スロットマシーン

尾崎柊夜🌙

🎰


私はある日、スロットを打っていた。

べつになんだって構わなかったが、どうやら轟々ごうごうランプが光ると勝ちという、なんとも単純なものらしい。


メダルを入れてレバーを叩くと、リールが回転する。

それから、ぽんぽんぽん、と3つのボタンを押すとリールが止まる。

ハズレだった。まあ、たいていはそんなものだ。


次も回す。

するとぶどうの図柄が揃ってメダルが少し増える。

次は動物の図柄が揃ってもう一度。

そして回すとハズレ。ハズレ。ハズレ。ハズレ。

たまにぶどうが揃って、またハズレ。


つまんないなーとスマホに目をやっていた。

すると、知らぬ間に例のランプが光っていた。

ほうほう、と思い赤色の7を狙うと、リールに3つの7が揃った。スロットマシーンからはあきれるほど陽気なファンファーレが流れ始める。


それから順調に連チャンをして、次第にスロットの下皿も埋まり、メダルをドル箱に投げ入れる。

さらに連チャンして、ドル箱は3つも積み重なった。


実はあまり知られていない事実なのだが、どこのパチンコ店にもその近くには、どういうわけかメダルと交換した特殊な景品を日本銀行券に交換してくれる、世にも親切な売店がある。


だから私はもっと、メダルが欲しいと思った。

人間は何も欲しいものがないときには、とりあえずお金を欲してみるものである。


なんかギザギザしたランプを光らせるため、

私はスロットのレバーを無心で叩き続けた。

次も、次も、次も。

でも当たらなかった。


先ほどまでの連チャンが嘘のように、

頭上のデータカウンターには“1000”の数字が

無機質に表示されていた。ようするにそれはハズレを引いた回数だった。


あんなにあったメダルも、ついにそこが尽きようとしていた。

諦めかけたそのとき、ガン!という音が鳴り響いた。

再びランプが目を覚ましたのである。

私は少しだけほっとし、少しだけうれしく、また少しだけ疲れていた。


それからまた少し連チャンをして、メダルの数が増えていった。

再び下皿が埋まるほどに。


ここでやめてもよかったのだが、私は続けることにした。

いまやめたところで、あくる日も打つのだから、本質的にはやめたことにならないからだ。

すると瞬く間に、メダルは虚空へと消えていった。

まるで流れ星が夜空に一瞬輝いた後、

静かな闇へと消えていくように。


そして、最後の一回転、私は回り続けるリールをただ見つめていた。

眩暈がするようだった。

欲望と期待が螺旋の渦を巻き、最後の3枚のメダルは確率という名の深淵へと落ちていった。その先にあるのは希望だろうか、絶望だろうか、それとも


ぽん、ぽん、ぽん。

ボタンを押した。


ハズレだった。


結局のところ、初めから意味なんてなかったのだ。

それでもスロットマシーンは今日も回っている。     

それは貨幣経済がめまぐるしく廻るように。

あるいはこの星が、理由もなく自転し続けるように。

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スロットマシーン 尾崎柊夜🌙 @Oyogetaiyaki-kun

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