第6話 命乞いを聞こう

 ドラゴンがしゃべった。

 意外と可愛らしい声だった。


「命乞い? 条件次第では受け付けるわよ」


「ありがとうございます! ありがとうございます!

 あの……その……それで、その条件というのは……?」


「アタシの望みは『強さの証明』よ。

 そのために、あんたをぶち倒して持って帰ろうと思ってたの。

 その代替案があるなら聞くわ。無いならこのまま外まで運んでプチッとやるわよ」


「あの……その……それでは、私の財宝を持ち帰ってはいかがでしょうか?

 今まで私の巣から財宝を持ち出せた人間はいませんので、強さの証明にはよろしいかと」


「それをどうやって『ドラゴンの巣から持ってきた』と証明するの?

 よそで集めてきたホラ吹きだと思われるのがオチだわ」


 マックスみたいに、Aランクだとか「あいつならやるかも」と思われている状況ならともかく。

 今のアタシはFランク。実力を疑われている状態だもの。


「えーっと……あの……その……うーん……」


「やっぱりプチッとやるのが一番よね。

 なんせドラゴンの現物があるってのは、疑いようがないわ」


 死んでいたのを拾ってきただけ、なんて言いがかりをつけられる可能性もなくはないけど。

 それなら、この巨体をひとりで引きずって運べるだけのパワーだけでも「強さの証明」としては十分だもの。


「あ、あの……! その……! あくまでドラゴンをお求めなら、従魔としてお仕えしますので! どうか命だけは!」


「従魔?」


 アタシは神官。

 魔物を従魔にできるのは、モンスターテイマーだけのはず。

 ……いえ、これはゲームの仕様ね。この世界では違う。スキルの効果もゲームとは少し違うのだから、こういう事があっても不思議じゃあないわ。


「あの……その……いかがでしょうか?」


「油断させて後ろから……みたいな?」


「めめめめめめっそうもない! 前足の一撃を無傷で耐えられる貴方様には、たとえ全力のブレスでも一撃では仕留められません! その後の報復を考えると、恐ろしくて恐ろしくて……!

 それに、従魔契約を結べば、お互いの位置や思考をある程度は把握できるはずです」


「あら、そうなの? それなら悪くな……あー……でも、この巨体で街には入れないわよね」


「それなら縮みますので! あの……その……少々お待ちを……!」


 ドラゴンの体が淡く光ると、たちまちその姿が猫のように小さくなった。

 ちびドラゴン。

 これなら街にも連れて入れるわね。


「あの……その……このぐらいで、いかがでしょうか?」


「いいわね。

 それじゃあ従魔契約しましょうか。どうやってやるのかしら?」


「あの……その……お任せを」


 何か見えないものが体に触れた。

 これは、ドラゴンの魔力?

 差し出された手を握るようにして、その魔力を掴むと――ぐん、と一瞬だけ引っ張られるような感覚がして、アタシは反射的に耐えてしまった。


「うひゃあ!?」


 ドラゴンが悲鳴を上げた。

 何が起きたのかは、すぐ分かった。

 人が「引っ張られて耐える」というのは、反対方向へ引っ張り返すということ。

 アタシは今の一瞬で、ドラゴンの魔力をほとんど根こそぎ奪ってしまった。


「あー……大丈夫? ごめんなさいね。そんなつもりは無かったのだけど」


「申し訳ありません! 申し訳ありません!

 あの……その……つい、出来心で……! 二度としません! どうか命ばかりは!」


 ドラゴンから「ちょっと引っ張ったら逆に自分が引っ張られた」と驚く感情が流れてきた。

 わざとではないらしい。

 しかし「うまく引っ張れたら魔力が増える」という出来心も湧いたようだ。

 結果はその逆になったけど。


「アタシから魔力を奪おうとしたの?」


「申し訳ありません! 申し訳ありません!

 あの……その……私も従魔契約は初めてなもので、つい加減が分からず……!」


「まあ別にいいわよ。害もないし。

 ていうか、アタシとしてはむしろ便利になったみたいね」


 ドラゴンが覚えている魔法が、そのままアタシにもコピーされた。

 各種の風魔法、飛行魔法、収納魔法、ブレス。どれも便利そうだわ。

 それに、奪った魔力を一時的に返すこともできるみたい。

 試しに返すと、返した量に応じてドラゴンの体のサイズが戻っていった。


「それじゃあ街へ……行く間に、あんたの財宝が盗まれるのは、ちょっと申し訳ないわね。アタシが収納魔法に入れておきましょうか」


「ありがとうございます! ありがとうございます!

 あの……その……私も少しは収納できますので。残りはお願いしてもいいですか? 預かっていただく分は、お好きなように使っていただいて構いませんので」


「あらそう? 助かるわ。食事代も宿代もなかったのよね」


 というわけで、ドラゴンの財宝を手に入れた。

 ドラゴンの巨体が埋もれるほどの貴金属と宝石だった。

 好きに使っていいなら、もう死ぬまで遊んで暮らせるレベルだわ。

 でもダメ人間にならないように、適度に働きましょ。


「ところで、あんた名前は?

 アタシは榎。よろしくね」


「あの……その……ルナと申します。よろしくお願いします、エノキ様」


「ドラゴンの性別って見ても分からないんだけど、ルナって女の子かしら?」


「あの……その……はい、一応メスです」


「やっぱり。声が高いし、名前も女の子っぽいし、そうよね。

 ……財宝を集めるのはオスだって聞いたんだけど……?」


「申し訳ありません! 申し訳ありません!

 あの……その……オスが集めたものを贈られるより、自分で好きなものを集めたいタチでして」


「ああ~……分かるわ。いくら親しくても、他人が選んだものって、自分の好みと微妙にセンスが違うのよね。それが新しい発見になることもあるけど。男には女のこだわりなんて分からないわよね。まあ、男のロマンだって女には分からないけど」


「そうなんです! そうなんです!

 あの……その……エノキ様も、そのような?」


「ああ、アタシのこの喋り方? これは便利だからよ。

 アタシは身も心も男。ただ便利だからこういう喋り方を選んだだけよ。

 その方が生きやすいから。……あなたもそうでしょ? その卑屈な喋り方は」


 アタシのことが怖いから、服従しているアピールをしないと耐えられない。

 つまり、生きやすいから卑屈な喋り方を選んだ。

 ストレスから逃れるために。

 言いたいことも言えず、何でもかんでもハラスメントだと騒がれ、我慢を強いられる世の中で、オネエ言葉――「オカマというペルソナ」をかぶるのは、ストレスから逃れる効果的な方法だ。


 えへへ、と曖昧に笑うドラゴンを連れて、アタシは街へ戻った。

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