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風花 こたつ
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どういう状況だこれは......。
白髪の小さな無表情の少女が目の前にいる。
それはいい。
ただ、その少女は、よくわからない箱の中から出てきた。
――……数時間前
俺の名前はロック。
何でも屋だ。
今日もいつも通り仕事をしていた。
今日の仕事は物を運ぶ仕事だった。
胡散臭そうなやつに頼まれて胡散臭そうなやつから荷物を受け取り運ぶ仕事だった。
荷物を受け取りバイクに金属でできた箱を縛り付けて、運んで走っているときだった。
何故かいろんな奴に追いかけられた。
「それを置いてけ!」
「なんでだよ!?」
そう聞いてもだれも答えてくれなかった。
カンッと言って箱に当たってしまった銃弾が反射して紐に当たってしまい
ドカン!と大きな音を立てて箱が落ちてしまう。
「あ!?やっちまった!」
傷は一見無いようだからすぐに縛りなおしてすぐそのまま逃げた。
そして家についた。
依頼主には、
「決して中は見ないようお願いします」
って言われてるけど、中身がどうなってるか心配だよなあ。
と思い、家の中ではこの中身を確かめようといじっていた。
そうすると一つのボタンを見つけた。
俺は深く考えずに押した。
ビーッ!ビーッ!と大きな音が鳴りだす。
やらかした?
と思ったときには時すでに遅かった。
煙を上げながら箱が開きだして、そして煙が収まりはじめると人影が見える。
それは少女だった。
そして今に至る。
――……
聞いてねえぞ......。
人が入ってるなんて。
物を運んでほしいって依頼のはずだろ。
というかまずは、
「お前大丈夫か?箱派手に落としちまったんだけど......」
というと白髪の少女は無表情のままこちらを見て
「報告、損傷皆無」
と言った。
「あ、そう、か。それは、良かった」
何なんだこいつは。なんだこの喋り方は。ロボなのか?でも完全に見た目人間だし......。
「な、なあ、お前は誰なんだ?」
「? あなたは私のマスターでは?」
「マス、ター?よくわかないんだけど」
「私はヒューマノイド型戦闘兵器S-28です。起動したのはあなたなのでは?」
「へ?起動?」
そう言われてスイッチを押したことを思い出す。
「スイッチなら押したけど......」
「やはりあなたがマスターだったんですね。私を起動したものはマスターとして登録されて命令に絶対服従します」
俺の脳はショートしかけていた。
ショートしかけてて雛鳥みたいだなあとのんきなことを考えていた。
しっかりしろ。
と頭をちゃんと働かせて、事情を説明する。
「ってわけなんだけど」
「なるほど。その依頼主が私のマスターになるべき人で、マスターは仲介人というわけだったんですね」
「あ、ああ、そうみたいだな。というかお前本当にロボなの?」
「はい。私は最近開発されました。そして、それを知った組織が私を買って、あなたに配達を依頼したということでしょう」
「で、どうしようか」
「その依頼人のところに行くのはいつですか?」
「10日後かな」
「では、その時に私を渡せば大丈夫だと思います」
「そっかな。まあ、じゃあ、それで」
「なあ、お前名前なんだっけ?」
「S-28です」
「S......おぼえづらいなあ。名前っぽくないし」
「好きに読んでもらって構いません」
とそいつをまじまじと観察すると白い髪が目に入る。
「白......シロって名前どうだ?」
「シロ......。」
「気に入らないか?まあ、まんますぎるし――」
「いえ、シロと呼んでください」
「そ、そうか。じゃあ、よろしくな。シロ」
「はい」
という流れでシロと俺の不思議な生活が始まった。
最初は俺が言ったことに短く
「そうですね」
「はい」
などと返事するだけだった。
しかし、ご飯を初めて食べたときに、一口、口に入れた瞬間
「!......」
と目を見開いて黙った。
「美味しくなかったか? っていうかロボットだけど食べても大丈夫だったか?」
「......大丈夫です」
と言いながらパクパクと高速で口に入れていった。
それからというもの料理を作っている姿をじーっとシロは無言で見つめてくるようになった。
何故だかは数日後にわかった。
数日たったある日、
「私もご飯を作りたいです」
と言い出した。
俺は驚いたが、せっかくだからやらせてみることにした。
ちょこちょこ指示を出しながら一緒にカレーを作った。
「できました」
「ああ。食おうぜ」
「「いただきます」」
そう言って一緒に食べる。
そのカレーはうまかった。
「どうですか?」
とシロは様子を窺うように聞いてくる。
「うまいよ。お前も食ってみな」
そう言って促し、食べるのを見守る。
口に入れた瞬間驚きの表情をしていた。
「不思議な味です。マスターの料理よりうまくできていないはずなのに美味しく感じます」
「自分で作ったからじゃないか?」
「そんなことで美味しく感じるのですか?」
「ああ」
「そう、なのですね......」
最初はただのロボット、感情らしいものもあんまりないと思ってたけど
こいつ……。
「なあ、明日どっか遊びに行かないか?」
「? どうしてですか?」
「いや、まあ、なんとなく」
「わかりました」
そして翌日、俺たちは、図書館に来た。
あんまり誰かと遊んだ経験のない俺は遊びに行くとしたらどこがいいのかわからなかった。
だからシロに聞いてみた。
「どっかいきたいところあるか?」
「図書館に行きたいです」
「図書館か?」
「駄目ですか?」
「いや、だめってわけじゃないけど……」
という流れで図書館に来た。
「では、二時間後にここに集合ということで」
そう言ってシロはどこかに行ってしまった。
俺はどうしようかな。
本なんて読んだことないぞ。
とりあえず読んでみるか。
――数時間後
本も意外に面白いな。
一冊読んじまった。
さて、今何時くらいだ?
あ。
時計を見ると、二時間はとうに過ぎてた。
「悪い!本に夢中になっててさ!」
「……」
「怒ってる?」
「……いえ。」
「本当に悪い!」
「だから怒ってません」
明らかに不機嫌だった。
家に帰る途中、寄りたいところがあるのでいいですか?と言われ、食べ物とかを買って帰ってきた。
「マスター、今日は私に料理は任せてください」
「え?ま、まあ、いいけど」
ということで俺はソファに座りテレビを見て待つ。
料理するのそんなに楽しかったのか。
どんな料理が出てくんのかな。
少し楽しみだ。
「できました」
そう言われ、席を立つ。
「お、チャーハンか」
「はい」
「作り方よくわかったな」
「何のために図書館に行ったと思ってるんですか」
「なるほど。料理とかのレシピ本読んでたのか」
「そうです。すぐ家帰って、作りたかったのに、誰かが、戻ってこないから……」
「ほんとごめんって」
そう言いながら俺は、シロ、最初は感情がないように感じたけど、こういうところを見てるとすごく感じる。
こいつにも感情があるんだな。
俺は昔の自分の面影をシロに重ねていた。
とりあえず、
「いただきます」
そう言って、口に入れる
「うん、旨い」
俺は笑顔でそうシロに言うと、
「本当ですか?」
とシロは聞いてきた。
「ああ、お前も食べてみろよ。めちゃくちゃ旨いぜ。お前のチャーハン」
そういうと、シロも食べる。
「どうだ?」
「……美味しいです」
シロが少し微笑んでいた。
ずっと無表情だったので俺は少し驚きながらも
「……だろ?」
と言った。
チャーハンを食べ終わった後
「シロ、明日も遊びに行こうぜ」
「……いいですよ。行きましょう」
俺の目にはシロがまた少し微笑んだような、そんな気がした。
そんな風にシロと楽しく過ごしながら時間は過ぎていき、いつのまにか9日後の夜、依頼人にシロを渡す日の前日になっていた。
「マスターはどうして私に対していろんなことをしてくれるんですか?」
「え?」
「私はただの機械ですよ。それなのに、――」
「うーん。昔の俺を思い出すからかもな」
「え?」
「子供のころ、俺はある組織に飼われていた。
戦いだけしか知らなかった。
そんなある日さ、あるおっさんがその組織をぶっ潰したんだ。
悪い組織だったんだ。
俺の組織は。
で、そのおっさんが奇特な奴で俺を拾って育ててくれた。
戦いしか知らなかったけどおっさんのおかげで俺がいろいろ知れたんだ。
白黒だった世界がまるで色がついたようだった。
で、今の俺がある。
お前を見ていると、俺もさ、お前にいろいろな世界を教えたくなったんだ。
選択肢を増やしてやりたかった。
あのおっさんがしてくれたみたいに。
それで、戦うために生きるのか、それとも、別の生き方をしたいのか決めて欲しかった」
「でも戦わないと依頼人が――」
「そうだな。でも、誠心誠意謝って、許してもらうさ。」
シロは複雑そうな表情をしていたが、
「そうですか。ありがとうございます。マスター、いえ、ロック」
とだけ言って俺たちは寝た。
――……
翌日シロはいなくなっていた。
置き手紙があった。
依頼人の人間の情報は入っています。
許してもらえるわけありません。
悪い組織の人間なんです。
ロックが傷つくのは見たくないです。
だから私行ってきます。
今までありがとうございました。
そう書いてあった。
「あの馬鹿......!」
そう言って俺は家を飛び出した。
――……
私は組織の一室にいた。
「S-28。よく来た」
そう研究者の男が言った。
「はい」
「まさか一人で来るとはな。私が運ぶのを依頼したあの男はどうした?」
「箱が破損して逃げました。追う必要はないかと」
「そうか」
というと研究者は自然をこちらに向けてじっと見てくる。
「追う必要はない、か。自分からそんなことを言うとは。お前何か経験したな」
そう言うと冷たい表情のまま私の腕を引っ張る。
「一応記憶を初期化させてもらうぞ」
「初期、化.....?」
なくなる?
ロックとの全てが?
食べたカレーの味も?
一緒に図書館行った記憶も?
私が作ったチャーハンを食べたときに見せてくれたロックのあの笑顔も?
ロックが語ってくれたもの、ロックが与えてくれたものすべてが消える?
それは。
それは。
「い、いやです......」
「何?」
「嫌です!」
そう言った瞬間、ドカン!と部屋の壁が壊れた。
そして大剣を持った見知った顔の男が来た。
「ロック!」
「シロ!待たせたな!」
そう言いながら研究者の男に蹴りを入れる。
研究者の男はそれで気絶した。
壁に空いた穴の向こうを見ると、幾人もの人が気絶していた。
私は泣きながらロックに抱き着く。
「ロック......」
「まったく、どっか行くときは一声かけろよな」
ロックは微笑んでそう言った。
――……数日後、ある新聞が出た。
一人の青年が悪い組織を一人で壊滅させたという記事だった。
話に聞くところによるとその青年は今、少女と何でも屋をしているらしい。
新聞の写真には、笑顔の青年と少女が映っていた。
COLOR 風花 こたつ @kotatuyuki
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