悪魔と昔かたぎな男

床の間ん

第1話 ジーゼルエンジン





俺はクルマのキーをひねる


キュルキュル ドルン ブオオオ(空ぶかし


ガラガラガラ(エンジンがかかる。


カッチッカッチッ(ウインカー



ガコン(一速


ブオオオー


グッ(クラッチ踏み


ガコン(ニ速


ガコン(三速


ガッ ガッ ガコン(四速


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

これは、ちょっと懐かしい「いつか」を生きる、一人の男の物語。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




「クソ、また三速からの入りが悪ぃ。」



オレンジ色のヘッドランプが、路面を照らす。



クルマ「ブロロロロロ」



男はシフトレバーから左手を離し、タバコに手を伸ばす。


カコン)シガーライターの赤熱が、タバコの先っぽを赤くする。



スパーー



クルクルクルクル)男がドアのレバーを回転させる。


クルマの窓が開く


生暖かい夏の夜風が


吹き込む。



男は実家に一人で住む母のところに、週一で顔を出している。これも今はもう、慣れたもんだ。


今はその帰り道、


国道で30分と少し、帰りはいつも夜になっちまうんだよ。




一人暮らしになった母がなかなか離してくれなくて、いつも…遅くなるんだ。





まだ、それほど歳でもない父が急死してから、しばらく、経つ。





男(母の言葉を 思い出す)



クソッ!



クルマ「ブロロロロロ」





---減速---


グッ(クラッチ踏み


ガコン(三速


男「混んできたな…」


クルマ「ブロロロロロ」振動





三速に落とした途端、ジーゼルエンジンの振動が伝わってくる、身体のあちこちが、むず痒い(ムズムズ



これ、ディーゼルだからな…




(妻の言葉も、思い出す。)



クソッ!


仕方ないだろ!





エンジン「ブロロロロロブーーン」(振動



フッ…


俺もだぜ、ディーゼルエンジン、俺には家族がいる、


金が要る、


だから止まれねーんだよ。





ところでよ、俺についてくる


こいつは一体何なんだ?


クルマの助手席には、



夜の闇にすら浮かび上がらんばかりの白い肌、真っ赤な瞳の双眸、そんな子供?が、シートの先っぽに…


チョコンと腰掛けて、脚をプラプラさせていた。



わかってる。


こいつは俺が見ている幻だ。



幻覚「…」(コテン 小首を傾げる


赤い瞳が俺を見つめている。



まぁ、何か困るわけでなし。キツネやタヌキに化かされているかもしれないが、付き合ってやるさ。



俺はそういうもんが、あってほしいんだよ。



タヌキが人を化かすんなら、もしかしたら草葉の陰で親父が見てるかもしれねーだろ。



ははは



カコン(四速

クルマ「ブロロロロロ」




クルマ「ガタン!」

後ろの仕事道具「ガシャーン!」



うお、びっくりしたぜ。この辺は道が悪いんだった。



タバコの灰(ズボンにポトーー


俺「ぁ、クソ!」




そうだな、俺は妻といっしょに小さな借家に住んでる。


母が住む実家はな、祖父が建てた家だがな、部屋は2つと台所、内風呂は無かった。


今は内風呂が当たり前になってきている。それに広さも、だからな、妻の希望もあって借家を借りた。


が、仕事がうまく行かず生活は苦しくなっていった。




俺は嫁を働かせる甲斐性なしだって近所で囁かれているのも知ってる。



妻は何も言わずパアトで働いてくれた。





それから、好景気も手伝って仕事は上向き。けど、いままでのツケが多すぎる。





そんな矢先、親父が死んだ。まぁ、早死にさ。





そして、簡易保険が、支給された。





俺はそれを使って、ツケ、いや正確には月賦か。を精算し、上向いてきた仕事もあって


少しずつだが、蓄えができてきた。



危ないことだった。




その頃にはそろそろツケも苦しくなってきていた。


最近街で見かけるようになった新手の金貸し、年利3割当たり前、そんなところから借りたらそれこそ、お終いだった。





そんな矢先、親父が…





おかげで、今では妻のために俺にも簡易保険を掛けれるようになったんだよ。





な、うまくいってるだろ、うまくいっただろ、頑張ってればよ、これからもやっていけるさ。




クソ!






クルマ「ブロロロロロ」


−−−−−家に着く−−−−−



エンジン(プスン


ドア)バタン




俺はクルマを降りた。夜も更けてきた。


男はクルマを一周する。全てのドアに鍵を掛けるためだ。


タヌキ(仮)も、いつのまにかクルマを降りていて俺の隣だ。




タヌキは化けてもデカいギンタマがあるんだよな。


男(ジイイイ



俺はしゃがみ込んで、この タヌキ(仮)の股ぐらを眺めた。



丸出しの白い太ももの隙間から、遠くの街灯の明かりが見える。脚も丸出し、腹も丸出し、真っ黒でテカテカした下着みたいな奇妙な服、どーなってんだ?髪も桃色だし、何なんだこいつは?


(髪、顔、胸元、腹の順でまた股ぐらを見る。 それは、街灯の蛍光灯に照らされて…)


ハッ!俺は目を逸らした。…どうやら、キンタマは無いらしい。



(男の顔は…赤い)




声「あら、◯◯さんとこの旦那さん、しゃがみ込んじゃってどうしたの?家の鍵でも落としちゃった?」



近所の奥さんだ。



男「いやぁ、なんでもないです。」



近所の奥さん「あらそう。」


(チッ、もうスーパーは閉まってるだろ、家に帰れよメンドクセーな。)



近所の奥さんはこっちの都合なんかお構い無しに続ける。



男はこれっぽっちも聞いちゃいない。自動的に出る「ははは」と、「いえいえ」に任せきりだ。




男「奥さん、もう暗いし旦那さんご心配なさるんじゃ?」(食らえ!帰れ光線==== ビビビビ



近所の奥さん「…あたし、聞いちゃったわよ。あなた、米屋の月賦を全部払ったんですってね。車屋さんも車検の支払いが遅れなかったって言ってたわよ。」




男(ピクッ




近所の奥さん「あなた、お父さんに感謝しなきゃーねー。」



男「」(ギロリ ぇ?なんだこれ、悪寒?



俺の隣でタヌキ(仮)が、怒っている?なんて顔してんだよ


 悪魔みたいだぞ





タヌキ(ギリッ ギリギリギリギリ


 「 お父さんに感謝?ですって?


 悪気は無いものね。


 許してあげて。けど、そんなとこ、


 悪魔でも口にしない。


 この、  痴れ者が!!!」






タヌキの白い手が近所の奥さんの方に伸びる!  ダメだ なにかこう、とにかくダメだ!



俺はタヌキの方に腕を伸ばした。「マテ」だ、「マテ」



男「「ははは、そうですね。お父さんには感謝していますよ。」」 ニコニコ





近所の奥さんは帰った。帰り際にも何か言っていたが、憶えていない。



俺はタヌキの方を見る。


タヌキの赤い瞳が俺を見つめる。




タヌキ「…ウソつき…」



男「…ウソじゃねぇよ。」



タヌキ「あと…スケベ」



男「」










つづく

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