第32話 祝杯 はじめての報酬と酔いどれた夜

「「「かんぱ〜い!」」」


「ぷはっ〜やっぱ仕事終わりはこれだね!」


「ぅう……苦い……」


「エリィはおこちゃま舌だな〜、アックス飲んどるかい?」


「お、おう」


「リチャーズ、お酒初めてじゃないの? 気のせいかしら? な〜んかやけに慣れてるような……」


 エリィのジト目が俺をロックオンする。


「そ、そりゃあ〜……初めてだよ!? もちろんさ! 俺達の村ではお酒飲んでいい年齢じゃないし、一緒に旅してきて一度も飲んでる姿なんて見たことないだろ?」


「ん〜……な〜んか怪しい〜。たま〜にリチャーズが大人っぽいというか、おっさんぽく感じる時があるんだよね〜」


「あはは……親父が、親父だったからね。そりゃあ性格形成に異常をきたすってもんだよ」


「そういうもんかね〜……?」


 それはそれは中身はおっさんだからね。日本人の時は毎晩一人で寂しく安酒を飲んでいたよ。


「アックス? アックス大丈夫〜?」


「んだよ! おれりゃあ〜、いつだって……だいじょ〜〜……ぶぅだ〜……えひゃひゃひゃひゃ……」


「リチャーズ、大変よ!?」


「大丈夫大丈夫、お酒に慣れてないだけ。そのうち落ち着くと思うよ」


「ほんとぉ?」


「……う〜んと、たぶん……ね」


「ぇえ〜、心配だよ〜」


 アックスは下戸げこか、意外だな。こりゃあ何でも出来るアックスの唯一の弱点かもしれん! お酒に関しては俺がアックスに勝てる、優越感〜。


「リチャーズ……なんでニヤけてるの?」


「あはは……ちょっとね」


 俺達は一度宿に戻ってシャワーを浴びてから、街の中心地にある酒場に来ていた。安くて料理が美味しいと噂のお店だ。俺達の故郷ではお酒は十八歳からだが、この街では十五歳からだ(おお、なんて素敵な街なんだ!)。飲酒していい年齢は同じ王都圏でも地域によってばらばら、噂によると十三歳からなんていう地域もあるらしい。


「それにしても意外だな〜、まさかエリィからお酒に誘うなんてね。あんなに報酬が少な〜いってなげいてたのに、本当に良かったの?」


「いいのよ。正直、財布事情はとっ〜ても厳しいけどね。でも、それとこれは別物よ。

 たまにの帰宅の時のお父さんがよく言ってたわ『クエストを終えたらお酒を飲むんだ! 命がかかる仕事だからな! 毎日を大事に生きる、そのためにもお酒で仲間と喜びを分かち合うんだ!』ってね。その話を聞くとね、冒険者って素敵だな〜っていつも思うの。幼少期は冒険者になることが不安で不安で仕方なかったけど、その言葉を聞く時だけなんだか勇気が湧いてきたわ。

 だからね、私も必ずクエスト達成後は仲間たちでお酒を飲もうって、喜びを分かち合おうって、そう決めてたのよ」


「なるほどね、いいお父さんだね」


「ええ、とってもね! それにしても……まさかこんなにアックスがお酒に弱いとわね〜」


「うぃ……おれぇは、酔っとらんぞ〜」


 だめだ、これは。まだビール一杯しか飲んでないのに。


「おや〜おや〜誰かと思ったら、リチャーズ君ではないか〜」


 背から聞こえてきた聞き覚えのある声に俺は振り向く。


「――ダリル!? はぁ、最悪だ〜! 初クエストの日にダリルに会うなんて〜……」


「ぁあ!? んだ、てめぇ! いっちょ前に生意気になりやがって!」


 おおっと、ついつい声に出してしまった。ダリルは俺の胸ぐらを掴む。どうやら彼らはさっき酒場に入って来たばかりのようだ。彼の後ろには子分の……ぇえっと名前なんだっけか? あ!? そうそう、ケイレスにトマス。それに……


「ダリル……良くない。……リチャーズの手、離す。……リチャーズいじめない。……ダリル……そう決めたはず……」


「……っけ!」


 意外にもダリルはあっけなく手を話した。なんだなんだ? やけに素直だな。実はファンナの方が立場が上なのか?

 ファンナはダリルに見えないように、俺達に向かって小さく手を振った。エリィはそれに答えるように小さく手を振り返す。様子を見るに一個前の村で俺たちと会ったことはダリルに話していないようだ。その方が良い。言うといろいろと面倒くさそうだしな。


「ところでだリチャーズ君、お酒を飲んでるってことはクエストをこなしたってことだろ? よかったら聞かせてくれよ。その初クエストをよ、何をしたんだ?」


 俺の肩に手をかけるダリル、俺はシャツの襟を直しながら答える。


「畑にいたスライムの駆除だよ……」


「……ん、あんだって? なんだってー?……よく聞こえなかったが?」


「だ・か・ら、スライム駆除だよ!!」


「え? スライムぅ? お前、今スライムって言ったのか!? なぁ聞き間違えじゃないだよなぁ? ぐふっ……ぐはっ、ぐっははははは〜……そんなんで大層に飲むなんてなぁ! 全くおめでたい奴らだ〜」


 ダリルとその子分二人は酒場にいる連中に見せつけるかのように大げさに笑った。ファンナだけはいつもどおり一切笑ってなく無表情なままだ。


「おい、馬鹿にするのもいい加減にしろよ!」


「おお、アックス〜! どうやら人選を間違えたみたいだな。スライム駆除なんて農家が勝手にやるようなもんだ! 冒険者がやるもんじゃねぇ。俺達は今朝はモーテル退治をやったぜ。あいつらはすばしっこいからな〜、スライムと違ってな! ぐへへへ……ちいっ〜とばかし大変だったけどな、まぁ楽勝だったぜ」


「ダリル、俺は人選を間違えちゃあいない! そこに依頼があればなんだってする。ベヒーモスだろうがスライムだろうがな!」


「ぐっははははっ! 冒険者なんてな、稼いでなんぼなんだよ! この街ではクエストの選り好みしなきゃあ、食っていけないぜ。俺達はな、今はまだモーテル程度に甘んじてはいるが、そのうちドラゴン退治が出来るぐらいにビックになってやるぜ!?」


「ふん、笑わせるな。ドラゴンなんて空想の産物だろ! いるわきゃあない。ダリル、子供じみた考えは捨てるんだな」


「アックスよ〜お前はリチャーズと組んでから、生ぬるくなっちまったみたいだな! ドラゴンはいるぜ。はるか北西の村、その村の先にある誰も知らない街に、ドラゴンの末裔まつえいが住んでると聞くぜ」


「末裔? 空想上のドラゴンがいると過程して、そんな図体のでかいドラゴンが街に住めるわけないだろう。人と共存なんてありえない。ダリル、まさかそんな幼稚な噂を信じるとはな……どうやらお前の頭の中がぬるくなったみたいだな」


 アックスは小馬鹿にするように肩を竦める。彼はさっきまでのへべれけの酔っ払いの様子が嘘のようにない。


「ぐへへへ……どうやら全く知らないようだな。ドラゴンの末裔は人型になれるんだよ。姿を隠して人と同じように生活してるのさ。これだから情報弱者は困るぜ」


「ふん、アホらしい! 姿を全く違う生物に変えるなんて、そんな芸当ができるわけ無いだろう」


「ぐっははははっ! つまらん、つまらん。話が通じねぇ奴とこれ以上会話してても無意味だぜ。せいぜいスライム狩りでも一生してるんだな! この弱小パーティーが!」


「――てめぇ!」


「まぁまぁ、アックス抑えて抑えて……」


 アックスは一度立ち上がったが、座り直した。ダリル達はバカ笑いをしながら、お店の奥へと行く。


「……ごめん。……ダリル、酷いこと言う」


「ファンナ、気にしないで。私達は全く気にしてないわよ。……あ、そうだ! ねぇよかったらさ、ファンナ今度私達と飲もうよ。お互い冒険者になった記念に!」


「……」


「ええっと……もしかして誘われるの嫌だったかしら? それともお酒飲めないとか?」


「違う。……誘われる、慣れてない……だから……。飲む、良い……嬉しい。……でも、エリィたちまだお金なさそう……今度お酒持って行く……宿に」


 ファンナは俺達のテーブルの上の料理を凝視してからそう言った。三人にしては料理は少ないし、安いものばかりをチョイスしている。


「そんな気にしないでよ〜。私達だってこれからうんと稼ぐわ!」


「……遠慮いらない。……僕、お金それなりにある……」


「そう、それじゃあお言葉に甘えようかしら〜!」


 エリィがそう言うと、ファンナは笑顔を見せる。中性的な顔立ち、アックスとは違った意味での格好良さがある。


 ファンナが立ち去った後、俺達はビールをもう一杯飲んで店を後にした。アックスはすっかり眠ってしまい、俺が担いで帰ることになった。


「ぅう……重い! こいつ、細身のくせに……どんだけ筋肉つけてるんだよ!?」


「リチャーズ、大丈夫〜?」


「大丈夫じゃない。お願い! 一回休もう……」


 俺達は街に入った時に見た噴水の広場で休んだ。


「――手を貸そうか?」


 空の星々を眺めながら休んでいた俺達に一人の少女が声を掛けてきた。


「……え?」


「その男を担ごうかって言ってるんだよ。宿はどこだ?」


 そう言うと、その少女はアックスを軽々しくおぶった。いや少女ではない、幼くは見えるが大人な女性だ。その女性はエリィよりも小さく、百五十センチもない。もしかしたら、百四十センチか百三十センチ台かもしれない。彼女はその小さな背に目一杯アックスを乗せて難なくと歩き出す。


 俺は彼女の顔を知っている。今朝ギルドの二階の酒場で見かけたポーニテールの赤髪の女性だ。

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