第27話 生きた魔力タンクと遺物の真価
シアを支配下に置いてから数日が経過した。
俺たちの攻略拠点は、学生寮の自室だ。
本来なら男子寮への女子の出入りは制限されているが、そこは『隠密』と『認識阻害』のスキルを持つ俺たちの独壇場だ。
「……ふぅ。これでよし」
俺はシアの首筋から口を離した。
彼女の身体がビクンと跳ね、力が抜けて俺の胸にもたれかかってくる。
「はぁ、はぁ……あ、アルスさん……」
「気分はどうだ?」
「……頭が軽いです。それに、身体の中が熱くて……ふわふわします」
シアの瞳はとろんと潤み、頬は上気している。
完全に「依存状態」にある反応だ。
俺は彼女から吸い上げた魔力を体内で循環させ、その質と量を確認する。
(……素晴らしい。これほどの魔力密度、Bランク魔核に匹敵する)
シアの特性**[魔力過多]**は、彼女自身にとっては毒だが、俺にとっては極上の燃料だ。
そして、この余剰魔力には最高の使い道がある。
「シア。少し休んだら、あれを手伝ってくれ」
「はい……喜んで……」
俺は机の上に置かれた『携帯型・融合装置』を指差した。
***
『携帯型・融合装置』の最大の弱点は、起動と維持に膨大な魔力(高ランク魔核)を必要とすることだ。
だが、今の俺には「生きた魔力タンク」がいる。
「いくぞ、シア。俺を通して、魔力を装置に流し込むんだ」
「はいっ!」
俺はシアの手を握り、自身の魔力回路を彼女と接続する。
そして、もう片方の手で装置に触れる。
シアから溢れ出る奔流のような魔力を、俺が制御(フィルタリング)し、装置へと供給する。
ブゥゥゥゥン……!
装置が唸りを上げ、かつてない輝きを放ち始めた。
Bランク魔核を使った時並の出力だ。
『Energy Source: Living Battery (High Output) Detected.』
『Processing Speed: 200%』
「よし、安定した! 素材投入!」
俺はレイラに指示を出す。
彼女は手際よく、これまで集めた素材を投入していく。
『ミスリル銀』、『魔獣の革』、そして『光属性の魔石(市場で購入)』。
「イメージするのは……対アンデッド用の聖銀装備。そして、シア専用の魔力制御杖」
俺の脳内設計図が、装置を通じて具現化されていく。
本来なら数時間かかる工程が、数分で完了した。
カキン、カキン。
排出されたのは、白銀に輝く短剣と、複雑な装飾が施された杖だった。
【Item Info】
名称: 聖銀の短剣 (Holy Silver Dagger)
等級: 良質+
効果:
アンデッド特効(大)
聖属性攻撃付与(微)
解説: ミスリル銀に光の魔力を強制融合させた対不死者兵装。
名称: 抑制の杖 (Staff of Suppression)
等級: 希少(Rare)
効果:
魔力消費効率アップ(中)
着用者の魔力暴走を抑制し、安定化させる
解説: 過剰な魔力を外部へスムーズに逃がすための制御デバイス。
「……すごい。こんなのが、一瞬で」
シアが杖を手に取り、目を輝かせる。
彼女の魔力過多による身体不調も、この杖があれば多少は緩和されるはずだ。
そして、俺の手には対アンデッド用の切り札。
「これで、『地下墓地(カタコンベ)』の攻略準備は整ったな」
俺はニヤリと笑った。
学園の敷地内にあると言われる、封鎖された旧地下通路。
そこはアンデッドの巣窟であり、学生ランクを上げるためのクエストの1つでもある。
「フェル、出番だぞ。骨っ子たちを砕きに行く」
「おう! 骨の髄までしゃぶってやる!」
部屋の隅で干し肉を齧っていたフェルが、ガバっと起き上がる。
彼女の装備も、融合装置で強化した『銀狼の爪甲・改』になっている。
「レイラ、シア。フォーメーションの確認だ」
「承知しました。私は後衛の護衛と、氷魔法での足止めを」
「わ、私は……回復と、アルスさんへの魔力補給、ですよね?」
シアが少し恥ずかしそうに、しかし使命感に満ちた顔で言う。
彼女の役割はヒーラー兼バッテリー。
戦闘中に俺の魔力が尽きかけたら、即座に「補給(吸血)」を行う手はずになっている。
(……側から見れば異様な光景だろうな)
だが、効率を考えればこれが最適解だ。
俺たちは装備を整え、深夜の学園へと忍び出した。
***
学園の裏手にある、古びた礼拝堂。
その地下に続く階段が、カタコンベへの入り口だ。
封印の札が貼られているが、俺の『魔力感知』と『解体(罠解除)』スキルにかかれば、ただの紙切れだ。
ギィィ……。
重い鉄扉を開くと、冷気と死臭が漂ってきた。
「うぅ……怖い……」
「怯えるな、シア。お前は俺の後ろにいればいい」
俺は震えるシアの肩を軽く叩き、先へと進む。
フェルが先頭で鼻を利かせ、レイラが殿(しんがり)を守る。
完璧な布陣だ。
現れたのは、『スケルトン・ナイト(Lv25)』の群れ。
以前なら苦戦した相手だが、今は違う。
「フェル、突っ込め!」
「ガアアッ!」
フェルが突進し、先頭のスケルトンを粉砕する。
残りが群がろうとした瞬間、俺が動いた。
「『シャドウウィーブ』!」
影が広がり、敵の足を止める。
そこへ、俺が『聖銀の短剣』を投擲する。
シュッ!
聖属性を帯びた刃が、スケルトンの核を貫く。
浄化の光と共に、アンデッドが灰になる。
『Experience Acquired.』
余裕だ。
属性相性と装備の力。そして、シアから供給される無尽蔵の魔力。
これがあれば、魔法を惜しみなく連発できる。
「『ブラッドバレット』・ガトリング!」
俺は指先から、弾幕のような血液弾を放ち続けた。
MPバーが減らない。減った端から、背後のシアとのパス(魔力供給路)を通じて回復していく。
(……これが、無限機関か)
俺は戦慄した。
シアという存在は、俺のプレイスタイルを根底から変えるポテンシャルを秘めている。
彼女を完全に管理下に置き、効率的に運用すれば、俺は「魔力切れ」という概念から解放されるかもしれない。
「……アルスさん、すごいです……!」
シアが尊敬の眼差しで見つめてくる。
その瞳の奥にあるのは、依存と崇拝。
彼女はもう、俺の許可なしでは生きられない体に作り変えられつつある。
罪悪感はない。これは契約だ。彼女は苦痛から解放され、俺は力を得る。Win-Winの関係だ。
「よし、制圧完了だ。素材を回収して撤収するぞ」
俺たちはその夜、カタコンベの第一層を完全に制圧し、大量の経験値とドロップアイテム(骨素材、古い装飾品)を持ち帰った。
【Current Status】
Name: アルス・ブラッドベリー
Level: 32 (UP!)
Job: ブラッドロード / [偽装: バトルメイジ]
Party:
アルス (Leader)
レイラ (Sub)
フェル (Tank)
シア (Battery & Healer)
Aux Skills Update:
[投擲(30%)]
[聖属性耐性(1%)] ……聖銀装備の反動で習得
[指揮(5%)] ……New!
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