第2話 とんでもスキル
目の前には、荘厳な祭壇のようなものがあった。
子どもの背丈くらいの細長いそれは、周りを取り囲むゴツゴツとした岩肌の中では凄く異質さを感じさせる。祭壇の上部には黒光りする平らなガラスのような板が鎮座していた。
「……これが
以前テレビで放送していたダンジョン特集で視たことがある。
基本的にダンジョンの構造として【門】があり、【門】をくぐった先には祭壇のある小部屋がある。これは必ずセットで存在しているようだ。そして、この小部屋を抜けた先にあるのが、ダンジョンのメイン部分だ。
数メートル四方の小部屋の中央に鎮座している祭壇。
初めてダンジョンに入った際には、必ずこれに触れたほうが良いということだった。
確かD《ダンジョン》カードを発現させたり、ダンジョン探索における様々な恩恵を与えてくれる、だったか。
正直異質なものに触ることに恐怖がないと言えば嘘になるが、それでも突然生まれた状況への興奮が勝っていた。
「触りますよーいいですかー」
誰への問いかけかは自分でも分からなかったが、とりあえず許可を小声で求め、当然のように返事がないことを確認した俺は、祭壇の上にあるガラス板のようなものに恐る恐る手を伸ばした。
「冷たっ」
掌をガラス板に載せると、思った以上の冷たさについ声が漏れる。
瞬間、ガラス板から一筋の光が発生した。まるで掌をスキャンするかのように、その光の筋は数度掌をなぞり、急激に速度を速め身体全体を光が貫いた。
光とともに体が崩れ、そして再構築されていくような不思議な感覚。それは一瞬で収まる。
ん? これで終わり?
と疑問に思った瞬間、目の前に免許証サイズのカードが突然現れた。
「おおー」
これがカードか。
カード――国が定めた正式名称は確か【ダンジョンにおける個人認識情報カード】とかいうロマンもへったくれもないつまらない名称の不思議カードだ。ダンジョンうんたらカードなんて名前が流行るわけもなく、一般的にはカードあるいはD《ダンジョン》カードと呼ばれている。
「どれどれ……」
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【氏名】 柴田 浩之
【位】 3,189,012,548
【恩恵】 空飛ぶ吼えるケモノ
【天稟】★★★
【スキル】全てはあなたの心のなかにある
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なるほど。情報通り、カードに記載されている情報はそう多くなかった。
まず氏名。これはそのまま俺の本名だ。
ちなみに表記が日本語なのは、俺が日本人だからだ。どうやらカードの文字は母国語で表示されているように見えるようで、例えばアメリカ人なら英語で表記されているらしい。ただ、そのアメリカ人のカードを日本人が見るとしっかり日本語表記になるようで、とんでもなくファンタジーだ。
続いて
これは全人類の能力を上位から並べた順位と言われている。能力――才能だけでなく、筋力、知力、俊敏性等々あらゆる人の力を総合したものらしい――をどう数値化というか他者と比較しているのかさっぱり分からないが、各国のお偉いさん達が結論づけているので間違いないんだろう。
どうやら俺は全人類の中でも真ん中よりちょい上くらいらしい。それが高いのか低いのかよく分からない。
その下には
ダンジョンに入りカードを取得することで、必ず一つの
有名どころでは剣士、魔術師、魔具技師、僧侶等々がある。これらはコモンギフトと呼ばれ、外れではないが当たりでもないらしい。
ダンジョンに挑む人たちが望む『当たり』にはどんなものがあるのかというと、剣聖、賢者といったレアギフトやユニークギフトと呼ばれる希少な
俺の
なんだこれ。悪者感あるし、あまり強そうではない。なんなら野蛮な感じが嫌だ。というか、恩恵ってこんな謎な言葉もあるんだな。職業的なものとか役割的なものしか聞いたことなかったけど……。
まぁ、ダンジョン探索を生業にするつもりはないから、別に構わないけど……できれば勇者とか聖騎士といった格好良い系が良かったけど……別に悔しくないし……。
ガッカリした気持ちを押し隠し、スキルを見てみる。
スキルは
で、俺のスキルは【全てはあなたの心のなかにある】……?
この背中がぞわぞわするようなスキルの名前は何だというのか。普通、スキルって剣士の恩恵持ちなら剣技、魔術師の恩恵持ちなら火魔術、鉱夫なら採掘といった感じで、恩恵に応じたものが貰えるはずだ。俺の恩恵が空飛ぶ吼えるケモノなる謎の恩恵だから、スキルも謎の名前になっているのか。
ちなみにこのカードには、ゲームのステータスのように筋力や敏捷性といった能力が数値化されて表示されるなんてことはない。よくあるファンタジーものでは必須の鑑定とかステータス閲覧とかそういったスキルも存在しないようだ。少なくともそんなスキルが発見されたという情報は聞いたことがない。
にも関わらず。
俺の眼前には――
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【氏名】 柴田 浩之
【位】 3,189,012,548
【恩恵】 空飛ぶ吼えるケモノ
【天稟】★★★
【スキル】全てはあなたの心のなかにある
【ステータス】
【インベントリ】
【権能】
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といった情報が記載された半透明のタブレット型ホログラムが浮かんでいた。
「なんじゃこりゃ」
記載されている内容はカードとそう大差ない。ただ、下の方に気になる文字列があった。
「……ステータス?」
それに意識を移した瞬間、また目の前に新たなホログラムが表示された。
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【氏名】 柴田 浩之
【位】 3,189,012,548
【恩恵】 空飛ぶ吼えるケモノ
【天稟】(-)★★★(+)
【スキル】全てはあなたの心のなかにある
【ステータス】
生命力 16 / 16
精神力 3 / 3
筋力 (-)7(+)
体力 (-)9(+)
器用 (-)12(+)
敏捷 (-)8(+)
知力 (-)11(+)
魔力 (-)2(+)
【インベントリ】
【権能】
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まるでゲームのキャラクター作成画面のようだ。いや、そのものなのか。
生命力と精神力の項目以外には、両端にプラスマークとマイナスマークがある。古典的なゲームでよくあるUIなので、なんとなくイメージはつかめた。ただ、
試しに筋力のプラスマークを押して――みようと思ったら、数値が7から8に変更された。どうやらタッチしなくても意識するだけで操作できるようだ。ただ、筋力値の値が変化しても、
これはどういうことか。
そういえば、カードのスキル欄にある全てはあなたの心のなかにあるを見て意識したときにステータスとかが出現したよな。
ということは、これは俺のスキルの効果……ということ、か?
「えっ、これって……凄くないか?」
思わず声が漏れる。
ダンジョンでモンスターを倒すと力を得ていく――これは既に明らかになっている。ダンジョンでの経験を積むほどカードに記載されている
しかし、どのステータスがどれほど成長するのかなんて、誰にも分からない。そもそもどんな能力値があるかなんてことも分かっていないのだ。それなのに、客観的に自分の能力や成長を測れるかどうか、これはとてつもないアドバンテージではないか。
さらにモンスターを倒すという経験なしに能力をあげることができるなんて、チートもチートだ。
「ちょっと試してみるか……」
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