第37話 6月17日。木曜日。
1時間目の授業は国語だった。
寝癖のついたボサボサ頭の田村が
ホワイトボードに板書をしていたが、
その後姿は若干くたびれていた。
この2週間、
毎日着ていたグレイのスーツには
皺も目立っていた。
妻鳥の死後、
担任である田村は
校長や教育委員会そして保護者、
さらにはマスコミからも
散々追及されていた。
ネットでは学校側がイジメの事実を
隠蔽しているのではないか
という声が上がっていたからだ。
当然のように田村は
「イジメはなかった」
と主張したようだが、
その点については僕も同意見だった。
それでも。
たとえ担任とはいえ一教師が
生徒のすべてを
知っているわけではないというのも
事実だった。
そもそも。
親でさえ我が子のことに関しては
何も知らないのだから。
僕は欠伸を噛み殺しながら
隣の列の一番前の空席を見た。
円は『Dゲーム』で奴隷に選ばれた
あの日の翌日から学校を休んでいた。
「奴隷と言っても雑用係だし。
1か月ごとに投票があるんだから
深く考える必要はないわ」
『Dゲーム』を提案した時、
そう言って笑っていた円が
自らが作ったゲームによって
追い込まれたのは
まさに皮肉としか言いようがなかった。
罰ゲームと笑っていられるのは
自分が安全な立場にいるからである。
名ばかり奴隷でも女王様にとっては
耐えられない屈辱だったのだろう。
あの日。
どうして円が選ばれたのか。
これまで気にしたことはなかったが、
よく考えれば甚だ疑問だった。
円に票を入れたのは・・。
マリア。
薬袋と三木の仲良し2人組。
そして円の忠実な下僕である雲泥。
4人は予め示し合わせていたのだろうか。
だが。
『Dゲーム』の結果を受けて
雲泥と共に女王様の下を去った久瑠は
剣野に票を投じている。
そこが解せなかった。
なぜ久瑠の票も取り込まなかったのかと。
つまり。
彼女達は示し合わせることなく
個々の意思で円に票を投じたことになる。
それが何を意味するのか。
僕はぼうっとそんなことを考えていた。
「おーい、冬至!
聞いてるのか?」
その声に驚いて
僕はビクッと体を震わせた。
「は、はい!」
そして慌てて返事をした。
「じゃあ続きを読んでみろ」
「えっ!
あ、は、はぁい・・」
僕は教科書を手に立ち上がった。
「24ページの3行目から」
隣の席から幻夜の声が聞こえた。
僕は急いでページを開いた。
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