第8話 大団円
今村は、
「俺が殺されれば、この中身を見て、できるだけのことをしてくれ。だけど、無理をするんじゃないぞ、俺が殺されるくらいなんだから、へたに動けば、お前も危ない」
といって、坂巻記者に託したのだ。
それは、坂巻記者しか知らないことだった。
本当であれば、
「これは、墓場まで持っていこう」
と思っていたのだが、警察が、
「川崎会長が行方不明になった」
ということで、公開捜査に乗り出したことで、坂巻記者は、何か思うところがあったのか、その証拠のようなものを警察にもっていった。
それは、
「USBメモリ」
に書かれた今村記者の記事だった。
そのままでも、記事として通用するように書かれているが、実際に、記事になっているわけではない。
坂巻記者が、
「墓場まで持っていこう」
と、本当は今村記者に頼まれた、
「遺言のような言葉」
であったが、さすがに、それを大っぴらにするには、
「自分一人ではどうしようもない」
と思ったのだろう。
それを考えると、警察も、
「うかつに手を出すことはできない」
というものであった、
そこに書かれている記事というのは、まるで、
「探偵小説」
のようなものだった。
だから、
「これを直接使おうとしても、何の根拠もないことだ」
ということで、相手にされないだろう。
そればかりか、
「もし、核心をついていれば、殺されかねない」
ということで、今村は殺されたのかも知れないと思ったのだ。
今村は、
「自分の殺される場面も克明に描いていた」
というのだ。
「彼は学生時代には、作家志望だった」
ということもあって、フィクションでありながら、ところどころにリアリティがある。
自分が殺されるのも、
「死体を動かす」
ということ、そして、
「間違い殺人ではないか?」
と警察に思わせるというところ、
まるで、最初から分かっていたかのように書いているのだ。
そこが、
「リアリティがありながら、空想物語としては、完璧な内容」
というすごい話になっているのであった。
そして、なんといっても、この事件で一番の肝は、
「話の中では、誘拐された会長は殺される」
ということになっているのだが、実際に誘拐までは、
「物語の通りに展開している」
ということになる。
そして、会長を殺そうとしている人たちの中から、警察は前述の三人に犯人を絞り込んだと書かれていた。
だが、実際には、
「三人の共犯」
ということであった。
お互いに
「動機というものはまったく別であり、奥さんと、最初の容疑者である、彼女を自殺に追い込まれたという男性の間で、共犯というのはある」
ということになり、
「実際に、妾の子供」
ということを含めると、
「無理がある」
という犯行になるだろう。
しかし、彼を引き入れることで、
「共犯としてありえない」
と警察の通り一遍の捜査では思わせるような、
「カモフラージュ」
として考えられたことであった。
それぞれに、
「十分な動機はあるが、だからといって、協力関係になるというのは、考えにくい」
つまり、
「利害関係の一致」
というだけの犯罪ということで、
「事件というものをいかにカモフラージュするか?」
ということに特化した犯罪ということではないだろうか?
ただ、彼の物語の中で最後にどんでん返しがあった。
それは、
「この事件を計画したのが、実は会長だ」
ということであった。
しかし、実際には、最後に会長は、殺害されて見つかるということになった。
それこそ、
「事実は小説よりも奇なり」
ということを表しているのかも知れない。
問題の一つとしては、
「ストーリー性の関連が薄い」
といわれるものであり、
さらに、
「策を弄すれば弄するほどに、見えてくるものが狭まってくる」
ということで、ある意味、事件というものは、
「思い通りにいかない」
ということであろうが、事件を客観的に考えることで、全体が見えるということなのか、それとも、
「一人に特化して、自分の目というもので見ることで、逆に全体が見えてくる」
ということになるのか。
そのあたりが、
「今回の犯罪というものが、いかに裏の裏を見るということで、この小説が、ベストセラーになる」
ということを示しているだろう。
実際に、今回の事件が、
「本当に警察を翻弄した」
ということでの評価で、
「世間に受け入れられるということになれば」
というものであった。
それこそ、
「死んでからの、二階級特進」
とでもいえるのではないだろうか?
( 完 )
二階級特進 森本 晃次 @kakku
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