語り部の独白(縄文時代篇)
■ 語り部の独白(縄文時代篇)
……さて。
じゃあ次は 縄文時代 の話でもしようか。
お前さん、縄文って聞くとどう思う?
土器こねて、狩りして、畑でも耕してた――
まぁせいぜいそんなイメージだろう。
学校の歴史がそう教えるからだ。
“縄文は原始的”ってな。
だがな。
あれも政府が流した 都合のいい嘘 のひとつに過ぎん。
ゆっくり、少しずつ、段階的に技術が発展していった?
ああ、今はそうだろう。
電話は大きかった。
パソコンは重かった。
そのうち全部スマホに収まった。
だが昔は違った。
進化なんざ、段階なんて踏んでなかった。
時代によって突然、ひとつだけ異常に発達するんだ。
そして、縄文時代に発達していたのは――
インターネットだ。
本当の話だ。
少なくとも、当時の連中はそう信じて使っていた。
もちろん“パソコン”なんてなかった。
代わりに使われていたのは 水瓶 だ。
お前さんの家にもあるだろ?
あの、丸くて素朴なやつ。
縄文の民はあれを “端末” と呼んでいた。
そしてネットワークの中枢となっていたのは―― 稲 だ。
「稲でネットってなんだよ」
と思うだろう?
だがあいつらは、
風と土地と水に宿る気配の振動 を読み取り、
そこに“思念”を流す技術を持っていた。
名前を 稲穂送信機(いなほそうしんき) といった。
稲を束ね、その穂の先に手をかざして囁く。
すると、そのささやきは稲の根から地中へ潜り、
何里も離れた村の水瓶へと届く。
水面がわずかに震え、
そこに丸い波紋で“文字”が現れる。
――あれはメールなんてもんじゃないよ。
送る側の感情や体温まで波紋に宿る、不思議な通信だった。
恋文?
もちろん送っていた。
仕事の伝達?
狩りの連絡網として大活躍だった。
ネット中毒もいたさ。
水瓶にずっと張り付いて、
“誰かの波紋”を待ってる若者もな。
あるとき、潮風で言葉が混線して、よその村へ誤送信したりもした。
“誤爆”だな。
2300年前でも人間は同じことをしている。
10000年程続いた縄文時代も終わりを迎える。
定住が増え、村と村の境界が固まり、
土地神同士の“信号”が干渉を起こすようになったんだ。
ある日を境に、
稲穂送信機はただの稲に戻り、
水瓶はただの器に戻った。
そして文明が断絶すると――
その技術は、跡形もなく消えた。
後の時代の者はこう記録した。
「縄文は原始的な暮らしをしていた」と。
嘘だ。
忘れられた文明ほど、歴史書は素朴に書き直される。
……さて。
お前さんは、次にどの時代の“失われた技術”を聞きたい?
弥生か? 平安時代か? それとも戦国時代でも語ろうか。
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