進化の果てに何を見る

鹿松

1-1 腹が熱い

あっつ!!!

なんだこれ、腹が熱い!?!?


腹部に燃えるような熱さを感じて、俺は目を覚ました。

いや、正確には目を覚ました、という表現は語弊がある。

何故なら、瞼すら動かすことが出来なかった。

いくら気合を入れて踏ん張ってみても、動かない瞼。

これは植物人間、と言う奴だろうか・・・?

だが、それにしては鮮明に感じる腹の熱さは妙だ。


体が動かない以上、他に出来ることはない。

俺は腹に神経を集中させた。

すると、不思議なことに、まるで俯瞰して見ているかのように、腹部の状態が頭に浮かんできた。

これは酷い・・・。

口が動けば、えづいてしまったことだろう。

俺の腹は何か太い柱のようなものに貫かれてしまっており、内臓の大部分が失われてしまっていた。

刺さっている物自体により、出血は抑えられているものの、致命傷なのは火を見るよりも明らかだった。

俺の人生もここで終了か・・・。

今度発売するゲーム、やりたかったなぁ・・・。


・・・。

・・・・・。

・・・・・・・・・。


おかしい。

待てど暮らせど、その時がやって来ない。

いや、確かに覚悟は決まっていないけども。

死にたくないけども。

人間って、こんなに中々死なないものなのだろうか?

心臓こそギリギリ避けてはいるが、それだけだ。

そもそも、何故俺は、これほどまでに正確に、自分の臓器の状態なんて把握できているのだろう?

疑問は尽きない。

痛みを感じないせいか、妙に頭が回る上、思考に謎の余裕まで生まれて来ている。

どこかで読んだ漫画みたいに、再生能力でもあればなぁ・・・。


刹那、感じる違和感。

脳内(?)に湧き上がる、一切根拠がない確信。


俺は、この傷を、治せる。


自分でも訳がわからない。

死を前にして、遂に頭がおかしくなってしまったのだろうか。

だが、どうしようも無く確信してしまう。

俺は、自分の意思で、この腹に空いた大きな穴を塞いでしまえるようだ。

それも、内臓まで綺麗さっぱり、元通りに出来そうだ。

えぇい、どうせ黙ってても死ぬんだ。

どおにでもなれ!


えいや!

と、力を入れてみる。

動かない身体の、一体どこにどう力を入れればいいのかは不明だが・・・。

するとどうだ。

先ほどはどんなに力を入れても、うんともすんとも言わなかった身体が、動き出したではないか。

いや、この表現も正確ではない。

俺が動かせた部位は、もっと小さい。

俺が操作出来たのは、俺の細胞の一つ一つだった。


驚くべきことだが、ごく小さな細胞の一つ一つに意識を配ることが出来た。

更に驚くべきことに、体を離れてしまった組織の一部や、果ては流れ出た血液に至るまで、多くの細胞に意識を向けることが出来た。

俺はとにかく、細胞たちに集合の命令を出す。

なんだか、ピ◯ミンでもやっている気分だ、などとくだらないことを考えているうちに、俺の細胞は続々と、腹部付近へと集まる。

・・・当然ながら、腹を貫通している馬鹿でかい柱みたいな奴が邪魔だな。

流石に小さな細胞では、どうすることも出来ないか。

いや、そもそも身体から離れた細胞を動かす、なんて芸当をしているのだ。

その気になれば、強力な酸かなにかで、柱を溶かせたりするかもしれない。


・・・本当に出来るとは聞いてない。

いやぁ、人間やれば出来るもんだ。

火事場の馬鹿力、なんて昔の人はよく言ったものだ。

明らかに、人間を逸脱しており、むしろこの世の理すら通り越してしまっている気がするのは、一旦脇に置いておこう。

柱に隣接する組織を、なんかこう、えいやって念じると、なんかいい感じの酸的な奴が分泌され、じわじわと柱を溶かしていく。

もっとちゃんと説明しろって?

ごめん、無理。

正直俺もよくわかってない。

あ、普通に溶かしたら、重さでどんどん溶けてない部分が刺さってくる。

ちょっと、周りの組織で支えながら・・・っと。


時間にしてどのくらいかかったのかは定かではないが、ようやく腹に刺さっていた柱を全て除去することが出来た。

で、この後なんだが・・・。

正直、俺にはある確信めいた直感がある。

今現在、俺の腹の穴は、血と体組織でぐじゅぐじゅな状態だ。

それらの細胞を操って、なんとか無理やり塞いでいる状態。

ここからは俺の勘だが、この致命傷も治せちゃう気がする。

そもそも、ちょっと念じたら酸も出せたのだ。

その気になれば、内臓を作り直すなんてことも、出来るはずだ。

気合があればなんでもできる・・・。

ぬぬぬぬぬ・・・。

あ、出来そう出来そう、いい感じ。

なんか、いい感じに臓器っぽいものが出来てきてる。

このでっかいのは・・・多分肝臓かな?

うん、流石に全部治そうとしたら、ちょっと材料が足りなさそうだ。

足りないものは仕方がない。

他から工面する他ないだろう。


・・・むむ、あんまり脂肪がないな。

仕方がない。

勿体無い気もするが、全身の筋肉からちょっとずつ拝借して・・・。

よし、なんとか無事に生きていけそうな身体になったぞ。

それじゃあ、最後に気合いで心臓を動かすとするか!



・・・あれ?

なんで俺、心臓が止まってるのに生きてるんだ?


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この作品で筆者を知っていただいた方は初めまして。

筆者の鹿松と申します。


普段は別作品を執筆させていただいており、この作品は箸休め的な形で書かせていただいております。

そのため、不定期更新となってしまいますが、書いていて結構楽しいので、のんびり続けて行ければな、と思っております。


良ければ本作、そして筆者の別作品(そちらは毎日投稿をしております)をお楽しみいただけますと幸いです。



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