第3話
まだところどころ残雪の残る北部山脈。澄んだ雪解け水を讃えている小川のほとりの林道を一行は周囲に警戒しながら強歩で進んでいた。すでに城を発ってから3日ほどが経過している。
「隊長。敵襲だ。」
隊列の先頭を哨戒するヒルムから報告が来る。
確かに、耳を澄ますと何匹かの大型生物がこちらへ向かってくるが聞こえてくる。
焦げ茶色の髪を持つ小麦色に日焼けした肌を持つ小柄な少女ヒルムは、遥か東方の魔物の領域で生活する狩猟採集民にルーツを持つヘイムルの幼馴染で、ブリタの腹心の娘である。彼女はソナーのような自身を中心に1km圏内の空間把握ができる索敵に特化した権能を持っている。
そんな彼女の合図と同時に3人は散開し、ヒルムの手の短弓から、進行方向の茂みめがけて矢が空を駆ける。
「「ギャァアアアァァ」」
茂みから1本の角を持ったトラのような魔物が2匹飛び出してくる。ニードルタイガーだ。普通は争いを避ける臆病な種なのだが、何かの拍子で気が立っていたのだろう。
「俺とハルドルで対応する!ヒルムは引き続き周囲の警戒を!」
そう言い終わる前に、ヘイムルは獲物の業物である魔導サーベルを抜き放ち敵に向かってミュルクルを走らせる。
「ブヒヒン!」
凄まじい速度で彼我の速度は縮まり、ニードルタイガーがその鋭い角をしたから突き上げる寸前、ミュルクルが左に交わして既のところでこれを回避。そしてすれ違いざまにその首を一閃。
魔導サーベルの纏う雷の権能をもってその首を焼き切った。
ゴトリ
と音がして後方でニードルタイガーが倒れる音が聞こえた。
ふと仲間の方を見ると、ファーなどがついた黒い全身鎧を着込んだ大男。ハルドルがその手に握った戦鎚で手負いのニードルタイガーの頭部を返り血も厭わず粉砕していた。
「相変わらず力任せな戦い方をする…」
戦いが終わったへイムルたちは一処に集まる。
「男前な戦い方だろ?」
ヘイムルの苦笑いに対し兜のバイザーを上げ、人懐っこい笑顔を顔いっぱいに浮かべたハルドルが答える。
ブロンズの髪をもち、伸ばしたひげをいじりながらヘイムルを見下ろすハルドルは身長188cmの巨漢であり、怪力の権能を持つブリタの甥である。ブリタに実子がいない今、次期ラグナルズドッティル卿の継承権第一位である。そんな彼は三人の中では兄貴分的立ち位置で、今回の偵察では二人の保護者も兼ねている。
「脳筋。体力配分を考えていない。」
死骸処理を終えて戻ってきたヒルムが合流する。
「まぁ、ハルドルの脳筋戦法は今に始まったことではないけどね?…それよりヒルム、この状況どうみる?」
「異常。冬眠から覚める時期とはいえ、個体数が多い。領主様の推測は正しいかも。何か、異変があるのかも。」
「確かにいつもの倍近く交戦したなぁ。」
ヒルムの異常という指摘に対してバルドルが反応し、ヘイムルが少し思案したあと口を開く。
「それじゃあ、ここから山一つまたいだあたりにの小さな盆地に少し前の謎の飛来物の着地地点がある。そこを軽く偵察していったん引き返そう。2人とも異論はある?」
「「異議なし」」
「わかった。」
…飛来物墜落地点
ヘイムルたちからはるか遠く。数多の歯車が動く音の中に、一つの鼓動が脈打っていた。
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