第11話

第3層の中心部が悲鳴をあげるように揺れた。

天井の裂け目は広がり、崩落した光の破片が地鳴りとともに落下していく。

「走れ!!」

レオンの叫びに、ミラは反射的に駆け出す。

カイはその横を軽快に並走し、空間のひび割れを避けながら走る道を選んだ。

だが塔全体の崩壊は、もはや止められない。

通路の先で大きな瓦礫が落下し、帰路を塞いだ。

レオンが剣を構えた。

「ミラ! 後ろにいろ!」

ミラが身を縮めた瞬間、

カイが前に出て、片手をかざす。

その掌に、小型装置が青白く光った。

──ギィィンッ…!

瓦礫が空中で“停止”した。

重力から切り離されたように、静止している。

ミラが目を見開く。

「これ……何?」

「第4層の観測装置。重力を一時的に無効化するだけの代物だ。使える時間は短い——今のうちに!」

カイが瓦礫の下を滑り抜けるように走り、

手で合図する。

「来い、レオン!」

レオンはミラの腕を抱き寄せ、低く身を沈めて駆け抜けた。

瓦礫が背後で轟音と共に落ちる。

危機一髪だった。

「ハァ……ハァ……」

ミラは肩で息をしながらレオンの手を握る。

レオンは軽く笑った。

「お前、ほんとギリギリのとこで生きてくよな……」

「レオンが守ってくれるからだよ」

その言葉に、レオンの耳が一瞬赤くなる。

カイは振り返り、ニヤッと笑った。

「いちゃつくのは第4層に着いてからでもいいぞ?」

レオンがすかさず睨む。

「誰がそんな……!」

その時だった。

──ズズ……ズォォォン!

第3層の天井が完全にひび割れ、

上層から巨大な光の波が落ちてきた。

ミラが叫ぶ。

「カイ! 抜け道はどこなの!?」

カイは一度だけ深呼吸し、

装置の裏側を叩く。

「いいか、二人とも。‘自然な扉’はもう閉じた。代わりに——人工層断面を開く」

「……なんだそれは?」

レオンが眉をひそめる。

カイは冷静に説明した。

「本来は第4層の観測者しか使えない“層の裂き目”だ。空間を直接折り曲げて、最短距離で次の層に渡る装置。危険だが……今はこれしかない」

ミラが小さくうなずく。

「信じるよ、カイ」

カイはミラの目を見て言った。

「……ありがとう。必ず届かせる」

装置が強い光を放ち、

空中に黒い亀裂が走った。

──キィィィィンッ!

亀裂はゆっくりと開き、

向こう側に“深い青の空”が見える。

レオンが剣を握りしめる。

「あれが……第4層の空か」

カイが手を伸ばす。

「急げ、時間がない!」

レオンはミラの手をつかみ、そのまま跳び込んだ。

カイも続いて裂け目の中へ飛び込む。

背後で第3層が完全に崩壊する音が聞こえた。

暗いトンネルを落ちるような感覚が続き——

視界が一瞬真っ白になった。

次の瞬間、風が吹いた。

眼前には——

雲海に浮かぶような青い大地が広がっていた。

ミラが息を呑む。

「ここが……第4層……?」

カイが静かに頷く。

赤い陽光に照らされた横顔は、どこか揺らぎ、まだ不完全だ。

「ようこそ、“赤陽層(せきようそう)”へ。……ここが、次の戦場だ。」

ミラは思わず息を呑んだ。

大地は黒曜石のようにひび割れ、空には沈むことのない赤陽が燃え続けている。

熱はあるのに、風だけが異様に冷たい。

レオンは剣の柄を握りしめたまま、

赤い空の境界を見つめて呟いた。

「……始まるな。ここからが、本番だ。」

その瞬間——赤陽が揺れた。

地平線の向こうで、巨大な“影”がゆっくりと立ち上がる。

陽炎のように歪み、輪郭が燃えるたびに赤い粉塵が空へ散った。

三人の前で、

この層を支配する“灼陽の巨影(しゃくようのきょえい)”が

ついに姿を現し始めた——。

赤陽を背に、その影は世界そのものを裂くように咆哮する。

レオンが剣を抜き、

ミラの手首に赤い光のノイズが走り、

カイの輪郭が少しだけ強く形を持った。

「来るぞ!」

レオンの叫びと同時に、

巨影の一撃が荒野を砕き、戦いの幕が上がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る