一軍女子になぜか気に入られたんだが

さとうがし

一学期編

第1話 とんでもない場面を目撃

 一ノ瀬匠。それが俺の名前だ。

 夢乃原学園一年五組。現役の男子高校生。


 入学してまだ一カ月しか経っていないが、絶賛俺はぼっちスクールライフを満喫しているところだ。


 と、堂々と宣言してみたけど、自分でぼっちスクールライフと言っていて、恥ずかしくなったのでもう言わない。


 俺は中肉中背、学業成績もそこそこ。

 運動は球技が大の苦手で、それ以外だったら平均的だと自負している。


 顔はまあ……カッコいいと自画自賛しておこう。

 実際、中学生の時に告白されたことあるからな! 


 その告白はただの罰ゲームだったが……うん。

 まったく、モテる男は困るぜ! と、不思議と涙が止まらない。なぜだろうか?


 現在の俺は友達はいないが、悪くない学生生活を謳歌している。

 いじめもないし、誰にも邪魔されず好きなように過ごしている。

 平穏・平凡がモットー。目立たなくていい。静かに過ごしたい。

 そう思いながら今日も学校に通う。



 チャイムが鳴って四時間目の授業が終わった。これからお昼休み。

 俺はすぐにカバンから昼食の入ったビニール袋を取り出し、駆け足で教室を後にした。


 廊下に出てきた生徒たちをすり抜け、屋上手前の階段の踊り場にやって来た。

 最近はここで昼食を食べている。


 校舎の一番東側に屋上に繋がる階段で、職員室が近いこともあり、生徒はあまり近寄らない。俺のような陰キャのぼっちからすると、一人で昼食を食べられるのはありがたい限り。


 最初は教室で食べていたが、周りのクラスメイトが友達を作って騒がしくなったので他の場所を探した。


 食堂で一時期昼飯を食べていたが、そこで盛大な告白をやって失敗した人を見てしまい、あまりにもいたたまれなくなって行かなくなった。


 あの人、元気にしてるかな……。

 昔流行ったフラッシュモブまでやって、盛大に告白して速攻でフラれたけど。


 紆余曲折あり、昼食を一人で食べられる場所を探しに探し、絶好のスポットを見つけた。それがここ――屋上手前の踊り場だ。


「栄養バランスを考えた方がいいよなぁ」


 コンビニで買ったパンを食べながら、自分の健康を心配してしまう。

 ここ最近、朝昼晩すべてコンビニかスーパーで済ませてしまうことが多い。

 自炊するという選択肢はあるが、時間と手間がかかることから途中で挫折。


「カレーでも作ってみるか」


 ご飯を炊くことでさえ、億劫になってしまう俺に果たしてカレーを作れるか。

 そんなことを考えていると話し声と足音が聞こえてきた。

 徐々にこちらまで近づいてきている。


 俺は慌ててビニール袋を手にとり、屋上のドアがある場所まで上がっていく。

 ここは生徒が勝手に屋上に入らないよう、椅子や机が積まれていている。

 が、よく見ると隠れるには丁度いいスペースが生まれているのだ。


 するりとそのスペースに体を隠し、近づいてくる声に耳を立てた。

 まったく。俺の昼食を邪魔する不届きものは誰だ、と思っていると、


「千鶴。話ってなんだ?」


 この声……佐藤千尋で間違いない。

 俺のクラスメイトで別世界に生きる男子生徒だ。


 夢乃原学園で知らない人はいないイケメン君。

 陽キャに分類される人物で、俺と比べると知名度やルックス含め、何もかも雲泥の差があるほど高みに存在している。


 イケメン、高身長、勉強できる、運動神経もいい。おまけに性格もいいと聞く。

 完璧すぎて、いつも光り輝いているもん。あいつの周りだけ、少女漫画みたいなエフェクトがついてる。キラキラ~って。


 その佐藤が口にした名前。同じクラスの女子、佐倉千鶴で間違いない。

 彼女も佐藤の隣にいても違和感がないくらい、お似合いの美女だ。

 ボブヘアーに赤いヘアピンが特徴の、佐藤たちと常に一緒にいる陽キャの一人。


 二人は野球で例えると一軍メンバー。

 俺のような二軍にも行けない三軍人間からすると、二人は輝かしい存在で目立つ。クラスの中心であり、それにたがわぬ存在感がある。


 周囲からお似合いと言われるくらい、美男美女のペア。

 なぜ二人がこんな僻地に?


「ここなら誰にも邪魔されないと思ったの」


 佐倉の声は震えていた。


「今じゃないとダメなのか?」


「う、うん」


 顔を出して覗き込んでみると、あの二人が踊り場にいる。

 佐藤はいつも通りだが、佐倉はおどおどしている。


(もしかすると……)


 佐倉の雰囲気、人のいない場所に男をわざわざ呼び出したという事実。

 この情報だけでこれから行われることに大体の予想がついた。


「あ、あのね。大事な話があるの」


「大事な話?」


「うん」


「話って?」


「えっと……ね」


 佐倉はもじもじとして言葉が出てこない様子。一方の佐藤はイラつくことなく、落ち着き払っている。


「ここじゃないと話せないこと?」


「うん。ごめんね」


「謝ることはないよ。千鶴のペースで話せばいいから」


 佐藤はフォローを忘れない。こういう細かい気遣いがモテる秘訣なのかもしれない。けしからん……参考にしよう。後でメモしなきゃ。


「深呼吸して。落ち着くと思うから」


「わ、わかった。すー……はー。よしっ」


 深呼吸をして覚悟を決めた佐倉は震える唇を開いた。


「私は佐藤千尋のことが好きです! だから、その……私と付き合ってください」


 なぜ彼女が佐藤をここに呼び出したのか。それは告白するためだ。

 佐倉は頭を下げ返事を待つ。返事を待つ間は不安と緊張で息が詰まっているだろう。


 イエスと言ってくれるかもしれない。ノーと言われるかもしれない。

 どっちに転ぶかによって天国と地獄が待っている。

 

(青春してるな)


 他人事のような感想を抱く俺をよそに、佐藤は迷うことなく言った。


「ごめん。僕は千鶴と付き合うことはできない」


「……なんで?」


「別に好きな人がいるんだ」


「誰なの?」


「言っても分からないよ。この学校にいないから」


「……そっか」


 二人の間で時間が静止した。

 それから数分、沈黙が続いたが、


「まだお昼食べ終わっていないから。ごめんね」


 佐藤はそう言って踊り場からいなくなった。一人残された佐倉は壁に寄りかかって静かに崩れ落ちた。そして、子どものように泣き始める。


「……」


 なんというか、とんでもない場面に遭遇してしまった。

 クラスメイトの男女の告白の一部始終を盗み見してしまい、更にはフラれて悲しむ姿までも目撃してしまった。


 可哀想だ、と思った。けど、これが青春なんだなとも思った。

 甘いだけが青春ではない。酸いも苦いも青春の一部であり、彼ら・彼女らの高校生活を彩り、将来の糧となる。


 さて。この狭い空間からいい加減出て行きたい。

 狭く、ホコリっぽいこともあって限界が来そうだ。

 あ、やばい。くしゃみが――


「っくしょん!」


「だ、誰?!」


「あ」


 目と目が合う俺と佐倉。俺の日常はこれを機に、徐々に崩れ落ちることになるのだった。

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