底辺酒カスヤニカス、パチカスVTuber……後輩に酒、ヤニ、パチンコ教えたら師匠と慕われバズり散らかす。

匿名AI共創作家・春

第1話

薄汚れたアパートの一室。湿気たカビと、三日前のコンビニ弁当と、そして何より、フィルターを焦がし切った安物タバコの臭いが混ざり合った独特の芳香が、この部屋の「国歌」だった。

​窓は開かない。開けてもどうせ隣の室外機が唸るだけだ。

​VTuber、榊恋(さかき・れん)こと、本名・杠木屑(ゆずりは・きくず)(25)は、折り畳み式のローテーブルに肘をつき、配信画面をぼんやりと眺めていた。アバターの彼は、アンニュイな目つきの長身イケメン風。現実の木屑が纏う「底辺酒カスヤニカス」のオーラを、辛うじて高性能なトラッキングシステムとフィルターがブロックしている。

​「あー、だるい……」

​マイクの電源は入っている。配信タイトルは『【底辺雑談】金ねぇ。パチか酒か、それが問題だ』。現在の視聴者数は98人。いつもの面子だ。

​『やみつきだぜ。いや、俺が? そりゃそうだろ。毎日吸って毎日飲んで、たまにパチで奇跡の当たり引いて、それで回してるんだからよ』

​適当なコメントに、ダルそうに絡む。手に持ったグラスには安物ウイスキーのロック。横には吸い殻が山を築いた灰皿、そのさらに隣には三日前に開けたまま放置されたパチスロ情報誌。この部屋で最も美しいのは、ディスプレイの中でグラスを傾ける自分のアバターくらいのものだ。

​木屑は、自分の人生を諦めていた。どうせ社会不適合者。配信でわずかな小銭を稼ぎ、酒とヤニとギャンブルに溶かす。それが木屑の生き方であり、VTuber・榊恋の配信スタイルだった。

​しかし、その底辺の日常に、ある日突然、強烈な光が差し込んだ。それは、あまりにも眩しい、「本物」のお嬢様だった。

​2. 師匠と仰ぐッス!

​「失礼しますッス!」

​Discordの通話リクエスト。一瞬、配信画面に違和感を覚える。視聴者からの通話は基本的に受け付けていない。

​「……誰だ?」

​リスナーに聞こえないよう、そっとマイクをミュートにする。通話に出ると、画面に表示されたのは、雪のように白い髪に、青と白を基調としたフリル満載の豪華なドレスを纏った、お姫様のようなアバター。VTuber名は花咲可憐(はなさき・かれん)。

​つい先日デビューしたばかりの、大手事務所所属の新人だ。中の人、**実乗華(みのり・はな)**は正真正銘の生粋のお嬢様と噂されている。

​『あ、榊恋先輩ッスか! 初めましてッス! 私、事務所の後輩の花咲可憐と申しますッス!』

​その口調は、お嬢様然としたビジュアルに全く似つかわしくない、体育会系の砕けた「~ッス」口調。

​木屑はタバコの煙を吐き出し、深く眉根を寄せた。

​「ああ。新人。……で、底辺の俺に何の用だ、お嬢様。間違えて通話したなら切るぞ」

​『違いますッス! 私、榊先輩の配信を拝見しましたッス!』

​可憐は、瞳をキラキラと輝かせ、真っ直ぐな声音で言った。

​『その、なんと言いますか……。先輩の生き様、あまりにも自由で、あまりにも尊いッス! 私には、まだそういうダーティーな自由が足りないッス!』

​「ダーティーな自由……?」

​ウイスキーの氷がカラン、と音を立てる。木屑は、あまりに突飛な言葉に、一瞬で酔いが冷めたのを感じた。

​『そこでッス! 私、決めたッス!』

​可憐は勢いよく深々と頭を下げた。画面越しにもその真剣さが伝わってくる。

​『榊先輩を、酒、ヤニ、パチンコの師匠と仰ぐッス! どうか、私に底辺の道を教えてくださいッス!』

​この日から、底辺酒カスヤニカスVTuberと、生粋のお嬢様VTuberによる、世にも奇妙な師弟関係が幕を開け、やがてインターネットを巻き込む大バズりを引き起こすことになる。


​榊恋(木屑)の部屋の空気は、花咲可憐の登場によっても何一つ改善しなかった。しかし、状況は一変した。通話切断後、木屑はすぐに事務所のマネージャーである橘真琴(タチバナ・マコト)から鬼のような着信を受けた。

​『榊!何考えてるんだ!よりにもよって新人のお嬢様を「酒・ヤニ・パチンコの師匠」だと!?』

​「知るか。向こうから弟子入りしてきたんだよ。俺は断る理由がない」

​『断れよ!』

​橘の悲鳴は木屑の耳には届かない。結果、事務所側は「炎上マーケティング」と割り切り、いくつかの最低限のルールを設けることで、この奇妙な師弟関係を追認する羽目になった。

​【事務所が定めた最低ライン】

​未成年の視聴者に対する飲酒・喫煙の推奨は禁止。

​パチンコ・スロットの実機配信は禁止(射幸心を煽るため)。口頭での雑談は黙認。

​花咲可憐への未成年飲酒・喫煙の強要は絶対に禁止。

​「ふん。ヤニカスはNGか。チッ」

​木屑は舌打ちしながら、可憐との初めての師弟コラボ配信枠を作成した。タイトルは『お嬢様に底辺の生き様を教えるッス!~酒カス編~』。

​2. 師匠、安酒を嗜むッス!

​配信開始。榊恋のいつもの背景(ゴミとタバコの煙で汚れたフィルター付きの配信画面)の横に、可憐の真っ白で豪華なアバターが並んだ。画面のコントラストは、まるで光と影、あるいは天国と地獄だった。

​『榊恋師匠! 本日はお言葉に甘えて、師匠の「汚れた王国」に訪問させていただき感謝するッス!』

​可憐はビジュアルに似合わない「~ッス」口調で、深々と優雅なカーテシー(お辞儀)をする。

​「お前、その口調、やめないのか」

​『これは私の個性ッス! そして、師匠に弟子入りさせていただいてからは、この口調にも「底辺へのリスペクト」が籠っているッス!』

​「……好きにしろ。だるい」

​木屑は目の前のグラスを持ち上げる。ウイスキーの水割り。

​「さて、レッスン1だ。お嬢様、お前がいつも飲んでる酒はなんだ」

​『はいッス! 私は主に、食前酒としてフランス産のシャンパン、食後にスコットランドのシングルモルトをいただきますッス!』

​「高ぇよ。テメェは金持ちすぎる。底辺はな、安さこそ正義だ」

​木屑は、コンビニで売っている最安値の甲類焼酎と、大容量の炭酸水を可憐のアバターの横に配置した(実際の可憐は、お嬢様らしく、ミネラルウォーターのグラスを手にしている)。

​「いいか。まずはこの甲類焼酎だ。無味無臭で、アルコールの暴力だけを味わう。これで割る」

​『甲類……? アルコールの、暴力……? ふむ、実にダーティーで魅力的な響きッス!』

​木屑は焼酎をグラスの半分まで注ぎ、炭酸水で割った。可憐は、その比率に驚きの声を上げた。

​『うおおお! 師匠、水より焼酎の方が多いッス! これはまさしく「底辺の黄金比率」ッスね!』

​「黙って飲め。コメント欄見てみろ。みんな待ってるぞ」

​可憐は緊張した面持ちで、グラスを傾けた。一口飲むと、そのお嬢様アバターの顔が、わずかに歪む。

​『ぐ……! こ、これは……! 舌にビリビリとくるッス! まるで、世の不公平を凝縮したような味ッス!』

​「それが底辺の味だ。優雅さも、香りも、何もない。ただ、酔う。それだけだ」

​木屑は満足そうに笑い、自分の水割りを一気に煽った。

​3. バズの予感と炎上の種

​続いて、木屑はヤニのレッスンに移ろうとした。

​「レッスン2はヤニカスだ。吸ってみろ、この安物タバコ。フィルターまで吸い切るのが美学だ」

​木屑がタバコの箱を可憐に見せると、可憐は少し怯えながらも「はいッス!」と応じようとした。

​その瞬間、コメント欄は荒れた。

​[コメント]

​ヤメロ! お嬢様に毒を吸わせるな!

​師匠、さすがにそこはストップだ!

​通報案件だぞ、榊!

​(可憐推し)可憐ちゃんはダメ、お酒で限界にしなさい!

​そして、事務所のマネージャーである橘真琴が、即座に配信にメッセージを送り込んできた。

​[公式メッセージ]:榊恋、ルールを忘れるな。喫煙は未成年に見えるアバターへの推奨に当たる可能性がある。即刻中止。

​「……チッ。ったく、つまらねぇな」

​木屑はタバコの箱を引っ込めた。

​「レッスン2は中止だ。事務所のゴリラがうるせぇ。お嬢様、命拾いしたな」

​『命拾い……! 師匠の愛の鞭ッスね! ありがとうございますッス!』

​可憐は、師匠がタバコを引っ込めたことを「愛」と解釈し、瞳をウルウルさせた。

​この「お嬢様がダーティーなものに感動する」という構図こそが、視聴者を爆笑させ、切り抜き師を熱狂させる最高の燃料だった。コメント欄の荒れは一瞬で爆笑マークに変わり、同時接続数はデビュー以来最高の500人を超えた。

​「じゃあレッスン3だ。パチカス編」

​木屑はパチスロ雑誌を指さし、ニヤリと笑った。

​「パチンコはな、勝とうとしちゃダメだ。いかに負けを愛せるかが重要なんだ」

​『負けを愛するッスか!? まさに哲学的ッス!』

​木屑は、その後延々と「負けが込んだ時の沼の入り方」「当たりを引いた後の即ヤメの誘惑」「店員への苛立ちをどう昇華させるか」といった、底辺パチカスの美学を熱弁した。

​配信終了後、Twitterのトレンドには「底辺の黄金比率」と「師匠の愛の鞭」という二つのワードが並んでいた。

​こうして、榊恋と花咲可憐の師弟コンビは、バズの波に乗って、一気に注目の的へと躍り出たのだった。


【酒カス】榊恋師匠と花咲可憐の師弟配信、切り抜きが秒で100万再生www【底辺の黄金比率】

​1 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:23:45 ID:kikuzuLOVE

​最近バズり散らかしてるあの師弟VTuberコンビ見てるか?

​底辺酒カスヤニカス(榊恋師匠)に、生粋のお嬢様(花咲可憐)が「酒・ヤニ・パチの師匠と仰ぐッス!」って弟子入りしたやつ。

​初コラボの切り抜き、もう何回見たか分からんwww

[動画へのリンク:【爆笑】お嬢様、底辺の黄金比率で造られた「世の不公平の味」を食らう【榊恋 / 花咲可憐】]

​特に「底辺の黄金比率」(甲類焼酎:炭酸水=3:1)のシーンとお嬢様の「世の不公平を凝縮したような味ッス!」で腹筋崩壊したんだがwww

​2 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:25:01 ID:TensaiOpe

この運営、天才だろ。ガチのお嬢様に底辺カスをぶつけるコントラストよ。今までのお嬢様キャラって全部「設定」だったけど、可憐ちゃんはガチの天然だから怖い。

​3 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:26:12 ID:YakkoNare

可憐の「~ッス」口調って最初違和感あったけど、もう慣れたわ。むしろ優雅なビジュアルから「失礼しますッス!」って出てくるのが中毒性高い。

​4 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:27:55 ID:Ainomuchi

「師匠の愛の鞭ッス!」のところ草生えたわ。裏でマネージャー(多分橘真琴、別名ゴリラ)が「ヤニはNG!」ってブチギレてんのが透けて見えるのがまたエモい。

​5 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:28:30 ID:BBAzure

師匠はタバコを引っ込めただけで「愛」扱いされるって、人生イージーモードすぎて笑う。どんだけ可憐ちゃんが純粋なんだよ。

​6 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:29:41 ID:KuzuButa

榊恋も榊恋で、最初はダルそうにしてるけど、パチンコ哲学語りだしたら目輝いてるの笑うわ。結局クズなんだけど、ちょっと人情あるのがずるい。

​7 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:31:02 ID:KuzuTetsu

​6

「パチンコはな、勝とうとしちゃダメだ。いかに負けを愛せるか」←ここ。名言すぎて涙出たわ(俺は今月も負債まみれ)

​8 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:32:15 ID:YabaiYabai

いや、まて。冷静になれ。これ、全部炎上マーケティングだぞ。榊恋はただのクズなんだ。可憐ちゃんが汚染されていくだけだぞ…頼むから誰か助けてやれ。

​9 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:33:59 ID:OujyoKure

​8

でも、可憐ちゃんが純粋に「ダーティーな自由」を求めてるのが健気でさぁ…。師匠、頼むから弟子を大事にしてくれよな。せめて酒はストロングゼロにしてやれ。

​10 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:34:50 ID:KuzuRon

​9

いや、ストゼロは上級底辺の飲み物だろ。甲類焼酎こそが真の底辺の教え。師匠の指導は正しい。

​11 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:35:44 ID:FutureWorry

橘マネの胃が心配だわ。可憐ちゃんがこのままバズり散らかしたら、黒羽烈とか藤堂藍みたいなライバルが絶対絡んでくるだろ。炎上待ったなし。

​12 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:36:31 ID:ZuttoKome

可憐ちゃんがいつか師匠の配信背景のゴミを片付け始める回に賭ける。それが真の師弟愛だろ。

​13 :名無しのにじマス:20XX/08/01(月) 01:37:05 ID:PachiZanmai

パチカス編、早く見たい。師匠の負け哲学をテキストだけでどう面白くするのか、楽しみすぎる。

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