第25話 天幕にて
へんてこな世界に来てから、2日が
昨日のうちに、村を案内してもらいましたで、村の中のどの辺りにどういったものがあるのかといった、なんとなくの地理は把握しています。……あくまでも、なんとなくです。教会の位置くらいしか、正確に分かっていません。私にとっては珍しくて新鮮な建物だったんです。
これまで人と積極的に関わって来なかったせいか、私はどうにも人名を覚えるのが苦手です。まだまだ顔と名前の一致していない相手ばかりなんですが、ありがたいことに、この点ではあんまり苦労していませんでした。村の診療所に癒やし手が不足しているからなのか、それとも、恐れ多くも私が聖女であるという誤解がつづいているためなのか、どちらが真実なのかは分かりませんが、村のみなさんのほうが私の名前を覚えていてくださったんです。
今日は朝から、私は療養のための天幕の中にいます。
初日に、ダライアスさん以外にも白魔法を施しましたが、それでも怪我をしている兵士の方々はたくさんいます。あんまり減っている実感はありません。
『白魔法に頼らずとも、できることはあるはずよ』と、積極的に活動するニリンダさんに連れられて、私も天幕に足を運んでいたんです。
幸いにも、あれから重たい怪我をした人は増えていないようでした。なんでも、隣国との小ぜり合いが鎮まって来たとのお話です。
ですが、休戦状態にいたったわけではなく、微妙な緊張関係を保っています。私が図らずも、崖の上から見てしまったもののような、本格的な合戦の気配は全然漂っていませんが、それでも毎日、数人の兵士が、体に新しい傷を作っている感じになります。……本当のところは、私が見た合戦は、国同士の戦争とはいえないそうなんです。びっくりしました。
『戦っている大部分は村の連中だからな。こんなの序の口だぜ、嬢ちゃん』と、なんとも恐ろしいことをマッチョさんから聞かされてしまったんです。
重傷者が運ばれて来ないからこそ、ニリンダさんの考えでは、私に診療所のほうを任せておきたかったようでした。
では、それなのにどうして私が、のこのこと天幕に訪れているのかといえば、女性の仕事として任されている水汲みの戦力として、私があんまりにも役立たずだったからです。……で、でも違うんですよ? いろんな薬草から、治療のためのお薬を作ることもできなかったんです、えっへん。いや、これは仕方ないんですよ。だって私、まだ術医になったばかりなんですから。ま、まあ……どのみち私がいらない子だったことは、とても不本意ながら認めましょう。
わざわざくり返す必要もないんでしょうが、ここでいうお薬は、白魔法での治療を補助するためのものでして、立ち位置としては
「……」
今朝、蒸されたばかりの薬草を塗るために、私は指先につけました。
血止め薬です。
何をどう配合しているのか、私には見当もつきませんが、ほのかに漂っている匂いから考えますと、どうやらヨモギを使っていることだけは確実のようです。家の庭に生えていたので、ヨモギなら私も知っています。天ぷらにして食べると、おいしいんですよね。……ちょっと、貧乏くさいとかいわないでくださいよ。
兵士の顔を優しくなでるように、私は顎の傷口に指を滑らせて薬を塗っていきます。薬草は蒸したあと、葉の繊維がちぎれるまで何度もつぶされているので、ほとんど軟膏に近いんです。恐るおそる薬草を塗っている最中に、私はあることに気がつきました。この方は、顔の傷よりも腕のものほうが傷が深かったんです。
「えっと……」
私はもう、トンネルをくぐったばかりのときとは違います。自分の中に、白魔法の力があることを学んでいました。望めば、相手を癒やすことができる力を持っているんです。治せるならば、治してしまったほうがいいに決まっています。
だれに指示されたわけでもありませんが、私は兵士の腕を手に取っていたんです。
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