第2話 タイム・トラベル-1

「ちょっと」


「え、はい?」


「キミ、いつからそこにいたのよ」


「え?」


——いったい何が起こったんだ?!


 先ほどまで隣にいたビッグボスが消えて、別の女の人が横にいる。同い年ぐらいだろうか。そして、目の前には先ほどと変わらない壁と絵……。いや、少しだけ綺麗になっている気がする。もっと古めかしい感じがした気が……。


「キミ誰??」


「僕は……その……え? ここは?」


 ふと周りを見回してみる。先ほどまでいた休憩スペースに違いない。違いないのだが、何か違和感がある。僕はその違和感の正体に気づけずにいた。しばらく呆けていると、女の人の無線機から音がする。


ピッガガガ


「あ、もう行かなきゃ。キミもここでサボってたら怒られるわよ」


「あ、はい……」


 彼女は忙しそうにどこかへと向かった。君もここでサボってたんじゃないのかとも思ったが、なんかそれを言うと怒られそうな気がして言わなかった。何で怒られると思ったんだろう。


——なんか、あの女の人見覚えがある気が……


◆◆◆


——あれ?!


ガヤガヤ


——あれあれあれ?!


 休憩スペースを出た僕を待ち受けていたのは、“いつもの”パークではなかった。パークを歩き回っているうちにその違和感の正体に気づき始めた。


 まず、ショート動画を撮っている学生が全くいない。パークのそこらじゅうにスマホを壁やら電柱やらに置いて、縦型のショート動画を撮っている人がたくさんいたのに、今はどこを見回しても皆無なのだ。これは結構な違和感である。もはやパークの風物詩とも化していた風景なのに、何故だろう……皆急激にショート動画を撮ることがバカバカしくなったのだろうか。いや、そんなわけは……。


 そして、皆の服装や髪型がどうにも古い。僕はこれに見覚えがある。僕が子どもの頃……10年前くらいはこんな感じの服装だった気がする。外国の人も少ないなぁ。最近は外国の人がかなりの割合いて、質問されるたびに困ったりしていたのに……。


「あのーすいません」


「あっ、はい?」


 僕がぼーっと歩いていると、突然お客様に話しかけられる。お客様は紙のパンフレットを開いて、パークのマップを指差して話し始める。


「魔法エリアってどの辺になるんですか?」


「あっ、魔法エリアは……」


 その時、僕は驚くべきものを目にした。


——魔法エリアがない?!


 マップ上の魔法エリアがあるはずの場所が森になっている。どうなっているのか戸惑っているうちに、もう一つおかしなことに気がついた。そう、もう今は紙のマップを配布していないのだ。アプリからマップが確認できるようになっている為、廃止になったのだ。僕がバイトを始めた時にはもう廃止になっていたので、これを見る機会は稀だった。時々古参のお客様が、昔のを持ってくることが……。なるほどそういうことか。この人は昔のマップを持って来てくれたわけか。


「あのー、どうしたんですか?」


「……。お客様、懐かしいものをお持ちで! 昔から大事にされてて、このマップも嬉しいと思います!」


 僕はお客様にビッグボスがやるようなことを真似して言ってみた。実際このマップは昔のものとは思えないほど綺麗でピカピカだ。魔法エリアが載っていないのだから、10年ほど前のものなのだろう。まるで、今さっきパークの入り口でもらったかのような……。


「昔……? どういうことですか?」


「え、これ昔のマップですよね? だって今はもう……」


「え、これ昔のマップなんですか? でもさっき入り口でもらったんですけど……」


——え?!


「お客様……すいません。ちょっとお借りして大丈夫ですか?」


 僕はマップをまじまじと見つめてみる。魔法エリアがないのは勿論、ニンニンドーエリアもメニヨンのアトラクションもない。ここ数年でできたアトラクションはなく、反対にもう閉まってしまった昔のアトラクションはマップ上にのっている。


——まさか……


「あのー、どうしたんですか?」


「いや、すいません。少し立ちくらみが……」


 僕はふらりと倒れそうになってしまう。今までの情報を整理すると、僕はタイムトラベルをしてしまったんじゃないか。いや、タイムスリップ? タイムリープ? いや、そんなまさか。バカな。


「ど、どうされましたか? お客様??」


「いや、私は大丈夫なんですけど……。このスタッフさんが立ちくらみしたみたいで……」


「このスタッフ……。あ、キミさっきサボってた……!」


 騒動を聞きつけたのか、別のスタッフさんが駆け寄ってきてくれた。そのスタッフさんは先ほど休憩スペースで会った女の人のようだった。


「キミ、体調悪いんならちゃんとリーダーに言って休んでないと……」


「リーダー……?」


ピッガガガ


「すいません、マエダです。なんかスタッフの男の子が体調不良みたいで……」


——マエダさん……? 誰だ……


 聞いたことない人だ。流石に名前も知らないスタッフというのは、このエリアではいないはずだ。これがもし10年前にタイムスリップしたのだとしたら、昔いたスタッフさんなのか。


「なんか立ちくらみしたみたいで……え、名前? キミ名前は?」


「え、僕?! 僕はタテ……」


 その瞬間僕は意識を失ったのだった。

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