情報などしか解析されず、龍とは比較にならないほど少ない情報量だった。


 ただ、ものすごい力であることに違いはない。誰かを目にするだけで、一方的に名前やステータス、果てはその人が隠している秘密まで簡単に明らかにしてしまうんだ。


 使い道というか使い所をしっかりと考えないと、情報に溺れてしまう。一応、どこまで解析するかというのも、こちらのさじ加減で変えられるようだったので、そこはしっかりと意識していかなければならない。


 倫理観を試してくる恐ろしい権能だった。

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