趣味

「お前、趣味とかあったっけ」


 千絃はそう言いながら、カップについた水滴を指でなぞる。場所はいつも通り、馴染みの喫茶店の隅の壁際の席。


「趣味?」と、スマホから視線を上げつつ楓子。


「ウチは読書とか映画とか散歩があるけど、楓子は無いやろ」

「肩パンしたろか?」


「沸点低すぎや。趣味がないと、生きててもつまらんやん。例えば定年になって仕事をやめた後、熱中出来る事がないとしんどくない?」

「別に、楓子にも趣味ぐらいあるけど」


「ネットミーム以外やぞ」

「べ、別にそれだけじゃないし。ほら、こうやって千弦と駄弁るっていう立派な趣味があるし!」


「いや、お婆ちゃんになった後でも、死ぬまで楽しめるモノじゃないとアカンやん」

「お婆ちゃんになっても駄弁るやろ?」


「無理やん」

「えっ…」


「だってそうやろ。大人になっても、今のままでいられる保証なんて無いし。進学とか就職とか結婚とか、『人は変わんねん』ってウチの母親が言ってたで」

「…」


「泣いてる?」

「…」


「ごめん、流石に言い過ぎた」

「…」


「うん、ヨボヨボになってもこんな風に話そう。素敵な趣味やな」

「…」


「ウチのフラッペ飲むか?」

「…飲みさしやん」


「新しいの注文するわ」

「もっと早よ気づけ、アホ」

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喫茶店の女子高生 二六イサカ @Fresno1908

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