第2話 元仲間たちが土下座してきたけど、もう遅い^^…らしい

 そんな小説を俺は会社終わりの電車の中で見ていた。暖房の風に煽られないスマホという文明的な本棚に感銘を受ける日々、ありきたりな座席も高級なソファのように安らいでしまう。少し前までは電車の座席全部、ヨギボーにしろとXで暴れていたが、今はそんなやつを蹴散らす心構えになった。

 電車が止まって人がぞろぞろと入ってきた。バァーン! とドアは閉まるらしい。一転して電車は満員になった。コートのどこか埃っぽい香りが、風と共に俺の鼻をくすぐった。

 あと目の前のOLの見てはならないストッキングにも心が擽られた。こうなるとちっぽけな物語より俺の人生は華やかだと実感する。

 

 「ごほん」


 隣に居た彼氏が牽制してきたので賢者は石碑に刻まれた言語の解析に戻った。そういえばもうクリスマスか。今年も一人だ。三十路のか弱い肌は暖房に叶わず、嫌に立った。

 

 「大概、野田か安倍が悪い。俺が結婚できないのは」

 「ごほん」


 どちらかの彼女に牽制されたので賢者は考古学に耽るのでした。

 このような毎日がいつまで続くのだろうか。考古学はいいにしても、未来予知の魔法を実践すれば虚無になる。こうこき使われ、目標もなく生きて、俺は一体何をしているのだろう。


 そんな退屈をしていたときだった。ドアがまた開いて、いくらか人が入ってきた。しっとりとドアは閉まった。

 それから数分。電車が進んだ頃、目の前のバカップルがそれはそれは風流な文句を交わしていた頃、


 「きゃああああああああああああああああ!!」

 

 悲鳴が響いてきた。辺りの人がみんな、それから逃れようと必死に走り出した。転んだ人も踏みつけてひたすら走った。俺はいまいち、その状況を受け入れられず、まじまじと悲鳴の方角を見ていた。

 辺りは嘘のように開けた。そのせいで向こうの窓の真っ赤がよくわかった。およそ人の足音とは思えない、重いものが俺の足元まで揺らして、俺は恐怖のあまり腰が抜けてしまった。

 来るのか、来るのか?――血塗れの合羽を羽織った、俺と変わらぬ年齢の無精ひげの男が、まさしく死んだ目で俺の前に現れた。手には鋸が、血をぼつぼつと垂らしていた。

 男は声を震わせた。


 「あはは。全部、俺が悪いってことだろ? なぁ? なぁ!!」


 男は鋸を振り下ろした。血が噴き出た。

 吊革が鮮血に染まった。肉を断たれ、血管を切られ、神経が弾けた。骨まで届いてもなお男は刃を強く擦った。狂気じみた笑い、その涎が俺の涙と混ざって零れ落ちた。この世界は真っ黒だった。

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