第9話 買い出しに行こう
うーん……頭が痛い……体がだるい……。
昨日は飲みすぎたわね……。
状態異常解除のパッシブスキルで「酒酔い」状態も解除されるから、あえてオフにしたのが仇になったわ。
「ディスペル」
状態異常解除のアクティブスキルを発動して、酒酔い状態を強制解除。
ついでにオフのままだったパッシブスキルもオンにする。
たちまち頭痛とだるさが抜けた。
この体調でも問題なく使えたということは、ほぼ意識さえあればスキルを使えるということね。
「ふう……」
もそっと起き上がって、違和感を覚え。
隣を見ると、裸体のマックスがいた。
「あー……」
ベッドの周りに散らばった貴金属と宝石の山。
ぼんやりと昨日の記憶が……アタシ、流されちゃったわね。
ま、やっちまったもんはしょーがないわ。
「ん……おはよう、エノキ」
目覚めたマックスは、普通に挨拶してきた。
甘酸っぱい感じには、ならないわね。
まあアタシはもうそういう歳でもないし……いえ、マックスは歳いくつなのかしら? 肌の感じは20代だけど、竜人の寿命って知らないのよね。エルフとか長寿のイメージがあるけど……ま、機会があったら聞いてみましょ。
「おはよう、マックス」
マックスに挨拶を返ししながら、散らばった貴金属と宝石を収納魔法へ片付ける。
それらに埋もれた衣服と装備を発掘して身につけ、バラけた髪を整えて束ねる。
アタシがやってる間に、マックスも身支度を整えた。
……今度、収納魔法にお湯かホットタオルでも入れておきましょう。欲を言えばシャワーが欲しいわね。収納魔法に湯をストックしておいて、高低差を使えばシャワーを出すのは出来るはず……排水のほうが問題だわ。
「今日は何をやろうかしらね?」
ルナの財宝があるから、無理に働かなくても困らない。
しかし冒険者ギルドの支部長からは、近いうちに派手な成果をと求められている。
牛ダンジョン、豚ダンジョン、鳥ダンジョンにも行ってみたい。
マックスが仕留めたドラゴンの処分は、伯爵様の回答待ち。
――状況はざっと、こんな所かしらね。
「一番近いのは豚ダンジョンだ。
昨日ゴンツが、野菜を持っていくのがおすすめだと言っていたな」
「そうね。行ってみましょうか」
支部長の望みに叶うか分からないけれど、大量に狩ってくれば少しは目立つわよね。
というわけで、アタシたちは宿を出た。
◇
マックスの案内で野菜を売っている市場に来たけれど、見たことない物ばかりで味がさっぱり分からない。
紫色のジャガイモみたいな野菜は、苦みがあって、加熱すると少し甘みが出るらしい。味的にはピーマンみたいな感じかしら?
ピンク色のイチゴみたいな野菜があった。いかにも甘そうだけど、実はぴりりと辛いらしく、すりおろして適量を使うんだとか。ワサビみたいな感じかしら?
「……野菜を全然知らないなんて、エノキはいったいどこから来たんだ?」
「アタシの故郷じゃあ野菜なんてたいてい白と緑で、辛いものは赤と相場が決まってたわよ」
まあ、例外もあるけど。
リンゴとかイチゴとかは、赤くて甘いし。
トマトやニンジンは白でも緑でもないわね。
「そうなのか。
じゃあ見た目から味の想像がつかなくて大変だな。
しばらく料理は私が担当しよう」
「お願いするわ。
アタシも料理はするけど、レパートリーは少ないし……この機会に新しいレシピ覚えちゃおうかしら」
男飯なんてそんなものよ。だから女性の手料理にはホッとするわね。
何をどれだけ買うのか、全部マックスにお任せになっちゃって、アタシは荷物係として収納魔法に専念した。
「そういえば、あの人達だけど」
「『Sランク』のことか?」
「ええ。
どうして、そんなややこしい名前なのかしら?」
「あいつらは、もとのパーティーが崩壊した生き残りだ」
マックスは語った。
彼らは5人兄弟の末っ子で、それぞれ兄弟でパーティーを組んでいた。
ガンツ、ギンツ、グンツ、ゲンツ、ゴンツ。
ラーフ、リーフ、ルーフ、レーフ、ローフ。
アドン、イドン、ウドン、エドン、オドン。
マリー、ミリー、ムリー、メリー、モリー。
同郷の冒険者同士がパーティーを組むのはよくある話で、その中でも兄弟姉妹ならほぼ確実にパーティーを組んでいる。
彼らはBランクだったが、街を襲ったSランクの魔物を相手に足止めをおこない、住人が避難する時間をかせいだ。そして各パーティーが4人ずつを犠牲にして魔物を撃退。結果、一般人に犠牲者は1人も出なかった。
彼らはその英雄的な功績でSランクと呼ばれるようになったが、Sランクに勝てるほど実力が高いわけでない。そこで生き残り同士で手を組み、新しいパーティー「Sランク」を立ち上げた。
「その魔物って?」
「オークエンペラー。
この街はかつて、オーク帝国に襲われた」
魔物はレベルが上がると進化する。
進化すると進化前の個体を率いるようになるため、進化を繰り返すほど集団が大きくなる。
オーク帝国とは、何度も進化してオークエンペラーになった個体が率いる大集団のことだ。その総数は数万。伯爵の領地軍でも対抗しきれず、冒険者が総動員された。それでも防ぎきれず、街に侵入され、建物を遮蔽物として徹底抗戦した末に、ほとんど更地になった街で、4人だけが生き残った。
「マックスなら勝てるのかしら?」
「エノキと2人でかかれば、あるいは……な」
ということは、ドラゴンよりも強いということね。
ちらりとルナを見れば、冗談じゃないと言わんばかりに身を縮こまらせていた。
「できれば避けて通りたい相手ってことね」
理解はしたが。
なんとなく、いつか戦うような予感がしていた。
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