第28話 視線
「いらっしゃ・・あら、冬至くん。
おかえりなさい」
僕が店のドアを開けると
望月夜也の声が耳に飛び込んできた。
はっきりとした年齢は聞いていないが、
夜也は幻夜と並んでも親子というよりも
姉妹にしか見えなかった。
しかし。
その性格は正反対で
夜也はお淑やかで上品だった。
似ているところがあるとすれば
それは・・。
幻夜が美しいのは
夜也の血を引いているからだ
と断言できた。
ただし。
幻夜の胸が大きいのは
遺伝というわけではなさそうだった。
カウンターに座ってぼんやりと
そんなことを考えていると、
奥からコップを持った幻夜が現れた。
僕の視線は無意識のうちに
黒麹色のエプロンの胸元を追っていた。
「随分と遅いわね。
寄り道してたのね。
お店を手伝わないのなら
少しは早く帰ってきて
勉強でもしたらどうなの?」
「ちぇっ。
さっきも同じような台詞を聞いたよ」
僕がそう言うと
幻夜はきょとんとした表情を浮かべた。
「気にしなくていいよ。
こっちの話だから」
「ま。
いいけど。
それより。
話があるんだけど。
後で部屋に行っていい?」
そして幻夜はコップを僕の前に置いた。
「ぼ、僕にはないけど・・」
僕はコップを手に取って
コクコクと水を飲んだ。
視線はふたたび自然と
黒麹色のエプロンの胸元を追っていた。
「こんな可愛い女の子が
話があるって言ってるんだから
喜びなさいよ」
「おかしいな。
聞き間違えじゃなければ
可愛いって聞こえたんだけど。
どこにそんな子がいるのかな?」
僕はキョロキョロと周りを見回した。
「そっか。
冬至は安武マリアのような女の子が
タイプだったわね。
やめときなさい。
『綺麗な薔薇には棘がある』
って言ったでしょ?
それに。
彼女が冬至を相手にするとは
思えないわ。
あと1つ言わせてもらうけど・・」
「わ、わかったよ!
僕が悪かったよ!」
「初めから素直に
そう言えばよかったのよ。
じゃあ手伝いが終わったら
部屋に行くわね。
見られちゃマズいモノは
それまでに片付けておきなさい」
「そ、そんなものあるわけないだろ」
僕は動揺を悟られないように
ふたたびコップに口をつけた。
「そうそう。
良いことを教えてあげるわ。
女の子の胸を
チラチラと見ないほうがいいわよ。
全部バレてるから」
「ブッ!ゴッ!ゴホッゴホッ!」
気管に水が入って僕は激しく咳込んだ。
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