第4話 魔神メルガ登場

 奥にたどり着くと、広間があり、ひとりの老人がソファーに座って読書していた。

「おや、ひさしぶりに人間か…何百年ぶりじゃろ」

「だっ、誰だ!?」

「誰だとは失礼な。押しかけてきたのはそっちじゃろ」

 

 老人がゆっくりと立った。

「わしは、マジで……魔神メルガじゃ!」

 二人は沈黙した。

「帰れ!ワシのハイレベルギャグを笑わんやつは信用ならん!」

 シオンとミカエルは、必死の演技で腹を抱えて大笑いした。

「ふっふっふ・・・若者よ・・・面白いものは素直に笑う清らかさが大事じ」

 どこかドヤ顔でうなずく魔神。

 

「で、何しに来た?」

 ミカエルが一歩前へ出て、冷静な声で答えた。

「実は私たち、カルマシオ帝国の奴隷です。生きるか死ぬかの生活に耐えかねて……ここにあるという宝物を求めて来ました」

「ほう……何百年か前にも、同じ理由で来た奴隷がいたの。カルマシオ帝国は相変わらず野蛮よのぉ」

 

 シオンは期待を込めた敬語で尋ねた。

「あの、その方は……どうなったんですか?」

「宝物を持って帰ったぞ。その後、よその国に亡命して、死ぬまで幸せに暮らしたそうじゃ」

「やったぁぁぁぁ!!」

「これで俺たちも自由だ!!」

 二人が大喜びして跳ね回ると、メルガはピシャリと声をあげた。

「いや、ただではやらんぞ」

「ええぇぇぇ……」シオンが崩れ落ちる。

「そんな……」ミカエルが肩を落とす。


「まずは、お供え物を持ってきたじゃろ?わしは魔神じゃぞ?神じゃぞ?お供え物はマナーじゃろ!」

「お供え物……ですか……その……」

 シオンとミカエルは気まずそうに顔を見合わせた。

「実は……奴隷なもので……」

「なんじゃと!? お供え物も用意せずここへ来たのか!帰れ!数百年前の奴隷ですら、お供え物くらいは持ってきておったわ!」

 メルガの雷のような怒号が広間に響く。

 

 困惑したシオンは、カバンの中を必死に漁った。

「あ、あの……つまらないものですが……」

 恐る恐る差し出されたのは、脱走の際に持ってきた、わずかな木の実と、干したカエルの肉。

「えぇぇっ!?これがお供え物じゃと!!?」

 メルガはあまりの質素さに目をむいて叫んだ。

「それでも、私たちにとっては三日分の食料なんです……」

 ミカエルが涙声で言う。

 そのひとことで、メルガの表情がふっとやわらいだ。

「……しょうがない奴らじゃ。こっちへ来い」

 憎めない魔神は、二人を奥の部屋へと案内するのだった。

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