第11話情報共有
その後も訓練を続けたが、夜になってきたと言う事で、子供たちはお開き。家でも頑張るんだろうから、まあ、頑張ってくれとしか言えない。こういうのは感覚だからな。俺とは別の感覚で動かしていることもあり得るので、何とか自分で出来てくれというしかない。
そんな訳で、店に残り続けている獣人のお客さんたちと、情報交換をしなければならない。町で見てきたこと、感じた事。色々とあるからな。錬金術師の店も、酷いものだったし、冒険者ギルドも酷いものだった。そもそも領主である貴族が酷いものだったんだから、どうしようもない。自分の町の価値を下げる様な事をして、何がしたいのか。それが全く解らない。
「さて、何処から話しましょうか。とりあえずですが、テッケルンを見た感じ、獣人だから差別されているという感じは受けませんでした。俺が獣人では無いからって可能性もあるんだが、特に獣人だからって差別をされているとは思わなかった。寧ろ、貴族が平民全体を見下しているって感じだな。そっちの方が有力だろう。だから、獣人だからって感じではないとは思う」
「だが、俺たちに知識を与えなかったのも事実だろう? 冒険者ギルドも何も教えてくれなかったし、錬金術師も何も教えてくれなかった。その辺はどうなのだ?」
「これに関しては、獣人以外にも教えていないんだ。……人間ですら、保存瓶の存在を知らない感じだったからな。それと、錬金術師にも貴族は居る。聞きたいんだが、錬金術店はどの店を使っていたんだ?」
「錬金術店は、冒険者ギルドの前にあるものを使っていた。そこが貴族の店だというのか?」
「その通りだ。俺が感じたことは、冒険者ギルドの前にある錬金術店と、北門の所にある錬金術店が貴族が運営していると思う。ここでの買い物は避けた方が良いだろう。碌な値段設定をしていないはずだ。利益が最優先って感じだな。本気で碌でもないとは思うぞ。両方とも、ここよりも買い取り価格は低かったからな」
「……それでは、俺たちは錬金術店を利用できなくなる。それは避けたい。ポーションなんかは生命線だ。補給はしなければならない。冒険者ギルドに関しても、信用できないとなると、この店で買うしかないのか?」
「いや、テッケルンにもまともな錬金術師は居た。町の南東方面に居る錬金術師は、買い取り価格はここよりも高かったし、販売価格なんかも適正だ。利用するならそこだな。そこ以外は正直微妙だ。まともに相手をしてくれる店はそこだけだろう。店主とも話は付けてきた。今後は獣人の冒険者が多く利用するだろうと言う事を話してきた。快く受け入れてくれたから、今後はそこを使うべきだ。勿論だが、獣人たちで共有してくれ。町に住む獣人も居るだろう? そう言う人にも、頼るのであれば、南東にある店だと言う事を伝えて欲しい」
「南東か。あまり言った事がないな。だが、解った。その事は他の獣人にも知らせよう。情報感謝する。これで俺たちも、まともな生活を送れるようになるだろう」
「獣人がまともな生活を送るのには、それなりの金がかかるのか?」
「ああ、酷い所になると、宿代も倍以上になる。ここの村はそうではないから、利用させてもらっているが、野宿をしなければならない所もある。そういう所に限って、良い狩場だったりするからな。もう少し、いや、それも無理な話か。だが、これからはこの村に冒険者を連れてくることが出来るだろう。新人でも、ゴブリンくらいは何とかなる」
「それなんだが、東で狩りをするのであれば、ダストフロッグやダイヤウルフを狙わないのか? 後は氷雪コウモリも居るんだが、それは討伐対象になっている訳ではないのか?」
「いや、なっているが……。価格も良いし、弱いから倒しやすいのは知っている。ダイヤウルフは強敵だが、ダストフロッグは動きも鈍いし、足場さえ何とかなれば、狩りの相手にはなるだろう。足場が悪すぎて、どうにもならんのだ。氷雪コウモリも同じだな。足場が何とかなれば、巣まで行ける。巣まで行ければ、大量に狩ることが出来る。討伐対象としては美味しいが、足場が悪すぎて、動きにくいのだ」
「そうか。それなら良い道具がある。――これだ。俺は胴長って呼んでいるけどな。討伐の時は、基本的にこれを着ている。ダイヤウルフや氷雪コウモリの嚙みつき攻撃なら、これを履いていれば、殆ど怪我をしない。というか、ここの魔物であれば、大体の攻撃は防いでくれる。例外は北に出る、グラングレイズベアくらいだとは思う。それ以外の攻撃は弾いてくれる。しかも、これを履けば、沼地だろうがどんな地形だろうが、環境を無視して歩くことが出来る優れモノだ。……見た目は、珍妙だが、性能は抜群だ。これを作る素材はある。後はある程度の採寸をすれば、作ることは可能だ。金もそこまで要求される様な物でもない。そうだな……、銀貨30枚と言ったところか。Cランク冒険者であれば、支払えない訳ではないとは思う。これを着ていれば、防御面で心配する事は殆どないはずだ。作れと言われれば、4人分くらいは作ることが出来る。どうする?」
「……見た目は珍妙だが、狩りの効率を考えると、有用に思える。メガレードはどう思う?」
「着るべきじゃないか? 氷雪コウモリの巣を狙えるなら、その方が良いだろう。討伐で苦労する事はないし、そこまで強い魔物でもない。噛みつき攻撃さえ気を付ければ楽な相手だ」
「氷雪コウモリも相手にするのであれば、腕にも装備をした方が良いな。万が一腕が噛まれても良いようにしておくべきだと思う。――これだな。長手袋と呼んでいるが、これなら肩までの腕を守れる。これは両手で銀貨3枚だ。氷雪コウモリを相手にするなら、是非とも購入した方が良いな。安全性が段違いだ。それに、採取物を触るには、素手では駄目だ。氷雪コウモリの採取物は牙と魔石。特に牙は、冷気を纏っているからな。素手で確保する事は望ましくない。氷雪コウモリを狙うのであれば、長手袋も買った方が良いとは思う。費用はかかるが、直ぐに元は取れるだろう。氷雪コウモリの討伐報酬が幾らなのかは知らないが」
「氷雪コウモリは、1体あたり銅貨50枚だ。空を飛ぶからな。そこそこの値段で報酬が出る。6体も倒せれば、長手袋の元は取れる」
「因みに、牙と魔石は買い取るからな。保存瓶に入れてくれれば、こっちである程度の金額で買い取ることが出来る。ダストフロッグは胃袋と魔石だ。魔石はどちらとも同じと思ってくれればいい。牙と胃袋を同じところに入れなければ、査定は出来る。胃袋は保存瓶で銀貨3枚。牙は銀貨4枚。魔石は銀貨2枚だ。そこそこ狩らないといけないとはいえ、元を取るのは簡単だとは思う」
「……そんなに高く買い取ってもらっていいのか?」
「いいも何も、適正価格だ。これを王都に輸送するだけでも、俺は大儲けできるくらいの金額でしかない。このくらいが普通だ。素材とはそれなりの値段がする物なんだ。解体なんてそこまで手間では無いだろう? なら、ついでに一仕事して、金を稼いだ方が良いとは思うぞ。錬金術師に聞けば、自分の活動エリアの魔物くらいは把握している。頼れるのであれば、頼ってくれればいい。こういうのは持ちつ持たれつだ。俺だって素材が手に入った方が嬉しいからな。売れるものが増える。頼まれれば、明日の朝までには作っておくが、どうする? 即金で頼みたい……というのが普通なんだが、別に後払いでも構いはしない。狩れば狩る程金になるんだ。後払いでも十分にお釣りは来る」
「後払いでも良いなら、後払いで頼む。俺たちが何処までやれるのかは未知数だがな」
「まあ、何とかなるだろう。後払いで良いなら、暫くは生活できる」
「だが、こういうもんは、さっさと支払っておくに限る。オーロンド、これで借金奴隷になるのは御免だからな?」
「当たり前だ。俺たちは借金奴隷になるつもりはねえよ。済まんが、後払いで4人分の胴長と長手袋を頼めるか?」
「任せておいてくれ。それと、後続にもこの話はしておいてくれると助かる。珍妙な装備ではあるが、性能は良いからな。それに、素材はダストフロッグの胃袋だ。それを採取してもらえば、こちらでも量産は可能だ。獣人が全部で何人いるのかは知らないが、全員分の装備を整えるのだって難しくはない。ああ、だが、使い終わったら、水で洗う事をおススメする。その方が長持ちはするからな。何にも耐久力がある。胴長にしても、長手袋にしても、ずっと使えるものではない。10年くらいしたら買い換えないといけない。洗わなければ、そのサイクルが早くなる。だから、洗う事をおススメする」
「解った。だが、10年も持つのか。それで銀貨33枚か。安いな」
「確かにな。普通の装備に比べると、耐久力が凄いな」
「鉄製の装備でも1年も使えばへたってくるからな。長持ちするならありがてえ」
鉄製の防具は、基本的に信用ならないからな。鍛冶師の腕が信用ならないと言っているんじゃない。鉄では限界があるっていいたいんだ。氷雪コウモリの牙でも、穴が空く可能性があるからな。鉄なんてそんなものだ。魔物相手には、そこまで有効な金属ではない。まあ、胴長にしても、体が凹む程度の事はするが。だからポーションは必須。その事を考えれば、鉄の装備の上に、胴長を着れば完璧である。伸縮は自在だからな。……見た目さえ良ければな。見た目が悪いのが何とも言えない。実用性が高いから、見た目には目を瞑って使うしかないんだけどな。俺は絶対に着るようにしているし。そりゃあ生存率の事を考えれば、着ないなんて選択肢はないからな。
「それと、その辺で採取も忘れないでしてくれよ。保存瓶も幾つかは持っていくんだろう? 出来るだけ高い素材を取ってきてくれると助かるんだ。まあ、安い素材でも、それなりに役には立つんだけどな。素材は幾らあっても構わない。どんどんと採取もしてくれ」
「ああ、任せておけ。……それと、町に帰ったら暫くは来れないかもしれない。まずは獣人たちに話をする方が先だからな」
「俺たちだけが得をする訳にはいかねえからな。利益は全員でだ」
「そう言う訳だから、魔法が使えるようになったら、一度町に帰る」
「まあ、次に来るときは、他の獣人の冒険者も連れてくるからな。纏めて面倒を見てくれると助かるって訳だ」
「ああ、その時は纏めて面倒を見てやるから安心しろ。それと、名前を教えてくれるか? 俺はサンルーグ。しがない錬金術師だ」
「リーダーのオーロンドだ。こっちこそ、よろしく頼むぜ」
「メガレードだ。よろしくな」
「サイモンという」
「クレスだ。出来れば長い付き合いにしたいぜ」
「こちらこそ、色んな素材を届けてくれることを願っている。それと、実力がAランククラスになってきたら、こっちも頼みたいことがあるんだ。是非ともそのくらいのランクになってくれ」
亡者の鉱山都市ベルンケラーに向かって欲しいからな。師匠の件もある。早々に師匠が酒をくれと言ってくることは無いとは思うが、早いに越したことはない。出来るだけ早くに、ベルンケラーまで行ける人材が欲しい所なんだよ。こっちだって頼みたいことがあるのは一緒だ。両者両得の関係で居られれば良いなとは思う。その為には、パーティー1つじゃ足りない。少なくとも5パーティーくらいで行動してくれないといけない。それだけの実力者を揃えないと、遠征は難しいんだ。俺1人だけなら、何とか日帰りで帰ってこられるとは思うが、向こうを拠点にしながら、大量の採取物を手に入れるには、やはりというか、時間が足りないからな。無限に採取するべきものがあるんだ。5パーティーくらいは欲しいと思うのが普通だからな。
そんな感じで、情報交換を行った。情報は武器でもある。知らないと損する事は多いんだ。今回の事にしてもそうだ。テッケルンの情報が無ければ、解らない事も多くあったはず。まともな錬金術師の店があっただけでもマシな事だと思った方が良いんだろうな。1つも無かった可能性がある。何というか、もうちょっと何とかしないといけないとは思うんだけどな。貴族の事に首を出しても仕方がない事ではあるんだけど。出来ることと出来ないことがあるからな。貴族関係の事は、出来ない事だ。俺程度ではどうしようもない。何もできない訳ではないが、関わったところで、変わるとも思えないんだよ。関わっても得になることが少ないと思うんだよな。
今回のように、獣人たちに恩を売るというか、関係を密にすることは利益になるからするんだけど。獣人たちの横の繋がりを軽視できないからな。獣人たちが何もかも出来るようになるには、時間がかかるだろう。それも膨大な時間が必要なんだ。獣人たちのコミュニティに口を出せたのは大きいけどな。こっちから歩み寄っても駄目な場合もあるんだよ。向こうが完全に他種族不信に陥っていたら終わりだからな。今回の獣人は話が出来ただけマシだとは思う。まあ、貴族に対しては、かなりの不信を持つようにはなったと思うが、貴族はそんな事を気にしないだろうからな。どうせ何も考えていないはずだ。
さて、明日からも忙しくなるし、今日中に胴長と長手袋を作ってしまわないといけない。ちょっと小さめくらいで良いんだよ。どうせかなり伸びるんだからな。太ってきても大丈夫なようになっている。太っているから着られないというものではないんだよな。ただ、獣人用だから、俺よりも少しばかり大きめに作らないといけないとは思うけど。
さて、作ってしまおうか。必要なのは、ダストフロッグの胃袋と、4大属性の魔石だ。反転のユニークスキルも利用しつつ、4大属性の魔石を作ってしまう。……素材を魔石にするのは、勿体ないんだけどな。師匠の秘術である、無属性の魔石の生成が出来なければ、かなり損をしているとは思う。なんだかんだと師匠の秘術には助けられているな。何で秘術ばかり持っているんだって思ったが、3賢という二つ名があるなら、納得なのか? よく解らない師匠ではあるんだけど。
そんな訳で、素材を属性魔石と無属性の魔石に分けて作り、ダストフロッグの胃袋と一緒に錬金をする。錬金術もイメージが大切だからな。どういうものを作りたいか。具体的なイメージがあった方が良いものが作れる。これは魔法に通じるものがあるんだよな。イメージして、魔力を使って、素材を変化させるんだ。プロセスは魔法と同じような感じなんだよ。まあ、魔法よりも幾らかは簡単だけどな。魔力を自動的に吸い上げてくれるから。錬金釜がそう言う感じなんだよ。まあ、この錬金釜は、管理魔石から魔力を供給されているので、そう言った事はしなくても良いんだが。……よし。良い感じのものが作れたな。後は全員分を用意するだけだ。明日には用意しておかないと。出来るだけ稼いでもらわないといけないからな。そうじゃないと、俺が錬金術で稼げない。錬金術の道具を売るのだって、立派な仕事なんだから。まあ、お金には困っていないけど、お金を稼がないといけないのは本当の事だかな。
次の更新予定
反転の錬金術師 ルケア @rukea
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。反転の錬金術師の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます