三章

第24話 スガワラ

その日。

朝から降り続いていた雨は

放課後になってからも

止むことはなかった。

校門を出て圭太と良司の2人と別れた僕は

本所町へと足を向けた。

「本所町第二公園」を抜けて

その先の『クリーンマート』で

微糖の缶コーヒーを買ってから

2丁目の外れにある一軒家の門を叩いた。


「やあ。

 久しぶりだねぇ。

 ちゃんと勉強はしてるかい?」

書斎に入ると

和服姿にネクタイという

奇抜な格好のスガワラさんが

僕の方へ笑顔を向けた。


茶髪のマッシュパーマの下には

やや垂れ気味の二重の目があった。

細い鼻に薄い唇のあっさりとした塩顔。

大学生と言っても通用しそうな童顔で、

本人も永遠の30歳を自称していた。

体を動かすことよりも頭を使う方が得意

という本人の言葉通り、

その体は華奢で男としては

多少頼りなく見えた。


「スガワラさんまで学校の先生みたいな

 ことを言わないでよ」

僕が苦い顔をするとスガワラさんは

「これでも一応塾講師だったからねぇ」

と言って「ははは」と自虐的に笑った。

「それで?

 君がここに来るということは

 何か困ったことでもあったのか、

 それとも・・」

僕はパソコンの置かれた机に腰掛けて

買ってきた缶コーヒーを開けた。

「・・実はさ。

 今月の初めに、

 クラスの女の子が自殺したんだ・・」

「そういえば。

 たしかニュースになっていたねぇ。

 中学生の女の子が

 校舎の屋上から飛び降りたと」

「うん・・」

「歯切れが悪いね?

 彼女の自殺に

 何か引っかかることでもあるのかい?」

僕はどう説明すればいいのか迷った。

「実は最近、

 越してきた同居人がいてさ。

 その同居人がさ・・」

「自殺ではないと?」

僕は首を横に振った。

「そこまではっきりとは言ってないけど。

 この件にすごく興味を示しててさ。

 でも警察は自殺って断定してるし・・」

「そうだねぇ。

 警察を悪く言いたくはないけど、

 彼らは所詮捜査権を持っただけの

 一般人だからねぇ。

 特別に捜査能力に

 優れているわけじゃない。

 現に世の中は未解決事件で溢れている。

 いや。

 未解決でも・・。

 事件になっているだけ

 マシかもしれないね」

そこでスガワラさんは

悲しげな表情を浮かべた。

「それで。

 君はどう思ってるんだい?」

「ぼ、僕は・・。

 彼女が自殺したって聞いた時は

 正直驚いた。

 とても信じられなかった。

 だって彼女は・・」

「ふむ。

 クラスメイトである君が

 彼女の自殺に疑問を抱いてるのなら、

 自殺以外の可能性も

 考えられるかもしれない。

 でもねぇ。

 人の悩みは

 他人にはわからないからねぇ。

 彼女にも死を選ぶような悩みが

 あったのかもしれないよ」

そう言ってスガワラさんは何度か頷いた。

「実はさ・・」

そして僕は『ピーピングトム』について

スガワラさんに話した。

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