第2話:父たち、ホビーを顕現す

【1】


アリーナを彩る四つの光が、同時に爆ぜた。


「来い。《焔帝アグニス》!!」


烈堂れつどうショウヤがカードをかざすと、

カードの紋章が実体化し、炎の巨騎士が地面を踏み鳴らす。


ガンッ!! アリーナが揺れる。


その姿は、魂核コアを宿した“本物の存在” として顕現したものだ。


炎のマントが揺れ、

アグニスはショウヤの命令を待つように静かに構える。


「フィールド《紅蓮界》――展開」


ショウヤが続けざまにフィールドカードを天に掲げると、

アリーナの一角が赤い結界で染まり、灼熱の地面へと変貌した。


地形すら塗り替える。

それが《エレメンタル・レガシー》というカードゲームの真骨頂。


前人未到、世界大会を五度制した男の召喚は、

まさに“世界最強”の威厳を示していた。




【2】


「見せてやらぁ……魂の裏返しってやつをよ!!」


轟田ごうだゴウイチが巨大なメンコを、

地面スレスレで構えてゆっくりと回転させながら――


「《雷霊スラッグ》……表だァッ!!」


バシュッ!!!


叩きつけた瞬間、

メンコの裏面から紫電が炸裂し、

稲妻の獣が地を這うように走り出した。


四足の獣――雷霊スラッグが、アグニスの横を走り抜ける。


その速さ、雷光のごとし。

メンコは地面で反転し、衝撃波を撒き散らして戻ってくる。


「裏面封印は世界じゃ俺だけだ。

“魂を宿す裏”を作れる職人なんざ、そういねぇぞ!」


世界規模のメンコ大会で無敗。

裏返し技術の始祖。


新時代バトルメンコホビー、《ソウルスラッグ》。

この男もまた“最強”の名を持つ。




【3】


久遠寺くおんじジュウサクは、

《ビースケッチ》を静かにタップした。


「三重紋章――《白氷・フェンリス》、投影」


ピピピ……ッ!


端末から白い稲光が溢れ、

紋章が空中で三重に重なり、

狼の形へと変形していく。


ガアアアアアッ!!


姿を現した白銀の狼フェンリスは、

ショウヤの召喚したアグニスよりも小柄だが、

その全身にまとった白氷は異常な密度だ。


「いい子だ……落ち着きなさい」


ジュウサクが優しく声を掛けると、

フェンリスは一瞬で静まる。


完全人工獣紋。

“生きていないはずのホビー”を、彼は生かしている。


獣の魂が刻まれた紋章をデバイスでスキャンし、

組み合わせによって多彩なビーストを使役できるホビー。

それが《ビーストエンブレム》。


ジュウサクは研究者であり、合成技術では世界最高峰。


「……三重紋章の同時稼働、成功して良かった」


彼は淡々とつぶやくが、

その技術は世界が十年かけても追いつけない領域だ。

紋章合成研究の第一人者であり、“無冠の天才”。




【4】


紙縁かみぶちイオリは白い紙――

しかしただの紙ではない、

折り専用の多層紙を取り出し、滑らかな指で折り始めた。


「折式・天隼てんしゅん


さらに、そのホビーは折るだけではない。


カチッ。


折り上がった機体に、

透明なプラスチックの枠《フレームパーツ》 がはめ込まれていく。


ガキィンッ。


さらに内部では、

小型ギアエンジン《ギアパーツ》 が回転し始めた。


超高速の手捌き、一瞬のうちに組み上がった美しき隼。

それがふわりと浮かぶ。


その影は紙の軽さではない。

折紙の関節にプラギアが噛み、翼が機械的に広がる。


「さあ…舞い上がりなさい!」


機体は高速飛行し、舞い、

急旋回し、フレームが青白く輝いた。


折り紙 × フレーム × ギア。

様々な形になる紙折りクラフトホビー、《フォールディングギア》。


彼、イオリは元・世界折式大会の絶対王者。

神折シンフォールド”と呼ばれる究極の折式を、

世界でただ一人成功させた神の折師おりしだ。




【5】


ショウヤの炎帝。

ゴウイチの雷霊。

ジュウサクの白氷狼。

イオリの天隼。


どれもが、世界最強のホビーの使い手。


アリーナは揺れ、

ホビー同士の魂核がぶつかり合って、空気が震えていた。


ショウヤが言う。


「……どうやら、手加減する余裕はなさそうだな」


「そりゃそうだろ。

この気迫…お前ら、ただモンじゃねえな?」


ゴウイチが笑う。


ジュウサクはフェンリスの背を撫でる。


「……できれば、穏便に済ませたいが。

君たちのせいか、今日のフェンリスは気が荒い」


イオリは天隼の影に視線を落とす。


「帰るためには……申し訳ないですが…。

容赦できませんからねぇ」


初手の動き。そして全身から溢れ出るオーラ。

四人は、どこかで互いを認めていた。


そして同時に、退けない理由も持っていた。




『《ホビスフィア》より通達。

これより、守護者選定のバトルロイヤルを開始する』



音が鳴った瞬間、四つのホビーが光の矢となって跳んだ。


——世界最強の父親たちが、動き出す。

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