第2話1
時はクリスマス。
ニャンニャンズが暮らす町から、クリスマスプレゼントが消えたところから、物語は始まる。
場所は人気の無い、丑三つ時の工場。
昨今、24時間フル稼働する工場が多い中、この工場だけが夜9時以降には終業時刻を迎えていた。
機械のモーター音だけが、夜の帳に響く敷地内に、サンタクロースの格好をした者が、頻りに地面を見つめている。
まるで身を隠すかのように、全身黒づくめのサンタは、背後に同じ姿の仲間数匹を従わせていた。
決して正体を明かすまいと選んだサンタ服の襟を整えながら
「これでこの地域全体のオモチャを集め終わったにゃ~」
と、口をへの字に曲げて言う。
勝利に酔うボス猫に、仲間達は祝杯をあげるかの如く、次々と雄叫びをあげた。
その中で冷静な態度をとっていた、一匹の三毛柄の子猫が、さも不思議そうに
「ところで、この真っ白い袋の中味は一体何なのかにゃ?」
と、得意気空を仰ぐボス猫に訊ねる。
彼等の足元には、絹で出来たような白くて光沢がある袋が、三つ置かれていた。
子猫三匹が悠々と乗れる程の大きさの袋は、皆真っ平らではなく、ゴツゴツしている。
“それか?”と訊ね返したボス猫は、少し含みを持たせ
「大人のオモチャが入っているにゃん」
と、胸を張って答えた。
その会話を聞いた黒毛のハチワレの子猫が、袋の紐を解き、中を恐る恐る覗き見る。
そこには、剣玉や縄跳びの縄、漫画本に小説と、ありとあらゆる遊具が詰められていた。
「確かに、大人のオモチャで一杯だにゃん」
袋の口を縛り直しながら、ハチワレの子猫は半ば納得した口調で答えた。
どうやらボス猫達が遊べない遊具全て、大人のオモチャと呼んでいるらしい。
「しかし、ボス」
今度は白毛の子猫が、達成感に浸るボス猫に、新たな疑問を呈した。
「町中からこんな物を集めて、一体何を企んでいるのにゃ?」
「こんな物……これは人間達が騒ぐ祭の一つ、クリスマスに贈る、プレゼントというものにゃ」
「何と、この物がかの有名なクリスマスに贈り合う品々なのかにゃ!」
「そうにゃ!」
ボス猫は深く頷くと同時に、風で[[rb:捲 > メク]]り上がりそうな黒いフードを、手で押さえながら
「我々猫に対して存外な態度をとるくせに、対人間だとこんないい物を贈り合い、友情や愛情を築き、育てているのにゃ!」
と、目を吊り上げて憎々しく答える。
その声はまるで、今にも獲物を取られまいとする、あの独特な唸り声によく似ていた。
「何だ、単なるボスの嫉妬かにゃ」
思わず心の声を漏らした白毛の子猫。
“はっ”と気付くも、ボス猫の耳には届いてはおらず、すーっと大きく息を吐いてから
「成程、ボスの言う通りずるい奴らだにゃん」
と、少々焦りながら、ボスの気持ちに同調する。
「そう……だから、町内中からクリスマスプレゼントを盗み、この工場へ時間をかけて運んだのにゃ!」
「世界中ではないんだにゃ……」
「と、ともかく、これで今年のクリスマスは、町中が静寂に包まれること間違いなしにゃん!」
恥を隠すように胸を張るボス猫。
子猫達が放つ呆れた視線にもめげず、“どうだ!”と言わんばかりに、ボス猫の高笑いが工場の敷地内に響き渡った。
しかし、ボス猫が笑い続けるのも、どうやらここまでのようである。
「そこまでにゃ!」
「誰にゃ!?」
突如トタン屋根から聞こえた声に、怪訝な表情を浮かべて仰ぎ見たボス猫。
その瞬間、顔を隠していた闇色に染まったフードが、パサリと音をたてて滑り落ちる。
現れたその顔もまた、黒一色の毛で覆われていた。
「やっと見つけたにゃ……黒サンタ!」
「そ、その声は、ニャンニャンズ!?」
“何故ここに?”という言葉を、驚愕の視線に乗せて送るボス猫。
トタン屋根には、お揃いの赤いサンタ服を身につけた3匹の猫達が、横一列に並んでボス猫を睨んでいた。
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