第5話

 はい!また一年たちましたー!

 一年で大概効果が出てきますね!

 詩風の修行でずいぶん強くなりました!

 ヴァンも頑張ったよー?


 ……。


 詩風の真似をしてみた。

 師匠にこのテンションで話しかけたら、全然似てないって笑われてしまった。

 結構自信あったのに……。


 兎に角、一年間詩風の修行を行って、マーキュリアの壁も切り続けて一年前以上に強くなった。


 詩風の攻撃を12連撃まで対処できるようになった。

 途中、対処をするのが難しくなってきたので、師匠にアドバイスを求めれば、


 「よけれないって?じゃあ避けようとするんじゃなくて、受け流しでもしてみたらどうだ?」


 と、言われたので剣を使って受け流すようにしてみた。


 初めやった時は

 へたくそ過ぎて


 「え~?わざわざ剣を持ち出してきたのに、対処できる量減ってるよ?やめとけば?」


 と、詩風に言われてしまった。

 ずいぶん小馬鹿にした感じだったので、何とかものにしようと、師匠に手伝ってもらったりしたのだ。


 かなり上達したよ。

 その甲斐あって、最終的に対処できる量が増えたし、攻撃の察知も、対処もできるようになったので、強くなったと言えるだろう。


 また、剣も重いものに変えてもらって、素振りの強度も上げた。

 どうやら、師匠的にはここまで負荷を上げられるというのは想定以上だったらしい。剣が軽いと言って驚かれてしまった。


 そうして続けていけば、三月たったころには、二枚目を切ることができ、そこから5ヵ月たって三枚目を切れるようになった。


 そして今日も、いつもの日課をこなして、泉へ行くところだ。

 ちなみに、三枚目を切れるようになったころから、


 「お前結構強くなったし、もっと上を目指すためにもしばらく自分で試行錯誤してみな」


 と、言われ、師匠は着いてこないことになった。


 しかし、朝に見る師匠は、今まで以上に気合を入れて素振りをしている。

 こないだ、黒く光る樹皮を持った大樹を一息に切っていた。

 音もなく、素振りと何ら変わらないように切っていたが物凄い気迫だった。


 試しに切ってみれば、樹とは思えないガキンッといった音がなって、全く傷をつけられることもなく弾かれてしまった。


 師匠の強さを再確認したね。強すぎ……。


 まぁそんなわけで、一人で森を駆け抜ける。

 慣れたものでスピードは手加減師匠くらいにはあるだろう。


 走っていると、横から声をかけられる。


 『ヴァンディールさん!今日も修行ですか?』


 ちっちゃな、体の男の子が話しかけてくる。

 赤い帽子に、麻でできた服をまとっていて、可愛らしい。


 「そうだよ。こんにちは、ユーリ君」


 この子はユーリ君。

 リプロの食材の秘密というのが、この子たち『ノーム』といって、土の精霊である。六か月ほど前に、たまたま食材を運んでいたところに出会って、ユーリ君とは仲良くなった。

 たまに、土の精霊の力を使って、修行を手伝ってもらっていたりする。


 基本的には、物静かで遠くから眺めているだけなのだが……。


 「話しかけてくるなんて珍しいね。今日はどうしたの?」


 『あッ―――そうなんです!今、人が入ってきてコボルドさんたちが戦ってるんです!男の人が一人と、女の人が三人で、えすきゅうぼうけんしゃ?って言ってました!』


 「なんだって?」


 この森は魔国の端っこ、人の国との境にある。

 帝国での記憶によれば、S級冒険者というのは冒険者の一番上のランクであり、何か他の人間よりも大幅に秀でている証だ。

 魔物の討伐さつがいを行う者も多いと言っていたが、ここまで来るとは。


 「それで、コボルドたちに被害は?」


 『襲撃されてから、すぐに助けを呼びに行ったので分からないんですけど、人間のほうは結構強そうでした!』


 「わかった。すぐ行くから案内してくれ」


 『こっちです!』という案内に従って、走り出す。


 走るにつれて、風が騒めいてるのがわかる。

 また、剣戟の音も次第に大きくなってくる。


 これは急がなくてはッ―――


 『先、潜っていっちゃいますね!』


 土精霊のノームは、『土の魔法』によって、地面を潜って、高速で移動することができる。

 これは師匠の本気の走りぐらいのスピードで、さすがに勝てない。


 ―――見えてきた!


 「クソッ!この土精霊ノーム強いぞ!アリス!カバーしろ」


 「はい!もちろん、貴方様の為ならば!」


 男の声と、女の声が聞こえる。

 ずいぶん、女の方は男に好感を抱いていそうだな。声からでも好いているのがわかる。


 そこには、コボルドを守りながら、岩を生成したり、石の礫を打ち込んだりしているユーリがいた。相手の方は、男と女が一人ずつ剣を持っていて、後ろに、ローブを付けた体格的に女であろう人間と、弓を持った女が立っている。


 さすがに精霊だ。四対一でコボルドを守りながらでもしっかり戦えている。

 男の方は俺を見つけると、叫んだ。


 「おい!お前冒険者だな!手伝え!俺らはS級パーティの『雷月花』だぞ!冒険者は互助が基本だろ!」


 雷月花?帝国では聞いたことのないパーティだ。

 まぁ知ってたところで何か変わるわけはないんだがな。

 

 その言葉を無視して、コボルドたちに被害を尋ねると、


 「4人やられました。ツジとミミとナナ、それとアケビが……」


 全員、たまに話すことがある仲だった。昨日もアケビとは話したと思う。

 なぜに、人間は同じように感情があるこの子たちを殺そうとするのか。森にいるだけで、特に何もしていないだろうに。


 俺は何も言わず、後ろの女へ切りかかる。

 まぁ木刀だ。気絶ぐらいにはおさめられる。

 別に無駄に殺しをしたいわけではないからな。


 「おまえ!何してやがる!魔物に味方するっていうのか!?」


 ローブの中から、驚きの顔が覗く。

 まあ強いらしいから、本気で切ってもいいだろう。


 手心を加えて、腕の部分を狙って振り下ろせば、悲鳴が上がる。

 狙った腕は、きれいに切り落とせてしまっていた。

 切断面から血が滴る。


 やっべ、思ってた以上に簡単に切れてしまった。

 いきなり、頭に切りかからなくて良かった。


 優しく、頭を殴って気絶させる。


 

 視界の端に、矢が入ってくるが、風の流れで分かっていたので木の部分をつかんで、矢を折る。

 また、一息に近づいて、同じように優しく殴って気絶させる。


 一瞬のうちに二対二の構図に持ち込まれ焦ったのか、男が叫びだす。


 「この人でなしがぁ!!!お前これから死ぬが文句言うんじゃねぇぞ!【魅了強化チャームバフ】だ!アリス!殺っちまいな」


 「わかりました。あなた申し訳ありませんが殺らせて頂きますね」


 アリスと呼ばれた女が切りかかってくるが、肩を上げ、随分腹が隙だらけで、強いとは思えない。

 だけど男の方が【魅了強化チャームバフ】と男が言ってから動きが良くなっている。魅了だと?まさかこいつ、女を無理やり従わせている?


 優しく、女の剣を受け流してから、剣を蹴って手元から離れさせる。

 

 「ユーリ君、この人拘束して!」


 『わかりました!』


 土が盛り上がり、女の足を覆うと硬質化した。

 

 俺とユーリが女を無力化しているうちに男の方は「【魅了転移チャームテレポート】」と言って、気絶させた女二人を連れて、消えていった。

 消える際に、「裏切者がっ!このことはギルドに報告させてもらうからな!」

 と言っていたので、俺がこの森にいることは知れ渡ってしまったと見ていいだろう。


 『コボルドさんたち大丈夫ですかね?犠牲が出ちゃいました……来るのが遅かったですかね』


 「いや、最高速だったと思うよ。そんなに気に病む必要はないよ。俺が謝ってくるよ」


 コボルドたちに話しかけて、頭を下げると慌てて俺に頭を上げるように言う。

 だとしても、四人も亡くなってしまえば生活も変わる部分があるだろう。

 もう少し、師匠ぐらい足が速ければ……。




 「じゃあ俺は泉に向かうから」


 『わかりました。僕はこの女の人を、リプロさんのとこに連れていきますね』


 結局男においていかれてしまった女は俺らが、引き取ることになった。

 意識が戻ってから、いろいろ話を聞くつもりだ。

 何か、情報が増えるといいのだが。


 その日も、結局四枚目を切ることは叶わず、詩風の攻撃を捌ける量も増やせなかったが、実戦を経験できたのは大きかっただろう。

 結局夜になっても、女が起きることはなかったので、俺はその日を終えた。

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