第46話 本多忠勝 対 羽柴秀長
秀吉の命令により秀長は本多忠勝と服部半蔵を追いかけていた。
「待て、光秀を渡せ!」
追いかける秀長を見て本多忠勝は服部半蔵に言った。
「半蔵、私が秀長を止める!光秀殿を頼んだ!」
「任せたぞ、忠勝!」
忠勝は半蔵を見送り、槍を構える。並の兵はその威圧感だけで恐怖を抱く。
「しつこいぞ、秀長!」
忠勝は槍を振るって秀長を迎撃する。しかし、
「貴方とまともにやっても勝てないのは分かっている。だが引けないのだ!」
秀長は足元を蹴り忠勝に泥を浴びせる。正攻法など、はなから捨てている。
「く、卑怯な!男なら正々堂々勝負せよ!」
「卑怯と言いたければ言え!私は兄上の命令を遂行するのみ!」
視界を奪われた忠勝に秀長は決死の覚悟で飛び込んだ。しかし、忠勝は勘だけで槍の振り、槍の柄で秀長を捉えた。秀長の脇腹に岩をも砕きそうな衝撃と、骨が砕ける音が体内に響く。
「くっ、そりゃ通じないよな!」
しかし秀長は地面に転がりながら、弓を取り、光秀に狙いを定めた。
「この距離なら外さない!」
秀長が弦を離そうとした瞬間、忠勝は槍を投げる。しかし秀長は弓を捨て、刀を抜き忠勝に襲いかかる。
「槍を失ったな。丸腰では不利だろう。」
秀長は刀を振り下ろす。
「本多忠勝、覚悟!」
忠勝はたまらず後ろに下がる。しかし秀長はそれを逃さない。
「そう避けると思った!」
秀長は持っていた刀を忠勝に向かって投げた。隙のない連撃である。歴戦の猛者の忠勝も秀長の予想外を突く攻撃の数々に手札が読めない。
「くうっ!」
忠勝は飛んで刀をかわした。すると胸元に秀長が体を滑らせる。
「体制が悪いな。これはかわせない。」
忠勝は後ろを向き、目を見開いた。背後は急勾配の斜面。そして秀長は大声をあげ忠勝に全身全霊を込めた体当たりを喰らわせた。
「落ちろ!この怪物が!」
秀長は忠勝を突き落とす。忠勝は体を宙に浮かせ、斜面へと落ちていった。
「はあ、はあ。光秀、絶対に逃さん。」
秀長折れた脇腹を抱えながら弓を取り、半蔵の元に走った。
「絶対に追いつける。2人も担いでいたら、そんなに遠くに行けないからな。」
秀長は痛みも疲れも無視をし、執念で半蔵を追いかける。
「兄上、私は何度も貴方の無理難題をこなしてきた。今回も必ずできる!」
そして秀長は半蔵の後ろ姿を捉える。
「見つけた。」
秀長は弓を構える。その目は獲物を狙う狩人だ。半蔵も後ろの秀長に気づいた。
「くそ!忠勝殿をあんな短時間で振り切るとは!」
半蔵は賭けに出ようとする。
(後ろは見えない、勘で弓をかわして逃げ続ける。)
半蔵は全神経を集中させた。そして秀長は弓を放とうとする。
「死ね、明智光秀!」
秀長が弓の弦から手を離そうとした瞬間、弓が何かに当たり、弾かれて手から離れた。
(え、何が起きた?)
秀長が前を見ると、忠勝の槍が宙を舞っていた。
秀長が後ろを振り返ると、忠勝が猛スピードで秀長に向かってくる。
「うおおおお!秀長!」
秀長の顔が一気に青ざめる。
(何だと、あの高さから這い上がってきたのか?化け物が!)
秀長は忠勝に顔を掴まれて地面に叩きつけられる。
「がはあ!」
秀長の脳が大きく揺れる。そして倒れた秀長に忠勝は馬乗りになる。
「うおおおおお!」
忠勝はひたすら秀長を殴る。秀長は何もできない。
(くっくそう。こんなのありかよ。)
秀長の意識はだんだん遠ざかる。しかし秀長の目は死んでいない。
「邪魔をするな。光秀は私が殺す。光秀を殺せば兄上の仇討ちが叶うのだ!」
忠勝は秀長の言葉を聞いた後、秀長の覚悟に共鳴するように右拳を大きく振り上げた。
「見事な戦術であった。ただ私も、お前達に殿の邪魔はさせるわけにはいかない。」
忠勝は最大限の敬意を込めて秀長の顔に思いっきり拳を振りかざす。
そのあまりの強力さに周辺の空気が揺さぶられる。
「があ!」
忠勝の一撃で秀長は気を失った。秀長を無力化した忠勝は半蔵に向かって大声で叫んだ。
「秀長は無力化した!半蔵2人を頼む。私は殿の元へ向かう!」
「ああ、任せた。光秀殿は必ず生きてここから脱出させる。」
半蔵は去っていった。そして忠勝は槍を回収し、秀長を担いで家康の元へ向かった。
忠勝は気絶した秀長を見て呟いた。
「勝てない相手でも全力で立ち向かい、勝ちをもぎ取ろうとする姿。この忠勝、感動したぞ。今まで戦った者で貴殿が一番強かった!」
忠勝はボロボロになった秀長を抱えて、家康の元へ急いだ。
その背中は、敗者を蔑む者のそれではなく、好敵手を称える戦士の背中であった。
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