お嬢様! 謎解きは契約に含まれないのですが?! ~シルバーロード商会の事件簿~
皐月 彦之介
プロローグ
プロローグ
「お集まりの皆様」
ルーナの凛とした声がホールに響き渡る。
豪奢なシャンデリアが照らす大広間には、数十人の関係者が集まっている。誰もが戸惑いの表情を浮かべ、互いに顔を見合わせている。
無理もない。彼らは当主の死を悼む法事に招かれたはずだった。
それが突然、若き女主人から「これより、叔父の悪事を暴く」などと宣言されたのだ。
広間の隅では、エドワードが静かに控えている。その隣には、青い顔をした会計係のリリィ。
そして俺──
「ルーナ! いい加減にしなさい!」
太った中年の男が、顔を真っ赤にして立ち上がった。ビル・シルバーロード。ルーナの叔父であり、今回の「被告人」だ。
「兄上の葬儀の場で、この私を犯罪者扱いとは! お前の父上が聞いたら何と嘆くか──」
「叔父様」
ルーナの声は、氷のように冷たかった。
「父が何を嘆くか、ですって? 自分の遺言を偽造され、商会を乗っ取られようとしていたと知れば──怒りで墓から蘇るかもしれませんわね」
ざわ、と波紋のように動揺が広がる。
遺言の偽造。それは最も重い罪の一つだ。
「証拠もなしに!」
「叔父様、そんなに慌てなくても証拠ならちゃんとお見せしますから」
ルーナは招待客たちに向かって高らかに声を上げる。
「皆様! こちらにいる私の助手であるタクミは異世界人なのです。そして、異世界人には特殊な能力が宿るという話を聞いたことはありませんか? これからその力を使って証拠を見せて差し上げます」
招待客たちがどよめきをあげる。異世界人なんておとぎ話の存在じゃないかと言った声が、そこかしこから聞こえてくる。
「このティーポットを覚えていますか? さきほどメイドが皆さんにお出しした紅茶を淹れるのに使っていたものです。私の助手、タクミの能力はこういったモノの記憶を再現して見せてくれるというものです。早速このティーポットの記憶をみなさんにお見せしましょう!」
ルーナは招待客たちを見回すと、俺の方に振り返った。翡翠の瞳が、確信に満ちて輝いている。
「タクミ、お願い」
「了解、任せておいてくれ」
俺は一歩前に出て、テーブルの上のティーポットに手をかざした。
意識を集中させる。
──対象:このホールにいたメイド。
──場所:この大広間。
──時間:一時間以内。
──行為:紅茶を淹れる。
条件が揃った瞬間、俺の中で何かが共鳴した。これだけ多くの条件ならかなりはっきりとした姿が浮かび上がるはずだ。
ティーポットが淡く光り始める。
そして──その上に、巨大な光の幕が展開された。
八十インチはあろうかという半透明のスクリーン。
そこに映し出されたのは、メイドのリゼットが紅茶を淹れている姿だった。
「こっ……これは……!」
招待客たちから悲鳴に近い声が上がる。
「動いておるぞ! まるで本人がそこにいるかのように!」
「それに声まで……! 周りで話している我々の声が聞こえる……!」
「あの巨匠の絵画より緻密ではないか……!」
広間は騒然となった。
貴族たちは目を見開き、商人たちは互いに囁き合っている。
俺のスキル
物体に宿った記憶を読み取り、映像として再生する能力。
この世界の人間には使えない、異世界人の俺だけが持つ力だ。
ルーナは満足げに頷き、聴衆に向き直った。
「お見せした通り、タクミの能力は条件さえ正しく設定すればモノの記憶を再現することが出来るの」
彼女の唇が、優雅な弧を描いて動く。そして、ルーナは叔父のビルに視線を向けた。
「さあ、叔父様」
その声には、氷のような冷徹さと、燃えるような怒りが同居していた。
「あなたの悪事、白日のもとに晒して差し上げます」
ビルの顔から、血の気が引いていく。
これが、俺たちの戦いの始まりだった──。
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