ダンジョンでいきなり最強になったおっさん、元JKとまったり無双ライフを楽しむ。

大福

ダンジョンと最強のはじまり編

第1話 ダンジョンができていた

 家に帰ってきたら、我が家の庭にダンジョンができていた。

 仕事のストレスで幻覚が見えているんだろうか。

 ほっぺをつねってみる。痛かった。


 あれ、これは夢の中かどうかを確認するための方法だったっけ。

 幻覚かどうかを確認するにはどうすればいいんだろう。


 そんなことを考えながら、目の前に佇む虹色の【門】ゲートを見ていた。

 この【門】こそ、十数年前に突然この世界に現れたダンジョンにつながる扉……なんだと思う。


 ダンジョン――。

 未知とロマンがつまったファンタジーの巣窟。


 ゲームなどのクリエイティブな世界ではお馴染みのソレが、10年前、突然地球上の各地に同時多発的に現れた。

 もちろんお約束の通り、モンスターと呼ばれる怪物、ダンジョン内に眠る様々な資源やファンタジーなアイテム、そして特異な技能や魔法を引っさげて、だ。


 世界は混乱の坩堝と化した。

 そりゃそうだろう。突然現れた物理法則を無視した虹色の扉。その中には、想像上の産物でしかなかった危険な怪物が我が物顔で闊歩していたわけだ。ゲームにしか出てこないような怪物が、自分のすぐ隣にいることを想像したら夜も寝れなくなってしまう。


 子どもの頃、ゴジラが襲ってくる夢を見て、怖くておねしょをしてしまったのは良い思い出だが、そんな恐怖が現実に訪れたわけだ。


 連日連夜テレビで、ネットで世界の終わりが叫ばれていた。終末論者が得意顔でとんでも持論を撒き散らしていたが、あいつら今何してるんだろう。


 しかし。同時に世界は強かだった。

 突如現れた未曾有の脅威に、各国は犠牲を払いつつもダンジョンへの調査を余儀なくされた。


 ――ダンジョンからモンスターは出てこない。


 各国の調査の結果、ダンジョン内はモンスターの危険に満ち溢れているが、あくまでもダンジョン内だけに限定されることが分かったのだ。

 つまりダンジョンは触れてはいけない危険な動物園――最初はみんなそう思っていた。


 だが、世の中には蛮勇を売りにする物好きが一定数いるもので。

 先進国の多数はダンジョンへの立ち入りを封鎖しすぐさま国家の管轄下に置いたが、そうでない国も多数あり、封鎖されていない、あるいは公的に発見されていない――ダンジョンは人類の都合など一切気にせずあらゆる場所に誕生していた。それこそ、個人宅の中や温泉の中に発生したものもあるらしい。つまり政府の目の届かないところに発生したダンジョンがあるということだ――ダンジョンに突入する者が現れ始めた。国家としてダンジョンへのアタックを推奨した国もあったという。


 そこで発見されたモノに、世界は震撼した。


 最初は、資源だった。

 食糧難に悩むアフリカの某国がダンジョンから持ち帰ったモンスターのドロップアイテム。それが食肉として扱われ始めるまでにそう時間はかからなかった。


 同時にその国から拡散されていく未知の鉱物や、地球上では枯渇しそうな希少な資源。ダンジョンは――ダンジョンの種類によって採取できる資源は異なるが――無限の資源を生み出していたのだ。まさにダンジョンはフロンティアだったわけだ。


 それでも、この時湧き上がっていたのは国家運営に関わる一部の人間だけで、世間はニュースでその話題を耳にしても聞き流す割合の方が多かった。

 激震が走ったのは、アーティファクトと呼ばれるようになるファンタジーなアイテムの数々が発見されたと情報公開された時だった。


 国家は情報を秘匿しておきたかったのかもしれないが、SNSの発達したこのご時世に隠し通すことは難しかったようだ。


 動画配信を生業にしていたある国の若者が、ダンジョンに挑戦する様子を動画公開したのだ。

 そこに映っていたのは、ゲームもびっくりな展開の数々だった。


 現れるグロテスクな姿をしたモンスター。ソレに向かってアサルトライフルを放つ若者。銃弾の雨をくらい崩れ落ち光の粒と化したモンスター。興奮する若者。

 その若者が屈んで何かを拾い上げる。


 ――虹色に輝く珠だった。


「Wow!! On top of the world!! What the heck!!!! 」


 絶叫するかのように叫んだ若者がその珠を掲げると、珠が光輝き粒子となって消える。

 若者は「ワーオ」「エキサイティング」とか言っている感じで、ダンジョンの壁に向かって手を向ける。

 すると手から小さな炎が舞い上がり、ダンジョンの壁を黒く焦がした。


 ――魔法だ。


 ダンジョンの浅い階層で比較的簡単に取得でき、効果もほぼないに等しい魔法だということが現在では分かっているが、それでもその時のセンセーショナルぶりはとんでもなかった。


 スキルオーブと呼ばれるようになったそれは、人類に新たな力を与えるファンタジーそのものだった。


 当時は、ダンジョン内でネットにつながる環境はなかったようで、ライブ配信ではなく録画だった。そのため動画公開当初はCGなどの編集ではと言われていたが、ダンジョン外でも力が発現できるようで、ライブでそれを見ることができた。別人による同様の内容の動画の公開が続き、ついには各国がその情報が真実であることを認め、世界に衝撃を与えた。


 さらには、傷を癒やすポーションや灯りの消えないランタン、泥水を清水に変える柄杓など摩訶不思議なアイテム――アーティファクトも極々まれにではあるが見つかり始め、それらは目ん玉が飛び出るような価値を生み出し、国も企業も個人もこぞってダンジョンアタックを始めた。世はダンジョン時代となったわけだ。


 空想の世界が現実になった時、今度はそれらアーティファクトやスキルオーブなどにより力を得た人間が問題となってくる。


 驚くべきことにダンジョン内で得たその力は、ダンジョンの外でも同じように扱えたからだ。魔法の使い手や強力な武具などが世界に出回り、それを「良くない存在」が扱ってしまうとなれば、世界の秩序は簡単に崩壊してしまう。


 そこで各国は共同して、ダンジョンから出現するアーティファクトやスキルオーブを管理するダンジョン・アーティファクト管理機構――ADA(Agency for Dungeon Artifacts)を誕生させた。

 それにより一応は世界に落ち着きが取り戻され――ダンジョンというファンタジーを受け入れた新しい世界が生まれたわけだ。


 ◇


 おっと。

 どうやらダンジョンなんてファンタジーを目の当たりにしたことで、ダンジョンの歴史が脳内に流れていたらしい。


「しかし……まいったなぁ……」


 思わずくぐもった声が漏れてしまう。

 世界にとってダンジョンは確かにファンタジーで魅力的な存在だったが、俺にとってはどちらかと言えば遠い世界の話だった。


 ダンジョンが生まれ、ADAの許可の下一攫千金を夢見てダンジョンに挑むことが可能になった現在にあっても、俺はダンジョンと距離を取って生きてきた。


 いくつか理由があるが、一番の理由はダンジョンに挑む者たちの死亡率の高さだ。


 ダンジョンができた時に30歳を超えていた俺は、徐々に体の老化を感じ始めていた頃だった。そんな中危険がいっぱいつまったダンジョンに挑む勇気はなく、さらには公立校の教師という安定した職に就いていたこともあり、自然とダンジョンからは距離が生まれていたわけだ。


 もちろん、ダンジョンで活躍する自分を妄想したことは何度もある。でも、実際にそんなことはできないと諦めていたから、あまりダンジョンの話題にも触れないようにしてきていた。


 そんな俺の前にダンジョンが生まれても、扱いに困るといった感想以外出てこない。


「通報しないといけないよなぁ」


 そもそも現在は未知のダンジョンを発見した場合、立ち入ることなくADAに通報することが義務付けられている。その名目は国民の安全の確保だが、資源の流出を防ぎたいという思惑があるのは周知の事実だ。


 通報した場合、間違いなくこの家は接収されてしまうだろう。ADAがダンジョンとして管理することになり、この家は取り壊されダンジョン事務所が出来上がるわけだ。


 そうなったら俺は今日から住む場所がなくなってしまう。いや、多分何かしらの補填はあるだろうけど、頑張って建てた大切な家が失われてしまう。


「それはツラい」


 なら通報しないとどうなるか。逮捕だ。しかも結構重い罪になると言われている。それはさすがに嫌だ。

 通報しないといけないわけだが、できればしたくない。


「……はぁ」


 ため息をつきながら周りを見渡す。

 ダンジョンの生まれた庭は塀と背丈の高い木々に囲まれているため、外から覗かれる心配はない。おそらく俺以外の誰にもこのことはバレていないはず。


 ――やってみる、か。


 実はダンジョンを発見しても通報せずにすむ可能性が一つだけある。

 こいつが発生したことがバレる前にダンジョンを走破し、ダンジョンの支配者を滅するのだ。


 ダンジョンについては解明されていないことが多く、何のためにどうやって生まれるかなど未だ謎に包まれている。夜な夜なお偉い学者さん達が論じているとかいないとか。ただ、いくつかの特徴については、明らかになってきていることがある。


 そのうちの一つが、各ダンジョンにはそれぞれダンジョンを支配する存在――【マスター】がいることである。


 ダンジョンの主。

 まるでゲームのボスみたいな存在だが、実際にいるのだから仕方がない。


 そもそもダンジョンは数多く出現しているが、どれ一つとして同一のものはないそうだ。ダンジョンというイメージ通りの洞窟型から火山、氷雪原、海中、草原、遺跡……多種多様なダンジョンが存在しており、それらはダンジョンの主の特性が反映されている、というのが通説となっている。


 例えば、ダンジョンの主が炎を纏う鳥型のモンスターだった場合、そのダンジョンは火や空といったイメージから連想できるような作りになっているわけだ。


 特性が反映されるのはダンジョンの種類だけでなく、どれだけ深いダンジョンかという深度にも関係してくる。強い主がいるダンジョンほど、ダンジョンの深度は深く、凶悪さも増してくるのが一般的なようだ。これもADAがいろいろと尺度を作り規定している。


 ダンジョンの主の強さも結構な差があるようで、いまだ勝ち目の見えない主から子どもでも勝てるモンスターが主だったりするものまであるそうだ。

 そんなダンジョンの最奥で待ち構える主を倒すと、特別な報酬が貰え、ダンジョンは崩壊する。


 つまり俺の狙いは、最弱のダンジョンであることを願い突入し、主を倒し、ダンジョンを消滅させることに他ならない。


 一階層くらいしかないダンジョンなら、俺でもクリアできるだろう。多分。きっと。

 もし少しでも危険そうなら、その時は素直にADAに通報することにしよう。


 そんなことを考えながら、虹色の扉に飛び込んだ。

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