けっせん -青空蛮歌-

綺羅鷺肇

けっせん -青空蛮歌-


 僕の通う城山高校には、奇祭と称するしかない行事がある。

 毎年七月の半ばを過ぎたあたり。そう、夏休みに入る直前に行われるのだが、なんというべきか、我が城山高生のほぼ全員がこれに入れ込んでいる。それこそ全身全霊を傾けるというか高校生活を懸けるというか、とにかく、この奇祭が大好きでたまらないのだ。それはもう、体育祭や文化祭よりも。むしろ、この奇祭に参加したいが為に入学した者もいると聞く。


 ―ドンドンドン、と拍子を取る和太鼓の重い響き。


 まぁ、その気持ちは二回目の参加となる今となっては、なんとなくわかる。

 いや、今の僕が置かれた環境自体は決して恵まれてはない。雲一つない、晴れ渡り過ぎた青空の下、じりじりというよりごりごりと肌を擦りつけるような夏の日射しに焼かれ、身体は既に汗にまみれている。この奇祭に際して、必ず身につけなければならないモノやインナー全身タイツに熱中症対策が仕込まれているとはいえ、暑いのは暑い。それはもう、不快そのものである。


 ―トントコトン、小太鼓が小気味良く軽快な音を連ねていく。


 そう、不快なのだ。


 なのだが……、これから始まることを考えると、そういった不快感も我慢できる。


 ―おぉおぉぉっ、太鼓に負けんばかりの大喊声。


 声の源に目を向ければ、運動場の反対側。

 そこにずらりと並んだ赤一色。背後には天高く伸びる大きい赤旗。鎧兜や陣笠を身に付けたツワモノ達。各々が手にした得物を天に掲げ、天地に響かせようとするかのように絶叫している。


 知らず、唾を呑む。


 それを遮るかのように、視線の先に中学時代からの先輩が現れた。


 その姿はどこをどう見ても、鎧武者。

 外国の人が見たら、おぅよろいむしゃくーるにんじゃどこ、とでも言いそうな格好。煌びやかな刺繍や金色の装飾が施された黒い鎧兜を身にまとい、手の軍配も相まってまさに時代劇に出てくる武将そのものだ。


 先輩が硬い表情で大声を上げた。


「見よ! 敵方を! 見よ! あの威勢を!」


 喊声は止まることを知らず、続いている。


「あの覇気溢れる軍勢こそがっ! 我々西軍にとって、開校二百五十余年来、不倶戴天の敵手であり! 我々と常に競い合い、己を高めてきた尊敬すべき偉大な好敵手である!」


 先輩の穏やかな為人を知っているが、今の姿は同一人物とは思えない。それ程に、厳しい顔をしている。


「その好敵手に! 我々が負けていると思うか!」


 ―否! 否! 否!


 勝手に口が動いていた。


「我々が! 東軍に負けると思っているか!」


 ―否!! 否!! 否!!


 声が大きくなる。


「その通りだ! 我々、西軍はっ! 東軍に打ち勝つ! あの赤き旗を打ち倒し! 我らの黒旗を天へと掲げるのだぁっ!」


 ―鬨の声


「小さいぞっ! もっとだっ!」


 得物長やりを掲げ、肚の底から声を出す。


「始まる前から負けんなっ! 気合入れろっ! 肚の底から叫べっ!」


 満身の力を込めて、力一杯に叫ぶ!


「よしっ! 矢合わせーーーっ!」


 軍配が振り下ろされ、弓を持った鎧武者が駆け出した。


 それを待っていたかのように向こうでも、一人。


 双方共に鏑矢をつがえ、晴れ渡った青空に向かって放った。


 びぃぃぃ、と空気を震わす音が運動場に響き渡った。





  # けっせん -青空蛮歌-





『今年も始まりました。城山高校鎮魂祭のフィナーレ、荒魂鎮魂の儀。【けっせん】という愛称がつけられていますが、我が校の前身たる武政館より続く伝統の祭典です』

『古き時のもののふ達の御魂を鎮める為、東軍と西軍に分かれた若人たちが持てる勇武を振るい、闘志と武闘を捧げるモノであります』


 はきはきした実況放送部長解説校長の渋い声がグラウンドに広がる。


『荒魂鎮魂の儀における勝敗は、相手の旗を倒すか、または大将を討ち取るか。そのどちらかで決まります』

『今年もまた、ツワモノ達が織り為す祭典に、この地に眠る先人たちも間違いなく満足していただけるでしょう』


 校長の声が終わるか終わらないか辺りで、動き出したのが壱番隊。

 十六ある隊の中でも、誉の壱番と呼ばれている愚連じゃない精鋭だ。実際は全学年から選抜された、警察のマルボウやヤの字が付く自由業な人達でも特に武闘派にいそうな強面かつ豪壮の面々で、毎年、君ぃイイ身体しているねって、あちらこちらから勧誘されてるって噂だ。


 でもって、その精鋭であるが、その数は十。当然ながら、相手も十。

 まさに魁。朱い槍を手に真っ先に駆けていく先陣争いは見物らしく、周囲から大きな歓声が上がった。割合は女6男4くらい。


 首周りをほぐすふりをして、見てみれば。グラウンドの周りは人人人の人だらけ。

 所々にある櫓の上では放送部やローカルテレビ、最近参入したというケーブルテレビやインターネットチャンネルがカメラを構え、生放送している。後、校舎。教室の窓どころか屋上にも顔とスマホがたくさん並んでいる。夜なら間違いなくホラーだ。


『双方の先鋒が……、今ぶつかりました!』

『んっんー、あの気迫、あの激突、あの躍動、あの絡み合い、いつみてもすバラしい』


 外部の声に導かれてみれば、ぶつかり合う槍と槍。

 雄々しい叫びと共に激しく相手を叩かんとし、気が付けば彼我の距離が詰まって接近戦。がちゃぱきってな感じで打ち刀で切り結んで、ぼっかどかぁっって格闘組手、とったどぎゃーすな組討と瞬く間に展開していく。でもって、その結果であるが……。


『東軍優勢! 東軍優勢です!』


 どよめきが広がった。

 五つほど倒れた黒甲冑から白い煙と小さな白旗が上がっている。ちなみに赤は四。

 命的にえまーじぇんしーな青い煙が上がっていないのは幸いだが、ちょっと不利だ。


 その間にも先陣の闘いは続いている。


「第弐陣、構え!」


 先輩の声。

 十一から十四までの番隊が動き出す。陣笠姿の総勢八十人。主に一年生で成るルーキー部隊の出陣だ。ちなみに僕は十五番で遊撃。二から四が本陣、五から七が左陣、八から十が右陣、十六が大将の近衛だ。


「第弐陣、前進!」


 有志女子が打ち鳴らす陣太鼓が一定のテンポで響く。

 それに合わせて、長槍を前に出し、少しずつ前進していく。去年はあそこにいたんだよなぁ。うん、あれは結構ドキドキっていうか、いくら尖りも刃もないとはいえ、うん、正直、武器を向け合うってのは怖いもんだなって、戦いはいかんのだなと恐怖をもって感じたし、面と向かい合ってバキバキ殴り合った時なんてもう恐慌寸前だったんだけど……、うん、途中から楽しいっていうかうりゃこんにゃろって感じでスカっとしたけど、ガンとやられた時は痛かったんだよなぁ。負傷判定で鎧の関節が動かしにくくなるし、死亡判定なんて冗談抜きに倒れるしかなくなって、地面と熱烈なキスをしたし。


 っと、戦列が形成されたみたいだ。


『さて、ここまでは例年通りと言えます。双方、これからどういった動きを見せるでしょうか』

『一昨年は西軍の左陣が、去年は東軍の中央が崩れて、形勢が決まりました。今年はどう動くか、見物ですね』


 そりゃ見てる方は見物だろうけど、こっちは……、うん、普通なら絶対できないことを真剣にしてるし、うん、楽しいな。女子にもあんたら見てたらやりたくなったズルいって言う子が結構いるし。


「右陣前進!」


 先輩の指示に従って、八から十の番隊が動き出した。

 東軍も右陣が動き出した。さて、先輩はここからどうするんだろうか。


「四番! 右陣後方で突破準備!」

「いくぞっ! 面頬の装着を忘れるなよっ!」


 三年生部隊の一つがカチャカチャと音を立てて、右に駆け出す。先輩が大きな舌打ちをした。


「左陣備えっ! 敵右陣を足止め! 三番! 左陣と中央の間を埋めろ! 中央への横やりを許すな!」

「応さ! 任せとけっ!」


『おおっと、これは……、東軍西軍共に右陣を動かしました!』

『んっんー、双方の右陣がいかに早く突破するか、また左陣がいかに耐えるかに掛かってきますね』


 おおぅ、傾斜した両翼がエライことになってる。

 黒と赤、総勢百人を超える男子がぐちゃぐちゃに入り混じって、とったどーとかぐわあぁぁぁーとかうぎゃぁぁーとかぶるあぁぁぁっとか、ボクボク殴打音がここまで聞こえてくる。後ろの太鼓も興奮してるのか、乱打してるし。


「四番! 行けっ!」

「見せ場じゃあっ! 突撃ぃ!」


 そこに二十人が喊声を上げて、乱戦の中に突入。見れば、向こうでも似たような動きが……。


『おぉっ! 双方の精鋭が共に混戦へ突入! 乱戦! 大乱戦です! ああ、いまひとりおおきくふっとんだー!』

『……うっ、ふぅ』


 解説してる校長の満足げな溜め息が……、萎えるっていうか、恍惚としてないで仕事しろ。


 しかし、乱戦を間近で見るのは初めてだけど、雄叫びと悲鳴がすごいな。


 まぁ、それ以上に周辺からの歓声がすごいんだけどね。


 っと、さすがにうちの隊もそろそろ動くはず。


「遊撃、前へ! 両翼が耐えている間に、中央を一気に崩す! 突撃せよ!」

「面頬装着! 遊撃隊、前へっ!」


 三年生の部隊長が声を張り上げる。指示に従って、総面をつけて前へ。


「構え!」


 3メートルの槍を突き出し、構える。


「突撃ぃぃっ!」


 声を張り上げて、駆ける!


 見る間に中央の戦列が近づき……、間を抜け、赤い甲冑に向けて両の手を突き出す!


 ぐえぇとの悲鳴と確かな手応え!

 相手の白旗が上がり、前のめりに倒れた!


 よしと思う間もなく、後ろに飛びのく。

 目の前に槍が叩きつけられるように振り下ろされた。咄嗟に穂先を踏み、相手を横殴り。


 浅い!

 もう一撃!


 ぁッ、右から!


 首を傾げ、のけ反る。


 兜越しに、風を切る音。


 視線を向ければ、こっちを狙った相手が別の槍に突かれそうになって退いていた。


 それに合わせて、僕も退く。

 目の前の相手から視線を切らず、できる範囲で状況を把握。


 場は倒れた者達で相応に埋まり、白い煙が薄く留まっていることもあって身動きがとりにくい。

 つまりは膠着に近い。けど、数はこちらが若干有利かもしれない。正直、乱戦はどこから攻撃されるかわからないから、怖いんだよね。


 なんとか二対一の状況を作り出そうとしていたら、こちらの一年生の一人が勇んだのか、前に出た。たちまち囲まれて叩かれる。のだが、こっちも注意不足の奴を狙って上から叩きつけた。


 重い手ごたえ。

 思わず口元を緩めたら、ぞくりと悪寒。


 とっさに右に飛べば、振り下ろされた槍が空を切った。

 その穂先を思い切り踏みつけ、突き。手応え。即座に下がって、反対側より突き出された槍を払う。ついで絡め跳ね上げて、突き。


 二人の赤備えがばたばたと倒れ伏せる。

 そして、目の前が大きく開いた。天高く掲げられた赤旗がよく見えた。


 これはチャンスかもしれないと、その空間に一息に踏み込み、周囲をけん制するように槍を振り回して、穴を広げることに努める。


「よし、よぉしっ! よくやったぁぁぁっっ! 本陣出るぞっ! 我にぃぃっ続けぇぇぇえぇっ!」


 ちょっ、えええぇぇええっ!

 攻撃に全振りって、ええぇえぇっ!


「ばっ、逸るなっ! 近衛隊っ! 大将を囲めっ! 急げっ! 旗持ちっ! 絶対に遅れんなよっ!」

「二番隊っ! 大将の露払いだっ! 立ち塞がる奴は全部吹き飛ばせっ!」


 旗はっ! 旗の守りはっ!?


『お、おおおおおっっとぉっぉぉっ!! 東軍の中央に穴がっ、穴が開いた! そこに、猛然と西軍大将が突き進むぅ!』

『おっふ、これもまた、イイ。……ふむ、旗手も行動を共にしていますから、勝負を賭けた攻防一体の大吶喊といえるでしょう』


 外の声で状況を把握する間にも、二番隊が僕の横を早駆けで通り抜け、穴を塞ごうとする相手を体当たりでもって弾き飛ばす。次々に派手な衝突音が連なり、悲鳴と共に相手が吹き飛んでばたばた倒れていく。相手本陣までの道が……、開いた。


『速いっ! 速いぞ西軍っ! 疾風怒濤とはこのことかっ! 東軍本陣までの道を一気に切り開いたぁぁっーーー!』

『この速さ、この動きは、二十四年前に西軍が為した、近衛による本陣強襲に似ていますが……、いや、こちらの方がより鮮やかですね』


 近衛が、先輩が、旗手が、横を走り抜けた。


「遊撃総員! 中央は崩したっ! 本陣を援護せよっ! 横やりを防げっ!」


 部隊長の指揮に、僕もまた慌てて後に続く。

 見れば敵右陣後方にいた部隊がこちらに向かってくるところだった。


『東軍本陣で、東西近衛が激しくぶつかり合うっ!』

『むぅんっ、黒と赤の旗が、まるで戯れあうように、ぁぁ、揺れています』

『東軍も決戦戦力を本陣に呼び戻すっ! 間に合うかっ! おおっ! 大将同士がぶつかったぁぁっ!』

『くっ、史上稀にみる、大将同士の鍔迫り合い。これはあついっ! こみあげてくるっ!』


「遊撃隊! 横やり連中を迎撃する! 大将同士の闘いに無粋を許すなっ!」


 とはいえ、一戦交えた遊撃隊はすでに半減。

 指示を出す部隊長の姿は埃と汗にまみれて、僕もまたそうだろうし、周りの連中からしてそうだ。


 対する相手はまだまだ元気いっぱいで、数はおおよそ二倍。

 どう考えても、あっという間に負けそうな気がするけど……、口元が少し緩んだ。


 なんというか、今の状況ってさ……。


「悪くないね」

「まったくだ」


 誰ともなしに呟けば、誰かからの笑いを含んだ返事。


 ほんと、なんなんだろうなぁ、この高揚感。

 身を、胸を、肚を焦がすような、熱。


 ムンと力を入れ、前を見据える。

 まだ艶やかな赤い甲冑が迫る。

 割り振ったのか相手は二人。


 気迫がこもった蛮声。


 彼我の間と時を。


 三、二、一。


 踏み込み。


 突き……手を開く。


「うぉっ」


 飛び立つ槍、石突を掌で押す。

 得物は腹に当たり、一人がひっくり返る。


 その間に迫る、別の槍。


 手を放し、回転。


 穂先を鎧表面に滑らせる。


「はぁっ!」


 驚く声を聞きながら、抜刀。更に回転してひざ裏を打ち抜く。


「うっそだろ、おぃ!」


 相手の驚愕を聞きながら、場を確認。

 全員がなにがしかの方法で食い止めたのか、僕たちの戦線はまだ崩れていない。


 ……。


 今更ながらに心臓ががががっ、バクバクとぉぉぉおっ!

 全身がぶわっと総毛立ち、冷汗がドパッと吹き出てくるぅっ!


 って、今はそんなこと関係ない。

 早く周りを助けないとってことで、すぐ右隣にいた敵に、刀をドス構えで体当たり。


 脇腹にブスリ。


「ほげぇ!」


 突然の横撃に驚いた敵。

 その相方もまた、こちらを見て驚き、相対していたお味方の槍をドスリと腹に受けた。


「俺、こっち、やる。お前、向こう、やれ」

「りょーかい、でーす」


 どよめきの中、同じ隊の同僚というか、先輩からの指示で身を翻す。


『と、とっ、とめぇたぁぁっーーーーー! 西軍がっ、倍する東軍の横やりを止めたぁっーーーっ!』

『多勢の敵を、くっ、食い止めるとは、ぉふ、なかなか、ぉぅ、できることでは、ふぅ、ありませんねぇ』


 そうかな、そうかも。

 なんて他人事思考のまま、他の仲間の手助けへ。


 とりあえず、先輩、頑張って敵大将を……って、これまでにない大歓声がっ。


『お、おおおっっっとぉっっ! ここでまた大きな動きだぁっっ! 大将同士の一騎討ちですが、相討ち! 相討ちですっ!』

『お美事っ! 両者ともっ、お美事としか言いようがありませんっっっっぉぉぉお‶っぅっっ!!』


 ……えぇ。


 これってどうなるのなんてことを思いながら、瞬間、気が逸れた相手の槍を払って、首筋をスルリ。首から下がロックされて倒れるのみだ。


『大将相討ちの場合については…………、はい、旗を先に倒した方が勝ちとなります』

『……ぉ……ふぅ。祭典規定ではそうなりますね。ちなみにですが、旗が同じタイミングで倒れた場合には、残ってるツワモノ数が多い方が勝者となります』

『旗の両倒れについては、これまでに、そうなった記録はありますか?』

『ありませんねぇ。大将の相討ちか、旗の両倒れ、どちらかです』

『なるほど。そうなってきますと、これまで以上に、ツワモノたちの働きが重要になると思われます』


 これ以上の波乱というか、旗の両倒れはやめてほしいなぁ。


 そんなことを思いながら、戦列の裏側に回って、こちらへと注意を引くべく声をあげたり、無作為に接近したりする。


「ちっ、後ろが邪魔だ! 三人行け!」


 誰かの指示に、三人のツワモノが戦列から離れて僕に向かってくる。

 順当にいけば、包囲からの袋叩きだろう。けど三者との距離は運良く等距離。ならこちらは内線の利を生かして、一対一を強いよう。


 味方に余裕がある左側の敵を選び、少し前のめりな形で一気に駆ける。

 向こうは相応にプライドがあるのか、迎撃の構え。右横に伸びた槍の位置を考えると、胴か足への払いだろう。


 受けるのは下策だけど……、いいや、その時次第で、身体が反応するままで行こう。


 数秒もないうちに相手の間合い。


 払われる槍。

 高さ的に腰のあたりか。


 見極め、跳び越え、首を後ろ横から薙ぐ。


「がっ!」


 左横を抜けて足を止めないまま次の敵へ。

 相手が合流する前にと接近するが、なにやら驚き慌てているようで……、突き出された槍を躱して懐へ。胴と腰の合間を強く打ち払う。


「こいつっ! 強いぞっ!」


 はい、一対一なら、相応に自信はあります。

 けど、それが通用しない乱戦だけは本当に勘弁してほしい。あ、誉れの壱番ものーさんきゅー。あそこは剛の者が行くところだし、僕みたいな軟弱者には不向きだからね。


 さて残りの敵はと視線を向ければ、状況不利と見たのか、戦列に合流。というか、お味方が奮起したらしく、相手の数は少し減っていた。これで人数的には同数だが、士気の差か、向こうは円陣での防御形に変化している。


「これなら抑えられる。後は向こうを助けてやれ」

「えぇ、後輩使いがあらい」

「日頃の鍛錬を見せる、活躍の機会と思えって」


 よく稽古を共にしていた先輩に言われ、仕方なく逆側の応援へ……、行こうとした時だった。


 これまでにない、大歓声。


 ―ピューーーーー、ドンパラパラパラ、と花火が鳴った。


 終了の合図。


 慌てて本陣決戦があった場所というか、旗を探してみれば…………青空に翻っているのは、黒。



 ……正直、後のことは、閉会式が終わるまで、あまり覚えていない。



 ただ心の底からの歓喜と達成感。

 そして、幾ばくかの寂寥が残っていた。


 閉会式が終わり、最後の最後。


 西軍の勝利を讃える歌を、西軍の皆や支えてくれた有志女子たちと肩を組んで合唱しながら、青空を見上げる。


 青春って、こんなことを言うのかな、なんてことを思ったりしたけど、なんか木っ端恥ずかくなって、大声でただ歌った。


 けど……、ああ、一年が終わり、また明日から、新しい一年が始まる。


 そんな感慨が湧き起こったのには、悪い気はしなかった。



 これが僕の、城山高校伝統の奇祭に参加した、二度目の記憶である。

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けっせん -青空蛮歌- 綺羅鷺肇 @Kirasagi_Hazime

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