芋だらけの貧乏村に転生した俺、最弱スキル【図鑑】で幼なじみと逆転劇をやらかす

梅雨目

第1章 始まりの冒険者たち

第1話 芋だらけの貧乏村と、記憶喪失の少年

 目を開けるとそこに十歳ぐらいの女の子がいた。


「大丈夫?」


 俺は何をしていた? 頭がひどく痛い……この子は誰だ?


「痛てて……」


 俺は頭の痛みに耐えながら、女の子に上半身を起こされた。お起こしてくれた子を改めて見てみる。とうてい日本人に見えないその子は目鼻がしっかりしていて、おかっぱの髪はとてもキレイな金色をしている。


 ……ここは日本ではないのか?


「ダリルは本当にひどいよね〜。リチャーズのこと、いっつもい〜っつもいじめてさ〜」


「ダリル? ……リチャーズ??」


「……? ねぇ、ほんとうに大丈夫?」


「……ん、ああ、大丈夫だ。ちょっと痛みで混乱してるだけ。少し休めば元通りだよ」


「ほんとに?」


「ああ、本当さ」


 俺は立ち上がって、辺りを見渡してみた。殺風景で辺鄙へんぴな村。木と土壁でできた家々、枯れた大地にいやにまとわりつく風、それに運ばれる枯れ草、ここが日本でないことは分かる。

 何かしらの頭への衝撃で記憶が飛んでいるのだろうか? もっと村の景色を見れば何か思い出すかもしれない。


「ねぇ、ちょっと〜。ほんとうにリチャーズ大丈夫なの?」


 歩き出して、すぐに止められた。腕を掴んで静止させた女の子は俺に悲しげな表情を向ける。


 リチャーズ――どうやら俺の名前のようだ。


「大丈夫だよ」


 俺は心配されないようにと精一杯の笑顔を見せる。ちと大げさすぎるぐらいに。


「……」


 なんだ? 何か怪しんでいるのか? 俺は大丈夫だって。


「まぁ、リチャーズはいつもそんな感じか〜。どこかいつもと雰囲気違うように見えたから」


「あはは……なに言ってるんだ。俺はいつもこんな感じだろ」


? リチャーズやっぱおかしい! いっつもはって言うじゃん」


「……い、いや〜、なんていうのか〜……あ!そうそう、いつもダリルにいじめられるからさ。弱く見えないようにって言うようにしたんだ。今さっき決めた。あはは……」


「……」


 まずい、違和感がありすぎる。急に一人称の呼び方を変えたら、そりゃあ変だと思うだろ。

 記憶がありませ〜んって正直に申し出ても大して問題はなさそうだが、ここは言わない方が良い気がする。少しすりゃあ記憶が戻るかもしれないし、変に心配されて大事おおごとにされても困る。ここは日本とは違う、記憶喪失に対する医療で何をされるか分からない。


 聞いたことがあるぞ。むかし精神病患者に非人道的な手術をしていた時代、鼻だったか目の隙間すきまだったか、どっかから針を突っ込み脳みそのある部分を破壊する治療があったと。それとは違うと思うが、脳みそをいじられるのだけはごめんだ。バレてしまったら仕方ないが、バレるまでは通常運転と行こうじゃないか。


「……」


 ――ギクッ。まだ見ている。このままじゃ、頭に針突っ込まれてしまう!


「それもそうね。リチャーズ、いっつも僕は〜、僕は〜って言って、確かに弱そうに見えるわね。イメチェンも大事ね」


 ふぅ〜、セーーーフ。良かった。これで頭に針を突っ込まれないで済む。まずい、自然とガッツポーズが出てしまった! これはまた怪しまれる。


「あはは、なにそれ〜アックスの真似〜? そんなことしたって、アックスみたいに強くならないよー」


 良かった、変に思われなくて。アックスって奴はよほど強いのだろう。もし会ったら仲良くしとこう。


 ……そういえば、この子の名前はなんだ? ん〜思い出せん。こんなに近くにいるってことは仲がいいはずだ。家が隣り同士の幼なじみって感じか? もしそうだとしたら、リチャーズ羨ましいな〜。日本での俺は幼なじみの子なんていなけりゃあ、女の子に見向きもされない童貞男子だ。


 ……ん? 日本? なんだ、さっきから。っていうワードがなぜ出る? なんだ……俺は何を知っている……


「ねぇ、リチャーズ大丈夫? やっぱ頭痛む? おじいに見てもらおうよ」


「いや、大丈夫だよ。ちょっと目眩めまいがしただけだよ……」


 なんだ、頭が朦朧もうろうとする……そうだ俺は日本っていう国で生まれて日本で育ったんだ。

 そうあの時、俺は……死ぬことを決意したんだ――

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