第24話

「エメライン、そういえば……」


 異母妹いもうとに、私はふと思い出したように尋ねる。


「以前、あなたに渡した薬は、役に立ったかしら?」


「ふんっ、あんなもの」


 エメラインは吐き捨てた。


「なにが 『つらくてたまらないときに使って』 よ! なんの役にも立たなかったわよ!」


「あら…… 幸せな夢、見れなかった?」


「夢なんて、銅貨1枚にすら、ならないわよ。目が覚めたあと、エメ、よけい惨めな気持ちになっちゃったのよ? 最悪じゃない?」


 メイドに案内されて先を歩いていた元婚約者も、立ち止まって振り返る。


「まったくだ。普通に回復薬にでもしておけば、まだ良かったのに。マリアローズは、気が効かないな」


「そうね。ごめんなさいね、ふたりとも」


 感謝の心どころか貴族のたしなみまで忘れてしまったらしい。足音高くゲストルームに向かう異母妹いもうとたちを、私はその背が曲がり角の向こうに消えるまで見送った。

 ―― 仕込みは上々、ね。

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