スレ番42―勝色の鍛錬―

スレ番42の潤朱色の初戦

 初めてのダンジョンは薄明るかった。

 晴れた昼間の野外ほどの明るさはなかったが、雨の日の室内程度の明るさはある。

 床は今のところ平坦で道幅も5m程度はあり、特に足場が悪いといったところはない。

 天井も5m程度の高さはあったので、とりあえず得物は槍で問題なさそうだ。

 少し警戒しながらも100m程度歩き、T字路に差し掛かったところで、路の影から何かが飛び出してきた。


 それは青い国民的雫型青スライムだった。

 大抵の日本国民にスライムといえばコレ! という共通認識を植え付けたデザインの、あのモンスターだ。

 引きこもり中に腐るほどあった時間に飽かせ、メジャーどころのRPGをやっていたためか、現実で実物を見ると、やはり感慨深い。


 ただ、いくら可愛くても、ぷるぷるしていても敵は敵。

 心を鬼にしてスライムに槍を刺す。

 寒天をフォークで刺したような感触が一瞬したかと思ったら、すぐにスライムは光るモザイクエフェクトになり、消えていった。何か落としていくということも特にない。

 

 ダンジョン内の初めての戦闘は呆気なく終了した。

 青いヤツは仲間にしなければ、ゲーム内でも最弱のモンスターだから、こんなものなのかも知れない。

 

 一旦、入口間際まで戻りステータス画面を開き、保有EXPがいくら増えたのか確認する。


 保有EXP 2……まぁ予想はしていた。


 あれは弱いし、ゲーム始めたばかりでも、何匹か倒さないとLV2にならなかったからな。

 スライムの獲得EXPが2だっただけまだマシなのかも知れない。オリジナル版だと獲得EXP1だからな。


 とはいえスライムだけ倒していたのでは埒が明かない。

 再度、スライムが出現した場所まで歩を進めることにした。


 T字路に差し掛かっても、今度は敵の気配はない。

 角を右に曲がったところで、ポケットから紙を取り出し、行程をメモ、簡易的な地図も書き始める。

 メモを終え2〜3分歩いたところで、路の奥に敵の姿が小さく見えた。

 こちらに気づいたようで、早足程度の速度で向かってくる。

 目視で出来るまで敵が近づいてくると、敵モンスターが何であるかが分かる。


 またスライムだ、今度は悪魔を仲魔に出来るゲームのスライムだ。

 正直いって可愛くないし、不気味だし、ドロドロしている。

 国民的青スライムより、好戦的のようにもみえる。

 そして何よりこのゲームのスライムは思ってるほど雑魚敵ではない。

 雑魚なのは確かだが、雑魚界のヒエラルキーの中では中位から上の下程度の強さは持っている。

 心して戦わねば……


 先手必勝とばかりに、スライムが間合いに入った瞬間に槍を突き刺した。

 先ほどのように一撃では倒せない。倒せないのであれば、一度距離を置くべきだ。一旦、槍の間合いの外へ逃げる。

 鑑定しようと思ったが、敵との戦いに慣れていない今、スライムから一瞬でも目線を切るのは怖かった。


 気を取り直してもう一度、スライムに槍を突き立てる。

 突き立てるのには成功し、すぐに槍を抜き離れようとした。 

 しかし、スライムの体が初めに突き立てた時より粘度が増したようで、抜くのに手間取ってしまう。


 その隙にスライムは腕のような触手を槍を伝い伸ばし、槍を握る左手に触れてきた。

 ただ触れるだけなのに、左手から何かが吸い取られる感覚がする。未知の感覚に驚き、思わず槍を振り回し遠心力でスライムを槍から振り払った。


 それは偶然だったが、スライムは壁に叩き付けられ動きを止めた。隙を見逃さず、3度目の正直とばかりに、槍を突き刺したところで、スライムはエフェクトになって消える。


 敵に初めて攻撃された衝撃を心に抱えたまま先を目指すのは自殺行為に近い。

 臆病者だといわれようが関係ない。そう思って外を目指し、入口まで戻った。

 

 外に出ると、アイテムボックスに槍をしまい、入っていたSUVを出し、その中に積んであったペットボトルの水を取り出し飲むんだ。

 やっとひと息つくと、ステータス画面でHPを確認する。


**********************

HP  496

MP 1500

**********************


 HPが4ほど減っている。どうやら、あの触られた感触はスライムによる攻撃だったようだ。

 最大HPから考えると、大騒ぎするほどのダメージ量ではないし、特に状態異常なども引き起こしてもいない。

 そのことにホッとするが、こんな微少なダメージにも衝撃を受けた事実に、思っていた以上に平和ボケしていたのだと少し呆れてしまった。

 いくらスキルに守られているとはいえ、本人の心根がこんなでは、ダンジョンでは命取りだ。

 気持ちを引き締めつつ、今度は保有経験値を確認した。


 これで獲得経験値が少なかったら、目も当てられないな……


**********************

保有EXP 338

**********************

 

 思わず二度見した、明らかにEXPが多すぎる。

 その前に国民的青スライムを倒しているので、その分のEXPを差し引いても336があのスライムから獲得したEXPとなる。


 冷静になった今の判断力で考えるなら、女神が転生なゲームのスライムの強さは、弱くはないが強くもないといったところだ。

 油断しなければ問題ないというレベルである。

 そんな程度の強さのモンスターから獲得するには明らかに多すぎるEXP。

 

 そういえばステータスの共通UI部分にモンスター辞典があったはず。

 そう思い出し、ステータス画面のモンスター辞典を開く。

 その中の女神が転生なゲーム欄にあのスライムの情報が載っていた。

 他モンスターの項目だろう箇所は「???」になっているので、敵と戦闘になるとか、倒したりすると情報が解禁されると思われる。


 情報によると、スライムに触れられた際に感じた感覚は、やはり攻撃だったようで「デスタッチ」というHPを吸う攻撃だそうだ、威力は30。

 また基本経験値は42とのこと。

 どちらの値もこちらのダメージ量や獲得EXPとは違う。

 このことから、何らかの計算式によって敵の攻撃が処理され、こちらへのダメージ量や貰えるEXPに反映されていると思われる。

 その辺りの計算式はモンスター辞典にも載っていない。


 こんなことになるなら、ステータス画面のデフォルト設定に採用されるゲームの攻略本だけでも買っておくのだった。

 あのお方はちゃんとヒントを出して下さっていたというのに、こちらの考えが至らないばかりに、それを見逃してしまったのだ。


 アイテムもデフォルト設定に採用したゲームタイトルのものが落ちるということを、明示していたではないか……

 そこから敵モンスターも、ステータスのデフォルト設定に採用されたゲームから出ると類推出来たはずなのだ。

 今から戻って攻略本を買い直すのは現実的ではないので、悔しいが諦めるしかない。

 

 ある程度の情報はネットにも落ちているはず……

 そう思い直し、アイテムボックスからスマホを取り出し、ダメージ量と経験値の計算式について調べるのだった。

 

 調べて分かったのは、魔法攻撃に関しては「攻撃側の魔法威力×魔法固有の威力」÷「防御側の魔法威力+(敵防御/8)」で計算されているらしいということ。

 またEXPについては、敵とこちらのレベル差によって、獲得EXPに加算・減算がされるらしい。

 どちら「らしい」という推測の域をでないのは、女神が転生なゲームはシリーズがたくさん出ており、ゲームタイトルによって若干計算式が違ったりするので、確実なことがいいきれないのだ。

 それでも全体的な傾向として、魔法攻撃は攻撃側の力量÷防御側の力量で処理されるし、経験値に関しては敵とのレベル差が獲得EXPに影響する。

 

 ということは女神が転生なシリーズの敵というのは、レベルがないこちらから見ると、EXP獲得効率的に物凄く美味しいのではないか?

 あのスライムでこの獲得EXPだ。今回の戦闘でダメージを受けはしたが、EXP獲得効率からみれば微々たるものだ。

 他にも攻撃方法があるだろうが、今回の攻撃よりも桁外れに強力なものがあるとも思えない。

 また、スライムとの戦いにより、1回の攻撃で槍が与えるダメージ量が、ある程度分かったのもリスク管理する上では大きい。

 辞典の情報から、スライムのHPは52だと分かった。

 槍の攻撃3回と叩き付け1回でスライムを倒したが、その間に「デスタッチ」で4HP吸われている。

 このことから、槍の攻撃力は15〜20の間くらいだと予想される。

 女神が転生なシリーズのスライム相手なら、今の強さでも充分な安全マージンを取っているといえるし、国民的青スライムのタイトルなら、もっと安心して敵と戦えるだろう。


 そうと分かれば、しばらくは女神が転生なシリーズの敵に照準を合わせて狩りまくろう。

 もちろん他ゲームの敵が出てきたらそれも倒す。

 敵が落とすアイテムも積極的に拾って行こう。

 

 調べている間にHPも全快したし、もう一度ダンジョンに入ろう。

 そしてある程度EXPを貯め、投資で能力値を増やすのだ。

 そうと決まれば、車と水をアイテムボックスにしまい、気合いを入れるため、両手で両頬を2度ほど軽く叩く。

 そして槍を取り出すと、再びダンジョン内へと向かった。

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